※微嫌われ復讐表現注意。
ざわざわと生徒たちがざわめき出す体育館。
正面のスクリーンには、今まで生徒たちが『悪』だと思っていたものが実はそうではなかったことがはっきりとわかる『証拠』が映し出されている。
逆に今まで『守るべき相手』だと思われていた生徒に向けて、他の生徒たちは疑惑の目を向ける。
スクリーンの横に立っているのは、そんな悪女の正体を皆に知らしめ、嵌められ虐められた可哀相な女子生徒を救った謎の転校生。
謎の転校生は言う。
「さぁ、貴女の悪事は全部皆に知れ渡っちゃったよ?どうするの?」
次第に悪女へ向けて生徒たちが罵声を浴びせはじめる。
今まで悪女を守っていた『騎士』たちは、自分たちの過ちに気付き顔を青褪めさせていた。
「何とか言ったらどうなの?―― お 姫 様 ? 」
謎の転校生・・・否、原作を知るトリップ少女は言う。
彼女の中には今、可哀相な女子生徒を救った達成感と、この後その場で地団駄を踏んで悔しがりその醜さを晒すであろう悪女に対する壮大なる優越感で満ちていた。
「・・・・・・」
悪女がゆっくりと口を開く。
全員が悪女の言葉を待った。彼女の口から出たのは・・・
「いやぁー、バレちゃったかぁ」
そんな、何処にも悔しさを滲ませていない、何処かおどけた様な言葉だった。
誰もが「は?」と口をぽかんと開いた。
「いやはや、まさかこんなところで大逆転されちゃうなんてねぇ!人生何があるかわかったもんじゃない。実に吃驚!奇想天外!吃驚仰天!」
あはははっと笑うその声は、スクリーンに映し出された時のような悪女染みたものではなく、何処か爽やかさを感じるものであった。
ぱちぱちとトリップ少女に称賛の拍手を送る悪女。
トリップ少女も唖然として言葉が出ない。
悪女な彼女が、その場を支配していた。
「まさかこんな子供だましな演技で騙せるかなぁって不安だったんだけど、案外皆簡単に騙されてくれちゃって、このままボンゴレ乗っ取るのも楽勝かなー?なんて思ってたんだけどねぇ。まさかのイレギュラー登場でどんでん返し!いやぁ、これには流石の僕ちゃんも驚いちゃったよ。やるねぇ、君。まぁ、僕ちゃんがちょっと手を抜いてあげたのもあるんだけどさぁ」
あははっと笑いながら言う彼女。いや・・・
「ま、男だけど女の子に変装しちゃってる僕ちゃんの美しさに皆が惚れ惚れしちゃってたのは本当なわけだし、僕ちゃん的には大収穫かなーって思う訳だよ。ほら、女装に対する自信が持てるっていうかさー?」
ね?と『彼』は頭に被せた目に痛いピンク色の『カツラ』を取った。
唖然とする周囲に見せつける様にソレをぽいっと捨てる彼は、にこにこ笑いながらピンクの下にあった綺麗な銀髪を手櫛で整えた。
「あ、もしかして展開についていけてない?駄目だなぁー、こういう時はよくわかってなくてもわかったフリするのがプロってもんでしょ?何のプロかって?あはっ、僕ちゃんもわかんなーい」
笑いながら、彼は悪女の騎士だった彼等の前へと行く。
「いやぁ、転校生ちゃんが登場してなかったら、君らボンゴレファミリーを全部乗っ取れたのに、残念だなぁ。残念無念また来週って感じ?ま、来週にはもう来ないけど」
あはっ!と彼の笑い声を黙って聞いていた彼等が困惑したような顔をする。
「姫乃ちゃん・・・?」
「ん?ひめのちゃん?あぁ、それ偽名偽名。うっそぴょーん!僕ちゃんの名前はそんなんじゃなくって名前!騙し屋名前とは僕のことだー!なんちゃって!」
「・・・騙し屋?」
唖然とする彼等に名前と名乗った彼は親切にも「教えてあげるよ」と口を開いた。
「騙し屋とは、表社会から裏社会、お客様のご要望に合わせた方法で標的を騙しちゃうスペシャリスト、イコール僕ちゃんのことでぇーす。ちなみに今回の依頼はボンゴレの乗っ取りだったんだけどさぁー。あ、依頼内容そう簡単にバラしちゃっても良いのかって?のーぷろぐれむ!この作戦考えた相手方も、バレたらネタ晴らししても良いよって言ってくれてるしね。僕ちゃんのお客さんは愉快な人が多いんだ。ま、もちろん顧客情報は教えてあげないけどね」
ぱちんっとウインクしながら彼は言う。
やっと正気に戻り始めていた彼等は、そんな彼をぎっと睨む。
「お前のせいで・・・」
「最低なのな」
「お前が現れなければ、何も起こらなかったのに!」
その言葉に名前は「んー?」と首をかしげる。
「君達は騙し涯のあるお馬鹿さん達だっただけだ。騙されなきゃ、あの子も君達に虐められずに済んだし、転校生ちゃんが溝鼠のようにこそこそ事件の全貌を嗅ぎまわったりしなくても済んだのにねぇ。いやはや、人生とは実に難しい」
「だ、騙したお前が何を・・・」
「次期ボンゴレ君。いくら僕ちゃんが親しみやすいからって、あまり勘違いはしない方が良いよ」
ぴりっと彼、ツナの頬を何か恐ろしいものが撫でた気がした。
それが殺気だと気付く頃には、他の一般生徒達は気を失い倒れていた。
「君、超直感持ってるよね?それ、お飾りだったね」
「っ・・・!!!」
「君も、実に騙しやすかったよ。隼人君助けてっ!って言えば、簡単にダイナマイトどーんってしてくれたし」
「なっ・・・」
「君も面白かったなぁ。一見僕ちゃんを守ってる感じだったけど、実際君、傷つけるの楽しんでたでしょー?怖いなぁ、腹黒くんは」
「・・・っ」
それぞれが言葉を無くす中「他の子たちも面白かった。実に愉快だった」と笑い、そして・・・
「時に転校生ちゃん」
「な、何・・・?」
自分が考えていた展開とは全く違うソレに、トリップ少女は困惑が隠せなかった。
こんなはずではなかった。この事件が解決すれば、今度は自分のが望むストーリーを作っていくつもりだった。
なのに、謎の『騙し屋』の登場。困惑しないはずがない。
「溝鼠のように頑張って嗅ぎまわってくれたところ悪いんだけど、君も気を付けた方が良いよー?」
「な、にを?」
「そりゃぁ・・・騙し屋さんのお仕事、邪魔しちゃったんだしさぁ?」
「ひッ!?」
殺気がぶわりと増す。がくがくと震えるトリップ少女に、名前はにっこりと笑った。
「僕ちゃんが『自分からは』何もしないよー。ただ、お客さんがご立腹かもしれないから、その時は“騙しちゃう”かもねぇ」
「っ、う・・・」
「あはっ!あははは・・・あははははははハハハはハハハははハハハははははははハはははハははははははハはははは――ッ!!!!!!」
体育館に狂ったように高らかな笑い声がした。
悪女の計画も壊れた。トリップ少女の計画もこれから壊れてしまうだろう。そうして、そうして・・・
「あはッ・・・はぁ、ふふっ。今回は難を逃れたボンゴレの皆さん・・・どうぞ『騙し屋』をご贔屓に」
元悪女はニヤニヤ笑いながら体育館を・・・並盛そのものから去って行った。
それゆけ騙し屋さん
偽りある所、騙し屋の影あり
お相手:お任せ
シチュエーション:ひと昔前に流行った嫌われ夢がいいです。でもただの嫌われ夢だとつまらないので、異音さんワールド全開で良い感じにして欲しいです。トリップ主とか傍観主とかが出てくるのもあり寄りのありです。
何とかトリップ主までは出せました。
異音さんワールド・・・なかなかのパワーワードだなと思いました。