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※主含め全員生まれ変わり。


俺には記憶がある。

誰にだって記憶はあるだろうが、俺の場合はただの記憶ではない。

俺の記憶は生まれる前、ずーっと前。前世の記憶だ。

記憶の中の世界は残酷だった。残酷だが、美しかった。特に美しかったものは・・・


『名前。手前には世界はどう見える』


兵長。リヴァイ兵士長。あの残酷にも美しき世界の中で最も輝いていた、俺の愛する人。

しかしながら、前世ではその気持ちを伝えることはなかった。

あの人は美しく強い人だった。そこに俺が介入することであの人の邪魔をしたくなかった。

・・・いや、それは建前だ。

本当は、想いを伝えて拒否されてしまうのが怖かったんだ。

そんな前世の臆病で情けない自分の最期は思い出せないが、特に気になったりはしない。リヴァイ兵長が自分より先に死んでしまったという記憶はないから、それだけで俺は満足だった。

今世にはリヴァイさんはいないものの、周囲にはちらほらと前世で見た顔を発見している。あちらは俺のことを覚えてはいないけれど、俺にとってはその方が楽だった。

・・・世界の何処かで、リヴァイさんも俺と同じように普通の人として過ごしているのだろうか。きっと俺のことなんて覚えてはいないだろうけれど、リヴァイさんが幸せに過ごしてくれていたらいいななんて思う。



「ただいま」

小さくそう呟きながら玄関の扉を開け、一歩足を踏み入れる。

両親共にそれぞれの職場に働きに出ているため、返事は返ってくるはずもない。

「おかえり!名前!」

しかし予想に反し、俺の言葉には返事があった。それと同時に叩き付けるような勢いで俺は声の主に抱き着かれる。

思わず小さく呻きながらも、自分の胸にぐりぐりと顔を寄せているその人の顔を見てつい苦笑い。


「・・・帰ってきてたんだ、姉さん」

現在実家から大学へ通っている俺には、既に結婚して家を出て行った姉が一人いる。

姉の名前はハンジ。前世の名前はハンジ・ゾエ。

前世では性別不詳と言われていた分隊長は、今世では紛うことなき女性になっていた。

物心つき、自分の姉がハンジさんだと知った時はそれはもう驚いたが、十年以上一緒に過ごせば流石に慣れる。前世と変わりなく突拍子もない行動や態度にも多少は慣れた。

「なになに、名前!その反応は!折角私が帰ってきたっていうのに!」

「あぁ、はいはい・・・元気にしてた?ハンジ姉さん」

むすっとしながら俺を見上げるハンジ姉さんにそう返せば、姉さんは一変して満面の笑みを浮かべた。表情がころころ変わるとことは昔から変わらない。

「元気だよ!だからもっと名前もハイテンションになろうよ!もぉ!昔っから名前は何か冷めてるんだもんなぁ!」

「ハンジ、名前くんが困っているだろう」

奥からやってきてポンッと姉さんの肩を叩いた長身の男性。

「おかえり、名前くん」

「ただいま、エルヴィン義兄さん。義兄さんも来てたんですね」

彼は姉さんの旦那さんのエルヴィン。前世の名前はエルヴィン・スミスだ。

まさか分隊長だけでなく団長まで身内になってしまうなんて、前世の俺が見たら卒倒してしまうことだろう。

因みにだが、ハンジ姉さんにもエルヴィン義兄さんにも前世の記憶はない。

俺が義兄さんと挨拶を交わしていると姉さんが俺から離れ「そうそう!実は今日は、名前に見せたいのがあるんだ!」と言って部屋の奥へと走っていく。

見せたいの?と首をかしげながら後を追えば、姉さんは「きっと、すっごく驚くよぉ!」と上機嫌な声を上げる。

前世同様、何故か巨人好きな姉さんのいう『凄く驚くもの』が巨人関連のグッズである気がしてならない。

巨人の人形とかだろうか?それとも、巨人について書かれた本とか?


俺よりも早くリビングに到着していた姉さんを見れば、姉さんは何かを背中に隠しながらにこにこ・・・いや、にやにやと笑っていた。

「見たい?見たいよね?」

「姉さん、もったいぶらないでよ・・・」

正直そんなに期待しないで待っていると、姉さんは「じゃじゃーん!」と言いながら『それ』否『その子』を前に出した。

満面の笑みを浮かべた姉さんと、足元の『その子』を見て絶句する俺。

微妙な空気に気付かず後からやってきた義兄さんが「驚いただろう」と笑う。確かに驚いたが、義兄さんの言う『驚き』と俺が感じた『驚き』は大分異なるだろう。


「息子のリヴァイだ。仲良くしてやってくれ」


リヴァイ兵長が、リヴァイさんがいる。小さい、まだ幼稚園にも入っていなさそうな小さな子供の姿の、リヴァイさんが俺を見上げている。

何も言わないというよりは何も言えずに固まっている俺の足元に、ゆっくりと近づいてくる幼児。

「名前」

その口からはっきりとした声で俺の名前が呼ばれ、思わずビクリと肩を震わせてしまった。

「な、名前・・・」

「驚いた?凄いんだよぉ、リヴァイは。前にちょっとだけアルバムを見せた時、写真に写ってた名前を見つけてさぁ。この人は名前おじさんだよーって教えたら、その後は何かある事に名前名前って言うの。私やエルヴィンのことを呼ぶよりも沢山なんだよ?」

「す、凄い・・・ね」

面白そうに語る姉さんには悪いが、俺はそれどころじゃない。

目の前にいるのは、紛れもなくリヴァイさんだろう。前世で兵士長として人々を率いた、俺の憧れで、何より愛してやまなかった人。


「名前」

「リヴァイー、念願の名前おじさんだよー!遊んで貰いなさい」

俺の名前を呼ぶリヴァイさんの背を姉さんが笑いながら押し出す。

ぴくりとも笑わず俺を見上げるリヴァイさんに緊張していると、リヴァイさんは再び「名前」と俺の名前を呼んだ。

思わず「は、はい」と返事をしてしまった俺を見て、姉さんが何やら爆笑している。子供相手に敬語を使う姿が可笑しいのかもしれない。


「ん」

「えっ、あ・・・」

リヴァイさんが俺に向かって手を伸ばしている。抱っこという意味だろうかと、俺は慌てて床に荷物を置いてからリヴァイさんを抱き上げる。

小さい。前世のリヴァイさんも俺より小さかったが、今はその比ではない。

小さくて暖かい、生命の塊。

「本当は生まれた時に連れて来たかったんだけどさぁー、エルヴィンと私の海外出張とかが重なったりいろいろあって、遅くなっちゃったぁ」

腕の中の温かな塊が俺をじっと見つめている。笑いながら説明する姉さんへの返事も「そ、そうなんだ」とおざなりになってしまう程、俺は緊張していた。

俺を見つめるその瞳が、怖いと感じてしまった。

何故か。それは、姉さんと義兄さんの大事な息子に今、俺は再び恋をしそうになっているのだから。

しかも前世のような淡い綺麗な恋心じゃない。それよりもずっと濃密で少し薄汚れた、独占欲にも似た、とてもじゃないが幼いリヴァイさんに向けていいような感情ではない。


「名前」

「はいっ」

「あははははっ、名前ったら何でさっきからそんなに畏まってるのさぁ!」

笑う姉さんを義兄さんが「こら、可哀相だろう」と窘めるのが聴こえる。

しばらく小さなリヴァイさんと見つめ合っていると、リヴァイさんの方に動きがあった。

きゅっと首に回された細くて小さな腕、急接近する顔。


「おれ、名前とけっこんしてやる」

ぷちゅっと可愛らしい音が聞こえた。


一瞬、時が止まる。

今の音は何処から?え?え?と混乱する俺と、爆笑する姉さん、そして咳払いをする義兄さん。

目の前には、子供にしてはやけに目つきの悪いリヴァイさんの顔があって、リヴァイさんは何処か真剣な顔をして口を開いた。

「ちかいのきすだ」

「ね、姉さん!?リヴァイ君に何を教えたんだっ!?」

ぎゃはぎゃはと笑い転げている姉さんを慌てて見る。すると腕の中から「おい、よそ見をするな」という声が聞こえた。姉さんが更に笑う。

「ははっ、あはっ、ひぃっ・・・な、何も教えてな、あははっ、ゲホッ、リヴァイったら、おえっ、きっと何処かで見たドラマのプロポーズシーンの、ごほぉっ!真似でもしてんじゃ、ないのぉ?」

苦しそうに咽る姉さんの背を義兄さんが慌てて擦り出す。

もう何が何だかわからない俺。腕の中のリヴァイさんが真っ直ぐ俺を見つめたままなのが居心地の悪さを演出する。

取りあえず、此処は大人の対応をするべきなのだろう。

「り、リヴァイ君、気持ちは嬉しいけど・・・」

気持ちは嬉しいけど?嬉しいに決まってる。正直な話、今頭の中は盆と正月が同時開催されているし、何なら脳内の自分は万歳三唱をしている。

あぁ、リヴァイさん、俺も大好きです、愛しています。ずっとずっと焦がれていたんです。貴方だけを愛していたいんです。

けれどもう、俺と貴方の間には時間が経ちすぎた。

こんなにも歳の差が離れて・・・しかも家族である姉さんの息子なんて・・・


「うれしいなら、いいじゃねぇか」

「そ、そうだけどねぇ・・・」

姉さん!笑ってないで助けて!!!!!義兄さん!微笑ましそうに見守らないで!!!!

「な、何で俺なのか聞いても良い、かな?」

ただの子供の言葉、そう割り切れれば良いのだけれど。

「ひとめみて、おまえしかいないとおもったからだ」

「ふぐぅっ」

思わずリヴァイさんを抱えたままその場にしゃがみ込む。姉さんが「我が子ながら男前だなぁ」なんて感想を述べている。

「名前、おまえはおれをみて、なにもかんじないのか」

「・・・う、運命を、感じています」

真っ直ぐ俺を見つめる瞳に嘘は吐けず、俺の口からは自然とそんな言葉が漏れ出ていた。


「じゃぁ、りょうおもいだな」

ぷちゅっと再び可愛らしい音と共にリヴァイさんの口付けを受けた俺は、放心状態のまま口から「ふぐぅ」と声にならない唸り声を一つ上げた。




とりあえず運命だと思う




「きょうからおれとおまえは、こんやくしゃだ、いいな」

「えっ」

「なにかもんくでもあんのか」

「い、いえ。あの、リヴァイ君、もしかしてだけど記憶・・・」

「なんのことだかわからないな」

いや、絶対覚えてますよねリヴァイさん。




お相手:進撃の巨人、リヴァイ兵長夢をお願いしたいです。

正規のリクエスト方法ではありませんでしたが、折角の10周年ですのでリクエストにカウントさせていただきました。


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