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※『それではおやすみなさい』続編。


兄貴は滅多に酒に酔わない。そういう訓練をしたのか、元々そういう体質なのかは知らない。けれどそのおかげで、酒の席で兄貴が失言をすることも誤った行動もすることはない。

けれど兄貴は酒に酔わないだけで、その酒に変なものが混入していたら流石に不味い。そのため、俺は兄貴の口に変なものが入らないように、常に注意をしている。


今日兄貴とやってきたバーには、バーボンとスコッチがいる。酒の席のバーボンはちょっぴり苦手だ。兄貴にぐいぐい来るし、俺にもぐいぐい来る。

カウンター席に座った兄貴が度数の強い酒を頼み、俺はバーテンダーが妙なものを入れないように注意深く見つめる。本当なら毒見をしたって良いのに、それは兄貴から止められている。もしかすると俺を気遣ってくれているのかもしれないと思うと心が温かくなる。


「おやウォッカ、貴方今日は飲まないんですか?」

まるでそれが自然の流れのように右隣の椅子に腰かけたバーボンは、小さく微笑みながらノンアルコールのカクテルしか入っていないグラスを指す。

ただ甘いばかりのそれを一口飲んで「今日この後運転だからな」と言えば、ちょっぴり微妙な顔をされた。


「ははっ!犯罪組織の幹部が飲酒運転気にしてるのか?」

別の席で先程までバーボンと一緒に呑んでいたスコッチが可笑しそうに笑いながら近づいてくる。

少し騒がしくなってしまったせいで兄貴の眉間に皺が寄った。

兄貴は俺がバーボンとスコッチ、今は此処にいないライと喋ると、高確率で不機嫌になる。俺がうっかり情報を落とさないか心配しているのかもしれない。俺も十分気を付けているつもりだけれど、もしうっかり何かを離してしまいそうな場合は撃ってでも止めて欲しい。


「俺一人なら良いが、兄貴にもしものことがあったら大変だろ」

「・・・貴方、相変わらずジン中心ですね」

呆れたバーボンと苦笑するスコッチ。兄貴の眉間の皺は少し減った。

俺が兄貴中心なのは当たり前だ。だって俺は、俺自身を全て兄貴に捧げていると言っても過言ではないぐらい兄貴を信頼しているのだから。

兄貴も俺の全てを受け入れ使ってくれると信じている。


「運転なら、誰か適当な構成員を呼べばいいだろ?」

「兄貴の命を預かるんだ。運転は俺がする」

筋金入りだな、とスコッチは笑って俺の肩を叩く。こういう気安さと親しみやすさは裏の人間っぽくないが、狙撃の時は実に楽しそうにヘッドショットをキメるため、この人の好い笑顔はスコッチの持つ側面の一つでしかないのだろう。


「・・・そういえば聞きましたよ、ウォッカ。貴方最近、軍事機器の操作を勉強しているそうですね」

流石は『探り屋バーボン』だな、と思わず感嘆の声を上げてしまう。

「耳が早いなバーボン。兄貴が乗ることになりそうな乗り物は全部操作できるようになりたいんだ」

「・・・オスプレイに乗る機会なんてありますかね」

バーボンの言葉にスコッチがぎょっとして「え、ウォッカってオスプレイ操縦できんの!?」と声を上げた。

当初は戦車か戦闘機ぐらいにしておこうかと思ったけれど、やっぱり知っておくにこしたことはないだろうといろんな乗り物を学んでいるうちに、オスプレイの操縦まで習得してしまった。兄貴には習得記念に酒を貰った。貰ったお酒のジンは、飲むのが勿体なさ過ぎてよく使うセーフハウスの寝室に飾っている。


「へぇー!ウォッカって意外に有能だよなぁ。サポート特化型っつぅの?なぁ、今度俺にもいろいろ教えてくれよ」

スコッチがずいっと俺に近づいて、にこっと笑う。

別に教えてやっても構わないけれど、常に兄貴と一緒に行動しているため、まとまった時間を作るのは難しそうだ。俺も、スコッチとの約束より兄貴の命令を優先するし。


「ウォッカ」


「へい、兄貴」

席を立った兄貴の呼び声で俺は残りのノンアルコールカクテルを一気に飲み干し立ち上がる。

「悪いなスコッチ、教えてやってもいいが、そういう時間が取れるとは限らねぇ」

「あー、うん。言ってみただけだ。でも、時間が出来たらその時は教えてくれ」

へらへら笑って手を振るスコッチに手を振り返そうとすると「ウォッカ」とまた呼ばれた。おっと、兄貴を待たせたら大変だ。スコッチにもバーボンにも悪いが、此処は急いでバーから出なければ。


二人を残して兄貴と共にバーを出ると、兄貴が「帰るぞ」と車を停めた場所に向かって歩き出す。俺だけ車を取りに行って兄貴を迎えに行くことも提案したが、結局は一緒に歩いて向かうことになった。

兄貴がプレゼントしてくれた車の助手席を開いて兄貴に乗り込んでもらい、俺は運転席へと座る。

「兄貴、今日はこのまま帰りますか?」

「あぁ、そうしろ」

エンジンをかけそのまま一番近いセーフハウスへと向かう。

「兄貴、寝てしまっても構いやせんよ」

「・・・あぁ」

人目がある場所ではどんなに酒を飲んでもしゃきっとしている兄貴が、俺と二人きりになると少し気を抜いてみるその姿が、信頼の証のような堪らなく嬉しい。

口元についつい笑みが浮かぶのを関しながら、俺は鼻歌交じりにセーフハウスまで運転をした。


セーフハウス傍の駐車場に車を止め、助手席の扉を開ける。

少し眠そうな兄貴を連れてセーフハウスまで来れば、兄貴は小さく「風呂」と言った。

「途中で寝ないでくださいね」

「・・・あぁ」

あまり自信はないのか返事が遅れた兄貴を連れて脱衣所へと向かう。

酒が入っている状態での入浴はアルコールの回りを良くしてしまうため、シャワーで簡単に済ませるのが一番だ。浴槽に湯は張らず、バスチェアに座って貰い背中を流し、髪を洗った。

この時点で既に殆ど寝てしまっている兄貴に「兄貴、もうちょっと頑張ってください」と言えば兄貴が唸るように「うーん」と返事をした。

この緩さが信頼の証。俺の笑顔は止まらない。


「風呂から上がったら、アイスでも食べましょう。この間買っておいたのがあるんで」

風呂上りの冷たいアイスは美味しい。アイスを食べながらソファでゆっくりして貰って、それから温かな布団でゆっくりと眠って貰おう。

洗いあげた兄貴に上がりましょうと言っても、立ち上がるのが億劫なのかなかなか動いてくれない。最終的にこちらに腕を伸ばしてきた兄貴を抱き上げることになってしまった。

まぁ兄貴を抱き上げることなんてよくあることだし、慣れた手つきで兄貴の身体を拭いて服を着せ、ソファまで運ぶ。

カップアイスを兄貴に渡し自分は兄貴の髪を乾かし始めれば、兄貴から「おい」と呼びかけられ、アイスが掬われたスプーンが差し出された。どうやら一口くれるらしい。

幸せに頬を緩ませながらそのスプーンからアイスを貰うと、兄貴は何事もなかったかのように再びアイスを食べ始めた。


「兄貴、明日は昼間の仕事がありやせんし、夜までゆっくりできやすね」

「あぁ・・・」

「昼までベッドの上でごろごろしててもいいですよ。おなかがすいたら、俺が何か作りやすんで。何か食べたいものは?」

「・・・お前が作るなら、何でも」

「じゃぁこの間兄貴が買ってくれた製麺機でパスタでも作りやしょうか!」

実は使う機会を今か今かと待っていたのだという意思を込めて力強く言えば、兄貴はこくりと頷いてくれた。

アイスを食べ終わったらしい兄貴から空のカップとスプーンを受け取り、キッチンの流しに置いて水を流す。

再びソファに戻れば兄貴がこちらに腕を伸ばしてきた。

咄嗟に抱きとめて「もう寝やすか?と問えば、俺の胸にぐりぐりと顔を擦り付けた兄貴がこくりと頷く。

兄貴を抱き上げ、寝室へと向かう。


「パスタ、何パスタにしましょうか。考えておいてくだせぇ、兄貴」

「・・・ん」

抱きかかえた兄貴をゆっくりベッドへ降ろす。何時もの通り首に腕が回り、お前も寝ろとベッドへ引き込まれる。

「兄貴、何かして欲しいことはありやせんか?明日折角時間がありやすし、何でも言ってくだせぇ」

「・・・黙って、傍にいろ」

抱き着いたままの兄貴がすりすりと頬ずりをしてきて、俺は笑顔で「はい」と返事をした。


明日は夜仕事の時間になるまで、目いっぱい兄貴の世話を焼こう。俺が兄貴の世話を焼くことが好きなことは兄貴も十分わかっているから、きっと受け入れてくれるだろう。

兄貴自身のことを俺に全て任せてくれる兄貴は、やっぱり俺のことを信頼してくれているんだな、とまた幸せな気持ちになった。




あしたがたのしみですね




「オスプレイかぁ・・・」

「いい加減立ち直ってください、スコッチ」

「いや、でも、うーん、オスプレイかぁ」

遠い目をしたスコッチと「どうせ使う機会なんてない技術ですよ」と吐き捨てるバーボンは知らない。それから数年後、ウォッカが見事オスプレイの操縦をこなすことになるなんて。




お相手:ジン
シチュエーション:DC短編の「それではおやすみなさい」の続編。ウォッカ成り代わり主にお世話されて甘えるジン

原作ウォッカが有能過ぎて・・・
世話を焼かせている時点で、それはもう全面的に信頼している証。
ウォッカ成代り主は毎日幸せ。
最近製麺機を兄貴からプレゼントされた。


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