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列は大分進んだ。少し先には、おそらくアンドロイドを初期化するためであろう機械が並んでいる。きちんと初期化してから破棄するんだろうな、ちゃんとしてるんだな、なんて他人事のように考えてしまう。


思えば僕がアンドロイドとして起動してからの思い出なんてたかが知れている。

デトロイト市警の総務担当の女性に購入され、署内で日々清掃作業をした。テレビや雑誌からこの時代の情報を得て、窓から外の光景を楽しんだ。

リードさんに絡まれることもあったが、割と充実した毎日だった。

不満なんてない。今から初期化され破棄されることに関して不満もない。

けれどやっぱり、もうちょっとだけこの近未来で面白い世界を楽しみたかったかもしれない。今回の死に、次はあるのだろうか。


「次!さっさと行け!」

「はい」

背中を押され、機械へ近づく。アーム状の機械は僕の身体に接続される。

ブゥンッと機械音がする。どうやら初期化が始まったらしい。必死に抵抗しようとしているアンドロイドが視界の端に移るけれど、僕はぴくりとも動かない。


前世では交通事故だった。おそらく即死だったから痛みもなかった。

僕の中にあったメモリ量は大したこともなかったのか、初期化完了までのカウントはどんどん進む。

ちょっと眠くなってきたな。アンドロイドが眠くなるなんて変な話だ。


初期化完了まで残り25%、24%・・・

僕は目を閉じた。自然と鼻歌が零れる。心残りが全くないわけじゃないけれど、悪くないサービスステージだったな。

結局僕の前世の記憶は、システムの誤作動だったんだろうか。初期化して綺麗さっぱり忘れれば、それはやっぱりバグだったんだろう。

後19%、まだ覚えてる。前世で食べたファーストフード店のポテトの味、友達と飲んだ安い酒の味、実家の母親の料理の味、両親の声、死ぬ間際の知らない複数人の悲鳴、楽しかったこと、辛かったこと・・・

後11%、前世の記憶は全く欠けることが無い。不思議と、他のデータも消えた感じがしない。

後少し、9%、8%、7%・・・

でも眠気だけは強くなる。初期化とはそういうものなのだろうか。


鼻歌を歌う元気もなくなり、僕は眠気のままに意識を手放すことにした。




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