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付き合ってしばらく経つ彼氏がいる。

社会人になる前、学生の頃に付き合い始めた彼氏。

格好良くて、どうしてこんな人が私の彼氏に?なんて悩んだ時期はもうとっくの昔に過ぎ去り、今では傍にいることが当たり前のような関係になったと私は思っている。

休日になればどちらかの家に行って、何をするわけでもなくそれぞれ雑誌を読んだりテレビを見たり携帯をいじったり・・・

たまに思いついたように一緒に出掛けるけれど、昔ほど頻繁ではない。でも私は、今の関係も十分満足している。


「名前、俺ジュース取りに行くけど、お前も飲むか」

「んー、飲む飲む」

それまで読んでいた雑誌を閉じて座布団から腰を上げた焦凍の言葉に、ゲームアプリで遊びながら返事をする。

わかったと返事をしてキッチンに消えた焦凍。今日いるのは私の家だけれど、焦凍は家のものを好きに使っている。私も焦凍の家にいる時は好きに使うから、お互い様だ。


付き合い立ての頃、高校生の頃はお互いの部屋を行き来するだけでとてもドキドキしていた気がする。正直緊張しすぎて、楽しいだとかそういうことも考えていなかったと思う。

今はお互いの部屋でリラックスして過ごすことが出来るし、良い変化なんだと思う。私は。



「名前、ほら」

「ありがとー」

焦凍が戻ってきた。丁度ゲームも区切りが良いから、一旦電源を切ってテーブルに近づく。既に座布団に座りなおして雑誌を開く焦凍を尻目にグラスに注がれたオレンジジュースをごくごくと飲んだ。うん、やっぱりオレンジジュースは100%に限るな。


「名前、此処、爆豪が載ってる」

「わー、本当だ」

目の前に広げられる雑誌には確かに学生時代の知り合いがいる。知り合いであって、クラスメイトではない。私と焦凍は違うクラスで、焦凍はヒーロー科、私はサポート科だった。

焦凍を通じて知り合った人たちの殆どは現役のヒーローで、その伝手で私が働くサポート会社に仕事が回ってくる時もあるのだから、やはり人脈というものは大切だと思う。


「あ、焦凍も載ってる」

「自分の記事を見てもな・・・」

爆豪くんもそうだけど、焦凍もなかなか良い感じに紹介されている。やっぱり顔が良いとメディア受けも良いようだ。彼氏が人気者で彼女の身としてはとても誇らしく思う。心配?不安?そういう時期も私の中ではとっくに過ぎている。心は何時も穏やかだ。

雑誌をさっと読んで「凄いねー」と言ってから再び携帯いじりに戻る。あ、AP回復してる。


私が携帯いじりに戻れば焦凍も雑誌を回収して再び読み始める。と思ったら、今度はテレビを見るつもりらしい。

後少しすれば夕飯の時間だし、何か準備しようかな。焦凍ならたぶん「何でも良い」って言うだろうし、適当にあり合わせで何か作るか・・・


「あ、ねぇ焦凍」

そうだったそうだった。夕飯もそうだけど、今日は焦凍に渡しておこうと思ったものがあったんだ。一週間前ぐらいもそう思ったのに、すっかり忘れてた。

APを無事に消費してから、財布の中に入れっぱなしだったソレを取り出す。焦凍はテレビからこちらに視線を移し「どうした?」と首をかしげている。

「鍵、あげる」

差し出した銀色の一本を咄嗟に受け取った焦凍は「は?」と声を上げる。困惑したような顔で私と鍵を見比べているけれど、そんなに驚くことだろうか。


「あげる。そういえば渡してなかったなって」

本当なら一週間前どころか更に前から渡すつもりだったけれど、こうやってのんびり過ごしているとすっかり忘れてしまう。こういうのを物忘れって言うんだろうか、ちょっと気を付けないと。

渡そうと思っていたものが渡せてすっきりして、今度は別のゲームアプリをしようかと携帯に視線を戻そうとする。けれどそれより早く、焦凍の「・・・俺も」という声に反応して携帯に視線をやるのを止める。


「・・・俺も、鍵用意しとく。悪い」

「良いよ良いよ。どうせ鍵があってもなくても、お互い自由に行き来してきたんだし。でもまぁ、鍵持ってれば今まで以上に好きな時に行き来できるし、いろいろ便利でしょ?」

「そうだな、あぁ、俺もそう思う」

こくこくと頷く焦凍に「でしょ」と笑いながら、今度こそ携帯弄りに戻る。

視界の端に何やら大事そうに鍵を握りしめている焦凍が見えるけれど、そんなに嬉しかったのだろうか。鍵があってもなくても、今までと殆ど変わらないと思うんだけど。



「名前」

「んー」

「・・・俺、名前の恋人で良かった」

思わず携帯から顔を上げてしまう。あ、やばい、敵の攻撃がクリティカルヒットした。


「何それ、今日って何かの記念日だっけ?」

「いや。でもいっそ、今日を記念日にしたい」

「焦凍って記念日好きだったっけ。ごめん、私そういうのあんまり覚えられないから、代わりに焦凍が覚えてて。言ってくれればお祝いするから」

私の言葉に焦凍は「わかった」と頷き、やはり大事そうに鍵を握り、満足げな顔でテレビの方に視線を戻した。あ、鍵そのまま握っとく感じか。






体温の移った鍵






そんなに嬉しいの?と尋ねると「今年一番嬉しい」と返された。普段どれだけ喜びを感じてないんだろう。マジかよ、たまにはもうちょっと恋人に喜んで貰えるように努力しよう。

それによくよく考えれば、私より焦凍の方が彼女力高いかも。気を付けよう。



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