×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






「やっ、初めまして」

そういって手を上げたのは、俺と同じぐらいの身長の女の子だった。

隣にいた先輩が「あ!名前くん!」と声を上げる。

・・・『くん』?聞き間違いか?


「あ!この人はね、名前くんって言うの。私の一つ上!」

「・・・くん?」

どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。

名前さんはにこにこと笑いながら先輩の頭を撫でて「久しぶりだねぇ、ぽぷらちゃん」と言った。

ん?女の子にしては若干声が低いかも。いや、違和感はないけど。


「こう見えて、名前くんは男の子なんだよ!」

「うん。本当は男なんだ、俺」

えへ☆と笑ったその人に「え゛っ」と声を上げて一歩下がる。

すると名前さんはケラケラ笑って「別に女装趣味があるわけじゃないよー」と言う。いやいや、その格好でどう信用しろと!


「今日は伊波ちゃんが来るからねぇ。それの予防策さ」

「へぇ・・・そうまでしないといけないのか・・・」

つい顔を引き攣らせると、名前さんは「いやいや」と首を振った。

「俺が特例なのさ。伊波ちゃんが男嫌いなの知ってたのに、無理にそれを治そうとしちゃって・・・余計に殴られるようになっちゃってねぇ。形だけでも女なら伊波ちゃんも殴ろうとはしないし」

あはははっと明るく笑っている名前さんだけど、事態は深刻だ!

・・・あまりに深刻化すると女装しなきゃいけなくなるのだろうか。いや、絶対そうはならないと思うけど。


「お、おはようございます」

伊波さんの声!

その瞬間、名前さんがピクッと反応して、その顔に満面の笑みを浮かべた。

「あっ!おっはよー、伊波ちゃん。今日も頑張ろうね!」

「名前さんっ!はい、頑張ります!」

・・・女の子だ。どっからどう見ても女の子だ!声もさっきより断然高くなってるし、何かきゃぴきゃぴしてる!

一通り名前さんが伊波さんの相手をしてくれていたおかげで、今の所俺への被害はなし、伊波さんが先輩とホールへ行くのを名前さんは「いってらっしゃーい」と笑顔で見送っていた。



「た、大変ですね、名前さん」

「ははっ。俺は割と女装が似合っちゃうみたいだからね。俺が女装するだけで仕事が上手く回るなら、それに越したことはないよ。小鳥遊くんが来てからは、もっと上手く回るようになったらしいね。有難う」

「〜〜〜っ!!!」

凄く良い人だ!女装していること以外、本当に良い人だ!!!!


「さてと!小鳥遊くん、俺達も仕事頑張ろうか!伊波さんのサポートは俺がやるから、小鳥遊くんは大船に乗ったつもりで仕事に専念してくれよ!」

わぁ・・・見た目女の子なのにそんな風に豪快に話されると、何かすっごい違和感・・・

名前さんは女の子の格好のままホールへと去って行き、俺もその後に続いてホールへ出た。

さっきの台詞通り、名前さんが伊波さんのサポートに回ってくれているおかげで客も上手くさばけているし、特に俺への被害が極端に少ない。

たった一人の犠牲でこんなにも仕事って上手く回るのか。

けど、それじゃ何だか名前さんが不憫っていうか・・・名前さんも好きで女装してるわけじゃないっぽいし。

そう思いながら休憩時間、名前さんがいないのを見計らって伊波さんへ近づいた。


「あの、伊波さ――」

次の瞬間バキッと殴り倒される。

「きゃっ!?小鳥遊くん!?」

「いてて・・・どーも」

殴られた部分を抑えつつ立ち上がる。今日はこれが初めてだな、殴られたの・・・

「な、何の用?」

「名前さんのことで・・・」

此処は一つ、しっかり言って置いた方が良いだろう。名前さんだって、伊波さんの男嫌いがどうにかなれば女装しなくても良くなるんだし。


「名前さん?」

「えぇ。伊波さん・・・伊波さんの男嫌いなせいで、名前さんが女装せざるを得なくなってしまっているのに、罪悪感とかないんですか?」

「え?女装?」

「え?」

ん?何で伊波さんがきょとんとしているんだ。

「・・・伊波さん、名前さんの性別、わかってますよね?」

恐る恐る尋ねてみる。

「え?名前さんって女の子だった、よね?あれ?違ったっけ?ん?」

ついに名前さんの性別すら曖昧になっている!!!!!!

「名前さんは男です!それも凄く良い人!」

「えっ!あ、そ、そうだった、かも・・・?」

「かもじゃない!列記とした男です!」

・・・いや、あの格好じゃ、生憎俺だって列記とした男とは思えないけど。


「で、でも、女の子の格好・・・」

「伊波さんと他の職員のためにやっているだけ!」

「そ、そういえば、初対面の時は男の人だったような・・・?」

もはやそのレベルまで名前さんのイメージは女になってしまっているのか。

「あっ、思い出したかも・・・私が此処のバイト始めた当初の教育係が男の名前さん?だったような・・・」

疑問形なのは、きっと途中から名前さんが女の子になっていたからだろう。

「もう、取りあえず殴るしかないって思ってたから、近づいてくる名前さんをそりゃもう思いっきり・・・」

「そのせいで名前さんは女装せざるを得なくなったんでしょうが!」

「えぇっ!け、けど、そのおかげで仕事は上手く回ってるし・・・」

「名前さんが犠牲になっているとは?」

「お、思うけど・・・けどぉっ」

半泣きになる伊波さん。・・・そんなに名前さんが男に戻るのが嫌か。

「今までずっと伊波さんをサポートしてきてくれたのは名前さんでしょう!そろそろ解放してあげないと!」

「そ、そう、だよね・・・う、うん!そうだよね!」

わかってくれたらしく、伊波さんは「名前さん!」と声を上げながら駆けて行った。

駆けて行った先には、佐藤さんと談笑する名前さんの姿が。・・・ぁ、佐藤さん逃げた。


「名前さんっ!ぁ、あの、今まで私のせいで・・・とても苦労かけてしまって・・・い、今は私、小鳥遊くんで一生懸命男の人に慣れる練習してるので、も、もう平気です!名前さんは、男の人に戻ってください!」

「伊波ちゃん・・・」

きょとんとした名前さんだったけど、少し離れた場所にいる俺をちらっと見ると、すべてを理解してくれたらしく穏やかに微笑んだ。

「有難う、伊波ちゃん」

「お、お礼を言うのは私の方です」

「ううん。女装するだけで、伊波ちゃんと普通にお喋りできるのは嬉しかったし、悪いことばかりじゃなかったよ。そりゃぁ・・・野郎のお客さんからメアド聞かれたりセクハラされたりナンパされたりしたときは・・・コイツ等殺してやっても良いかな、むしろ後で殺そうとか思ってたけど、他は全然大丈夫だったし」

「す、すみません」

・・・うん。流石の名前さんも、ストレスを全然感じてなかったわけではないらしい。

「けど、そうだね・・・そろそろ、女装は止めようかな」

「はぃ・・・」

「大丈夫だよ、伊波ちゃん。定期的に女の子になるから」

「え!?」

「そんな突然男になっても、伊波ちゃんが困るでしょ?店長とシフトを考えて、男の時と女の時を分けるから」

「そ、そんなっ、今までいろいろご迷惑かけたのに、これ以上は・・・」

「いいよ、いいよ。女装、もう慣れちゃったから」

慣れて良いものじゃないと思います。

けど確かに、突然完全に男になったら伊波さんも対応が難しいだろうし、それでも良いのかもしれない。


「少しずつ少しずつ、女になる回数を減らしていくからね。それで良い?」

「は、はい!頑張ります!」

「よしよし。頑張ってね、伊波ちゃん」

にこにことした笑みを浮かべながら伊波さんの頭を撫でた名前さんは、こちらを見て笑顔で近づいてきた。

「ごめんね、小鳥遊くん。君には随分気を遣わせてしまったみたいだ。じゃ、俺はちょっと制服チェンジしてくるから、後よろしくね」

「はい!」

男の格好に戻ったらどんな風なんだろう・・・

まぁ、女装中も長身だけど随分と可愛い女の子だったし、きっともともと女顔なんだろうな。そう思いながら名前さんが戻ってくるのを待ってると・・・

「あ゛ぁー、この格好久しぶりだ」

「え?」

そこに立っていたのは、モデル顔負けのイケメンだった。

「あっ!この人見た事ある!」

「いやいや、名前だよ、伊波ちゃん」

少し離れた場所からにいる伊波さんの言葉に、はははっと笑うその人は確かに名前さんなんだろうけど・・・嘘だろ。滅茶苦茶イケメンじゃないか。

「おー。久しぶりだな、名前」

「さっきまで話してたけどな」

「わぁー、久しぶり名前くん」

「相馬も佐藤と同じこと言うなよ。ま、確かにこの格好じゃ久しぶりだよな」

佐藤さんと相馬さんと笑いあう名前さん・・・立ち振る舞いもオーラも全てイケメンだ!

じゃぁ、今までホント損な役回りしてたんだなぁ。女装してなかったら、男からナンパされたりせずに普通に女の子にモテただろうに・・・


「これも、全部小鳥遊くんのおかげだね」

「そんなことないですよ。名前さんの負担がちょっとは減って良かったです」

「小鳥遊君は良い子だねぇ・・・、――」

「え?何か言いましたか?」

「ううん、そんなことないよ。これからよろしくね、小鳥遊くん」

にっこりと笑った名前さんと握手をした。

二歳年上なだけなのに、名前さんってこんなに大人っぽい。この店では最も常識人っぽいし、何だか仲良くなれそうだ。

「じゃ、今日も残りの仕事頑張ろう!」

「はい!」

あぁ、ほんと良い人だなぁ。




先輩は女装従業員




「おい、名前」

「なぁに?佐藤」

料理を運ぼうとしていた名前を、佐藤が引き留めた。

佐藤はホールで注文を聞いている小鳥遊をちらりと見て、ため息を一つ。

「・・・あんま、小鳥遊を困らせるなよ」

その言葉に名前はきょとんとしてから「ぷっ」と噴出した。

「はははっ!何を言ってるんだよ、佐藤・・・『好きになった子』を困らせるわけないだろ?」

「・・・あぁ」

二人が会話をしていると「あちゃー」と言いながら相馬が近づいてきた。

「今度のターゲットは小鳥遊くんかぁ。災難だなぁ、小鳥遊くん」

「災難って・・・酷いなぁ、相馬。犯しちゃうぞ」

「真顔で言わないでぇ・・・」

相馬は軽く顔を青くしながら逃げて行った。

「さて!今日も仕事頑張ろうか!」

「おー・・・頑張れ」


小鳥遊は知らない。

名前が実は『バイ』だということに。しかも、そのターゲットが自分になってしまっていることに。




お相手:小鳥遊
シチュエーション:女装主が好きだからそれで

異音も女装主結構好きです。
攻め主が女装してるのも好き。


戻る