×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


※グロ表現注意。


ある日『地獄の傀儡師』なんていう変な人に会ったんです。

何処で知ったのかわかりませんが、私が“アイツ等”に酷い目に遭ったことを知って近づいてきたみたいです。

けれどどんな酷い目にあったかは知らなかったみたいです。まぁ知らなくても十分です。私がアイツ等を憎んでいるということさえ分かれば、どんなに事情を知らなくたって十分過ぎるぐらい十分なんです。

だから私は地獄の傀儡師さんの言うとおりにすることにしました。


別に言うとおりにしなくても良かったんです。だってアイツ等を殺すことなんて最初から決めていたことですから。

ただ、地獄の傀儡師さんの言うとおりにすればちょっぴり効率的にお掃除が出来るみたいだから、言う事を聞いただけなんです。



「あと一人殺せば終わりだったのに、とても酷いことをするんですね、探偵さん」

探偵さんの名前は何でしたっけ?金太郎?金次郎?まぁ良いです。

刑事さん達と一緒に私を警戒している探偵さん。その後ろで震えている、アイツ等のうちの残り一人。

あーあ、勿体ないなぁ。何でバレちゃったのかなぁ。地獄の傀儡師さんの言うとおりにしたのに、何でバレちゃうかなぁー。あ、あの時ちょっと失敗したせいか。じゃぁ自業自得か。成程成程。


「この連続殺人の犯人が私だと分かってしまったということは、私はドラマのように一人勝手に自供を始めるべきなのかな?そうなのかな?では、勝手に語ろうじゃないか」

残り一人を殺すための時間は無駄になってしまったし、自分語りでもして暇をつぶそうか。

私はにっこりと笑いながら“昔話”を始めた。







私には姉がいた。親はいなかった。親はいなかったけど、親が残した莫大な借金はあった。

金を借りていたのはこの街で一番の金持ちとその取り巻き達。もちろん取り巻きも私達よりはずっと金持ち。

金持ちなアイツ等、借金まみれで親も親族もいない私達。

金持ちのアイツ等の趣味の悪い“お遊び”に、私達姉妹はお誂え向きだった。


「アイツ等はまさに悪魔だった」

私と姉さんはアイツ等の玩具だった。

姉さんはせめて私だけでも助けて欲しいとアイツ等にお願いした。だから、アイツ等の“拷問”を一身に受けることになってしまったんだ。

拷問に理由なんてなかった。苦しむ姿が虫けらみたいで面白いのだと笑っていたのはアイツ等のうちの誰だったろうか。いや、全員だったかもしれない。


屋敷の地下にある薄暗い座敷牢に、アイツ等は毎夜毎夜やってきては姉さんを拷問にかけた。

私はその部屋が良く見える正面の座敷牢に、両手両足共に鎖で繋がれていた。言葉を発するのが鬱陶しいからと口には常に猿轡。

身動き一つ取れず、大好きな姉の名前すら呼べず・・・


「目の前で姉が嬲り殺されるのをただ見ていることしか出来なかった私の気持ちが分かる?探偵さん」

「・・・・・・」

目の前で姉さんがどんどん弱っていく。弱っていくのに、拷問で痛めつけられる時の悲鳴は絶えない。

身動きが取れないから耳を塞ぐことも出来なくて、目を閉じたら姉さんがもっと酷い目に遭うぞと言われて目を閉じることも出来なくて・・・

姉さんが弱っていくにつれて、私もどんどん弱っていった。痛めつけられない代わりに、私は食事も水も与えられてはいなかった。

朦朧とする意識。何でも良いから食べたかった。

お腹が空いた。誰か助けて、お腹が空いた。もう嫌だ。お腹が空いた。お腹が、お腹が――


「ある日ね、目の前に美味しそうな肉が出されたんだ。肉の焼ける匂いなんて久しぶりに嗅いだなぁ・・・その日は鎖も猿轡も外されてね、私は迷うことなく肉に飛びついたよ。でもね、すぐに違和感に気付いたんだ」

この肉は何の肉だろう。

困惑しながら正面の座敷牢にいる姉さんの方を見た。そしたら、見えた。見えてしまった。


「数週間ぶりの食事は姉さんの肉だった。何処の肉だったかな・・・あぁ、確か胸だった。アイツ等は、姉さんの胸から肉を抉り取ってソテーにして私に出したんだ!さぁお食べ!お腹が空いているだろう!?早く食べないと冷めてしまうよ!さぁお食べ!さぁさぁさぁ!!!!」

私の話を聞きながら誰かが吐いた。何を吐く必要がある?別にただ肉の話をしているだけじゃないか。

「今でもね、残ってるんだよ・・・姉さんの肉の味が。何を食べても、そればかりが思い起こされるんだ。もう食べたくないのに、姉さんの肉なんてもう食べたくないのに、ずっとずっとずっと食べさせられて、あぁ、あぁああッ!!!!」

がりがりと頭を掻く。


「だから私も食べさせてやっただけさ!!!アイツ等の目の前でアイツ等の大事な奴から肉を貰って目の前で料理して食べさせてやったさ!!!!美味し過ぎて感動したんだろうねぇ!泣き喚きながら肉を飲み込むアイツ等に、あの日の恐ろしさなんて微塵もなかった!吃驚したよ!私も私の姉さんも、こんな奴等に苦しめられていたのかってね!」

そこまで言って、ちょっとだけ深呼吸。ちょっぴり熱くなりすぎてしまった。

私は額に掻いた汗を袖で拭い、にこっと探偵さんに笑いかけた。


「探偵さんはきっと素敵な生活をしているんだろうね。朝痛みを感じることなく目が覚めて、朝ご飯を食べて学校へ行って、仲の良いお友達とお喋りして、血の味なんて全くしない美味しい美味しいお昼ご飯を食べて、お家に帰って温かいお風呂に入って、晩御飯を食べて、夜は柔らかな御布団で寝るんだ。だから探偵さんはとっても優しい子に育ったんだろうね。わかるよ!探偵さんはとっても優しい目をしているもんね!アイツ等の目とは全く違う、善良な人間の目だ!ねぇ探偵さん!私の目はどう?探偵さんみたいにキラキラ綺麗に輝いているかな!?それとも、アイツ等見たいにどろどろ濁ってるかなぁ!?嫌だなぁ!アイツ等と一緒なんて嫌だなぁ!けど、私の姉さんもキラキラなんてしてなかったんだ!なんたって拷問で目玉をくり抜かれていたからね!光る目玉なんてなかったんだよ!あはは!今のは結構良いギャグだったんじゃないかな!?誰も笑ってはくれないけどね!!!!」

探偵さんの後ろにいるアイツが顔をぐちゃぐちゃにして泣いている。おっと、ズボンのシミからして漏らしてしまったらしい。根性の無いヤツだ。漏らしたのが姉さんだったら、股間を焼き鏝で焼かれていたぞ。


「私がしたことは悪いこと?金持ちのソイツ等には許されたお遊びは、貧乏人の私には許されないの?あーあ!あぁーあー!嫌だなぁ!姉さんが死んで姉さんの保険金で借金チャラになったのに私はまだ貧乏人かぁ!何時になったら私は“人間”になれるんだろうなぁ!!!!私は何時まで“家畜”の名前ちゃんじゃなくちゃいけないのかなぁ!!!!ねぇ探偵さん!教えてよ!君、頭がすっごく切れるんでしょぉ?是非とも私が人間になれる方法を教えてよ!・・・・・・あぁ、人間の探偵さんには家畜が人間になる方法なんてわからないか、無理を言ってごめんね」

何か言いたそうに口を開きかけては閉じている探偵さん。

きっと何を言うべきか悩んでいるのだろう。

刑事さんたちは何処か哀れむような目で私を見ている。

きっと捕まったら、精神鑑定を受けさせられるんだ。きっとそうだ。精神異常の烙印を押されて、私はまた人間から遠のくんだ。


あぁ、目の前が歪んできた。目から水分出て来た。

駄目だ駄目だ、泣いたら殴られる。姉さんが泣いちゃう。折角姉さんが身体をはって私を守ってくれているのに、私が笑わないでどうするんだ。笑わなきゃ、姉さんを悲しませちゃいけない。笑え、笑え笑えワラえわらえ・・・

「ふっ、ふふっ、えへ・・・えへへっ、ふふっ、あはは・・・あはははははッ」

目からは水がボロボロ。口からは笑顔がへらへら。


「私ちゃんと笑ってるよ!だから痛いことしないでね!私ちゃんと良い子にしてたよ!姉さんのぐちゃぐちゃの死体をちゃんと見てたよ!姉さんの身体から蛆が沸くのをちゃんと見てたよ!偉いでしょ!?偉いよねぇ!?良い子の私にはご褒美を貰う権利があるでしょう!?そうでしょう!?」

私は一歩前に出た。

探偵さんの後ろにいるアイツは悲鳴を上げて「助けてくれぇっ」と口にする。


「私も遊びたいなぁ!アイツ等がしてた遊び、私もしたいなぁ!だから一緒に遊ぼうよ!私が拷問する役で、お前が拷問を受ける役!さぁさぁ!良い声で鳴いてね!泣いても許してあげないけどね!」

刑事さんたちがこっちに拳銃を向ける。

撃つの?私を撃つの?

酷いなぁ。刑事さんたちもアイツ等と一緒なんだ。私や姉さんを痛めつけて楽しむ人たちなんだ。酷い酷い、この世はなんて酷いんだ。


「何で私を仲間外れにするの?一緒に遊ぼうよ――」

「そこまでにしましょうか、名前」

伸ばしかけた手が、背後から誰かに絡め取られる。

探偵さんの目が大きく見開かれ「高遠!」と声が上がる。

私は首だけ動かして後ろを見た。そこには、地獄の傀儡師さんがいた。


「地獄の傀儡師さん、こんにちは。今日はとっても良い天気ね」

「えぇ、外は今にも雨が降りそうなぐらいの曇り空ですけどね」

絡め取られた手に何時の間にか薔薇。真っ赤で綺麗な薔薇を見詰めていると、地獄の傀儡師さんが私をそっと抱き締めた。

なぁに?と見上げれば「少々貴女への知識が不足していたようだ」なんて言う地獄の傀儡師さん。

不足なんて無い。私がアイツ等を殺したいってことを知っていれば、何もかも十分。


「貴女には興味がわいた」

「それは、一緒に遊んでくれるってこと?」

「えぇ。けど、私も貴女と同じ役ですけど」

「それじゃつまらない。二人共同じ役だと、相手の目玉も内臓も抉れない」

「大丈夫ですよ。遊んでくれる人はすぐに見つかりますから」

ね?と頭を撫でられる。頭を撫でられるなんて何年ぶりかな。姉さんがまだ元気だったころ、あの座敷牢なんて知らなかった頃かな。


「・・・じゃぁ良いよ」

「では一緒に行きましょうか。きっと楽しくなりますよ」

そう言って私を抱えて歩き出す地獄の傀儡師さん。ばんばんっ!と拳銃の音がしたけど、薔薇の花弁が舞うだけだった。


・・・あ、何時の間にかアイツの胸に真っ赤な薔薇が刺さっててアイツは死んでた。地獄の傀儡師さんすごーい。






壊れていたマリオネット






「地獄の傀儡師さん、今から何処へ行くの?」

「遙一で良いですよ。まずは何か美味しい物でも食べに行きましょうか」

「遙一さんのお肉?」

「焼肉でも食べに行きますか?」

「焼肉!遙一さんのお肉で焼き肉!」

「私の肉より、豚や牛を食べませんか?」

「豚?牛?遙一さんのお肉はどっち?」

「取りあえず店に行きましょうか」

「わーい」



あとがき

とんでもない設定の短編でしたね。
主人公の性格がぶっ飛び過ぎて、もはや探偵物ではなくスプラッタホラー。
主人公ちゃんの言動から分かる様に、主人公ちゃんはナチュラルにカニバする。普通のご飯食べても思い出すのは肉の味。

何だかんだで高遠の相方をやっていく。
たまに死体の肉が減ってたら彼女の仕業。後で高遠が念入りに歯磨きをさせる。



戻る