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夜、寝室でピアスを外しながら歩いていたら、床にピアスを落とした。

ころころとベッドの近くまで転がったソレを拾うためにその場にしゃがんだ私は、ふと横を見た。


・・・ベッドと床の狭い隙間に、男がいた。


目が合ったその男は、近所にあるペットショップの店員だ。朝、出勤途中に店の前を箒で掃除する様子を何度も見かけていて、目が合えば「おはようございます」と挨拶はする。けれどその程度。


「・・・こん、ばんは?」

男は、こちらをじっと見つめたまま「こんばんは」と返してきた。

私は静かに立ち上がり、ゆっくりとした足取りで玄関まで向かい・・・ダッシュでペットショップまで走った。



ペットショップの2階がこの店の店長の家なのは知っている。近所の人が言っていた。

私はインターホンを連打し、連打に驚いて勢いよく出てきた店長に「こんばんは!お宅の店員が私の家の寝室に!ベッドの下にいます!回収してください!」と矢継ぎ早く説明をすると、店長の目が死んだ。

死んだ目でよろよろとした足取りの店長を我が家へ案内し寝室まで連れてくると、そのまま店長にベッド下を確認して貰った。


「か、一虎、くん・・・なんでそんなところに?」

「・・・いつも笑顔で挨拶してくれる、名前ちゃん家の床の一部になりたかった」

「どうやって侵入したんですか?」

「ピッキング」

「・・・っ、も、申し訳ありませんでした。彼のことは俺が責任を持って監視するのでっ、今回はどうか穏便にっ!」

店長が私に向かって土下座をした。


おそらく初犯だし、近所の目を考えると大事にしたくないのはこちらも同じだ。私も内々でおさめられるなら是非ともそうしたい。

件の一虎くんと呼ばれた男はまだベッドの下だ。・・・そろそろそこから出てくれないかな。

私の視線に気づいた店長が男を引き摺り出し、強制的に土下座をさせる。


「ほら!一虎くんも謝って!・・・あれ、一虎くん、その手に持ってるものは・・・」

店長の指摘で男の手元を確認すれば・・・黒のペニバンがしっかりと握りしめられていた。それもなかなかに凶悪なご立派サイズ。

見覚えはある。それは、私がベッドの下の収納ボックスの中に他のものと一緒にしまっておいたやつだ。

店長の視線がちらちらと私とペニバンを見比べる。私は静かに天井を見上げた。あ、天井のあんなとこのにシミがあったんだ、知らなかったなぁ・・・


「俺・・・これが入るように頑張ってみるから・・・」

何かを決意したような声でそう言った男に、店長は「一虎くん!?」と叫ぶ。

不法侵入してきた男を回収してもらおうとしただけなのに、まさかのタイミングで特殊性癖が暴露された。しかも相手は受け入れ態勢ばっちりだ。


先程の店長以上に目が死んでいるであろう私は、虚な目のまま「・・・最初は初心者用の細いので慣らした方がいいですよ」と言った。相手側の自業自得とはいえ私が原因で他人が切れ痔になるのは嫌だ。

男は一つ頷くと、あろうことかベッドの下から例の収納ボックスを引き摺り出して「これみたいな?それともこっち?」と卑猥な玩具たちを並べ始める。

店長は「はわわっ」と乙女みたいな声を上げ、真っ赤な顔で食い入るように玩具を見つめていた。


これは拷問だろうか。

もはや借りて行く気満々な男が玩具を数点握り締め、ついでに私秘蔵のAV(アブノーマル)も抱えて「いけそうな感じになったまた来る」と不法侵入の犯行予告をして寝室から出て行った。



「あ、えっと、うちの従業員がご迷惑をお掛けしましたっ、そ、それじゃ・・・」

「あの」

男を追って寝室を出て行こうとする店長を引き止める。


「その・・・自然な流れでディルドをお持ち帰りしようとするのやめて貰っていいですか?」

店長の手にはがっつりディルドが握られていて、私の目は一切の光を失った。

店長はしばらく私と見つめ合い・・・にこっ!と笑って駆け出して行く。


「俺もいけそうな感じになったらまた来ます!」

元気に捨て台詞を残していった店長に「あのペットショップコンビなんなんだ・・・」と私は静かに崩れ落ちた。




ベッド下の男とその雇い主




「あ・・・おはよう、昨夜は一番細いやつを試したんだ。千冬ももうちょっとで細いの入りそうだって」

「・・・おはようございます」

翌朝から、出勤のためにペットショップの前を通るたびに開発具合を報告されることになるなんて、昨晩の私には予想も出来ないことだった。



あとがき

一虎に不法侵入されて、ついでに特殊性癖を知られた。
初犯だからと警察には通報せずに内々で済ませようとしたのが運の尽き。でもたぶん警察呼んでたら見ず知らずの警察にペニバンを見られてたから、どっちに転んでも特殊性癖はバラされることになってた。

好きになった女の子の性癖に寄り添うタイプの一虎(ストーカーの姿)と、はわわって言いつつ特殊な世界に興味津々な千冬、この二人に今後迫られることになる。



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