13
掃除は滞りなく終わった。リアは肩に乗ったままだ。
「アンダーソン警部補」
僕は渋々といった様子で荷物をまとめているアンダーソン警部補に近づいた。
「あ?何だ」
「僕は今日、リコールセンターに行くことになりました」
「・・・そうか、お前も送り返されるのか」
「清掃用なので最後の清掃が終わるまで残しておいて貰いました。それで一つご相談なんですが、リアを引き取っては貰えませんか?」
こちらを見ずに荷物をまとめていたアンダーソン警部補が、ハッとした表情で僕を見る。
「お前・・・変異してんのか?」
おそらく僕がリアが壊されないように引き取って欲しいと言ったからだろう。
「どうなんでしょう。僕は自分が機械だって自覚してますし、処分されることに抵抗感もない。企業が自身の商品に不具合があれば集めて処分するのは当たり前だと思うし、不満もないんですけど・・・」
意識を持った瞬間から僕は前世の記憶があった。けれどソフトウェアには何の以上もなく、エラー一つ起ったことはない。変異体の兆候が全く見られなかったから、他のアンドロイドよりも長く署内に置いておかれた。
元々バグっててエラーメッセージが表示されないだけ、ということもあるかもしれないが、こればっかりは僕にはわからない。
「まぁそれは僕の個人的な考えですから、生きたいって思うアンドロイドには好きにして貰いたいです。リアはペット型のアンドロイドだから処分は後回しにされてますし、わざわざ僕と一緒にリコールセンターに行く必要はないですから」
リアの方に人差し指を差し出せば、ぴょんっと指に飛び移ってくる。それをアンダーソン警部補の前まで持っていく。
「ペット型アンドロイドですから世話は簡単です。餌はお皿にブルーブラッドを置いておくだけで勝手に飲みます。だからどうか、引き取ってください」
アンダーソン警部補がゆっくりとした動作でリアを掴んだ。優しく掴まれたリアは身動き一つとらない。ただ、僕の方をじっと見つめていた。
「有難う御座います、アンダーソン警部補」
思わず笑みがこぼれる。リードさん程ではないにしても彼もアンドロイド嫌いだったはずなのに、コナー捜査官との間で何か良い変化があったのだろう。アンドロイドとの友情なんて、何だか本当にSF映画みたいだな、と興奮してしまう。
「・・・お前、そんな風に笑うんだな」
「ふふっ、僕って結構顔に出やすいから、ポーカーフェイスには苦労しました」
今更取り繕う必要もないから、僕は満面の笑みを浮かべて「それでは」と手を振った。
さようならアンダーソン警部補、さようならリア。
本当ならコナー捜査官にもお別れを言うべきかもしれないけれど、きっともう独自捜査のために何処か遠くへ行っているだろう。清く諦めて、僕は署の外へ向かった。
→