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※人外主注意。


メカ丸には姉がいる。

正確には、姉という設定を持ったアンドロイドのような呪骸だ。


当初は身の回りの世話係として設計された彼女は、呪力の核を込められた瞬間に『自我』を獲得した。東京高専に存在するパンダと同様、突然変異種と思われる。

呪骸である彼女はメカ丸の本体である与幸吉を『弟』と認識し、当初の予定通り彼の身の回りの世話をした。


突然変異で生まれた彼女の能力は未知数で、しかもそれを生み出した与幸吉が天与呪縛により人より多くの呪力を持っていた影響からか、彼女自身の呪力量も多かった。

パンダと同様に呪術高専に入学する資格を得るまでそう時間を要することなく、彼女は『メカ丸の姉』として京都高専に入学した。



「姉の、究極メカ子です」

着物のような形状の高専制服に身を包み、穏やかで大和撫子然とした様子で自己紹介をする彼女。その名前を聞いた瞬間、彼等は微妙な顔をした。

「名前が酷すぎる」

「一応、名前という名前もあります」

「メカ子より断然マシね」

にこにこと微笑んでいる彼女はパッと見人間にしか見えないが、彼女の身体を巡っているのは血ではなく呪力である。


呪骸である彼女はその穏やかなな性格からかすぐに京都高専のメンバーとも打ち解け、真依たち女性陣とはショッピングをする仲にもなった。

「ねぇ名前、あんたって食べ物大丈夫なの?」

「口に含むことは可能ですが、栄養として摂取することは出来ませんね。おなかの中にそれ用の貯蔵パックが入っていますから、何かを摂取した時は貯蔵パックを取り出して破棄することになります」

ショッピングが一段落しモール内のベンチで休憩中、ふと名前の食べ物事情の話になった。

「・・・そういわれると、あんたが呪骸なのを思い出すわ。呪骸というより、アンドロイドっぽい」

「ふふっ、弟はとても優しい子ですから、あまり綿密ではないものの私が味を感知できるような機能を付けてくれましたよ」

「へぇ!じゃぁ名前も私たちと食べ歩きるね!」

「味がわかるなら、どういう系が好きかも調べましょうよ。案外ゲテモノ好きかもしれないわよ」

ショッピングから急遽食べ歩きに変更した四人はその日おなかがいっぱいになる程食べ歩いた。


そんな風に京都高専のメンバーと交流をし、名前こと究極メカ子は京都高専のメンバーの一人になった。

東京高専との交流会では戦力の一人として選出された。


「究極メカ丸の姉、究極メカ子と申します」

「名前が酷すぎる」

「一応、名前という名前もあります」

京都高専のメンバーともした会話を東京高専のメンバーとも交わし、その後行われた交流戦本番。名前は呪力を纏った肉体を武器とし、メカ丸との共戦でもっと交流戦に貢献した。

交流戦の最中に呪霊と呪詛師が襲撃してくるというハプニングがあったものの、高専側からは生徒も教員も死者は出なかった。


「・・・弟の様子を見に行きますので、私は此処で失礼いたします」

「あー、メカ丸ぶっ壊れちゃったもんね。どこかのパンダのせいで」

「戦闘中に起こった不慮の事故です。私と弟の変わりは此処に置いておきます」

ぺこりと頭を下げた名前の隣には二台の機械。

「・・・ピッチングマシーンと、これは?」

「センサーによる自動捕捉でボールを撃ち返す、バッティング装置です」

「まぁいいわ。メカ丸によろしく伝えて」

はい、と名前は笑い東京高専から去った。向かう先は、知る人が限られている弟の隠れ場所。



「幸吉、貴方の姉が帰ってきましたよ」

「・・・あぁ、お帰り」

にこりとにこりと微笑んだ名前は手馴れた様子でメカ丸の本体、幸吉の世話を焼く。

彼が高専側を裏切るような内通行為をしていると知りながら。

弟が悪いことをしているならそれを諫めるのが姉の務め。けれど弟が本気でやりたいことをするなら、それを応援するのも姉の務め。そう言って、名前は幸吉が呪霊や呪詛師と通じることを黙認した。

内通行為への見返りは、幸吉自身の肉体を健康な肉体へと変異させること。そしてその見返りは、もうすぐもたらされる。


「健康になったら・・・まず、お前と一緒に高専に行くんだ」

「えぇ、一緒に登校しましょうね」

呟くような幸吉の夢に、名前は笑顔で返事をした。





自身の肉体が魂から変化していくのを、幸吉はありありと感じていた。

その後起こり得る可能性はきちんと理解していた。もう用済みとなった自分は、目の前の呪霊と呪詛師によって命の危機にさらされる。

ただで殺されるつもりはない。自分は、この肉体で外に出るのだ。外に出て、高専の皆と実際に会って・・・


「・・・名前には、悪い事をしたな」

名前は今、幸吉に言われて外に買い物に出ている。

幸吉にとことん甘い、姉を自称する呪骸。彼女は幸吉が「アイスが食べたい」と言えば、笑顔で隠れ家を出て行った。

隠れ家から一番近いコンビニから此処までの往復は相当な時間がかかる。今日がその日だと知っていた幸吉は、もしもの時のために姉を逃がしたかったのだ。

案の定始まった呪霊との戦い。事前に準備していた巨大メカに乗り込み、その呪霊を迎え撃つ。

天与呪縛によって縛られてきたことによって生まれた呪力。それによって解き放たれる砲撃は確かに効いている。

夏油によって周囲に張られた帳から抜け出すことは困難だろう。勝算は低い。それでも、幸吉は諦めることはなかった。

動けない分、沢山のものを見て来た。姉に頼んで、姉の記憶媒体からも沢山の知識を得た。

呪骸とは言え、定期的に自身の脳味噌を覗き込まれることはきっと屈辱的だったはずだ。それでも優しいあの姉は、幸吉のためならと笑って受け入れたのだ。

今自分が戦えているのは、自身の呪力と姉のおかげであるとわかっている。

だからこそ、勝てる可能性を見出していた。勝てる可能性は、確かにあったのに・・・

「・・・あ」

目の前に、呪霊『真人』の手が迫る。それと同時に、幸吉は自身の死を感じた。



「ごめんなさい幸吉、アイスはバニラとチョコ、どちらがいいか聞き忘れました」



ぐちゃりと、目の前の手が切り落とされる。

幸吉の身体が抱き寄せられ、既に壊れた巨大ロボの頭部から脱出する。

そこにいるのは、既に隠れ家を離れていたはずの名前だった。


「名前!?なんで・・・」

「うっかり者の姉でごめんなさい。アイスは後でまた買いに行きますから、どちらがいいか選んでおいてくださいね」

名前は普段と変わらない、にこりと穏やかな笑みを浮かべる。そしてそのまま目の前の敵を見て、困ったように眉を下げた。


「へー、お前が夏油が言ってた突然変異の呪骸か。折角今いいところだったのに」

「あら、私には貴方が弟を殺そうとしているように見えました。ぜんぜん『いいところ』ではないですね」

頭部から脱出したものの、それ以上の移動は出来ない。目の前には真人、視界の端には夏油がいるからだ。


「弟?ははっ!呪骸が姉を気取ってるんだ。それで?おねーちゃんが何の用?」

「当然、愛する弟を助けにきました。上の子は、下の子を守るものですから」

幸吉を背に隠しながら、名前は前を見据えて問いかける。

「幸吉、今は貴方の危機。そうですね?」

「・・・あぁ、そうだ。俺は今、名前に守って欲しい状況だ」

その言葉を聞き届けた名前は、自身の中の鎖の一つが外れた感覚がした。

傍から見ていた真人もそれを感じて、にたりと笑みがこぼれる。


「へぇ!もしかしてお前、そういう縛り?」

「えぇ。・・・呪骸の身でありながら、術式を得た私『究極メカ子』は弟を守るための行為でしか術式を使用することが出来ない。昔、私自身に課した縛りです。さて、貴方たちから逃げるためにはこれでは足りませんね・・・」

名前は静かに息を吐き、それから体の前で指を組む。

「私の術式は時間停止。対象一つのみに対し術式を行使することで対象の時間を止めることが可能です。時間停止可能時間は込める呪力量によって前後しますが、あくまで対象は一つ。複数を時間停止させたい場合は対象を『世界』と固定する必要があり、対象が世界全体だった場合この術式を長時間行使することは出来ません。おそらく通常時、最長時間は1秒でしょう」

ただし、と名前は言葉を区切る。

「呪力量が何らかの要因で増加した場合は時間を延ばすことも可能です」

名前の呪力が爆発的に膨れ上がるのを真人は感じた。


「縛りに加えて術式開示ッ!」

「本気でいかせていただきます。まぁ、あなた方を完全に退けるよりは、こちらが撤退する方が現実的ですので、そちらを選ばせていただきますが」

「帳の存在を忘れてないかい?」

今まで静観していた夏油がそう口を挟む。名前はこてんっと首を傾げて見せた。


「おや、私が事前に何もしていないとお思いですか?」

「一体何をしたんだい」

「私の弟が危険なことをしていたことは知っています。裏切りがバレて高専側から袋の鼠にされて処分される可能性も、貴方たちによって殺される可能性も、どちらも十分にありました。どちらの場合でも対処できるように・・・きちんと退路を用意させていただきましたよ。ご存知ないですか?呪力を無効化する天逆鉾を。あれは素晴らしい呪具ですから、それをマネしようとする呪具職人は多く存在しますし、劣化版な掃いて捨てる程存在する・・・そんなガラクタを、一部に馬鹿みたいに設置させていただきましたよ」

名前の言う通り、隠れ家からある一定の距離まで、天逆鉾に似た効力を持つ劣化版たちがひしめく箇所があった。けれどそれは厳重に隠されており、真人も夏油も、弟である幸吉も言われるまで気づくことはなかった。


「さぁ、お喋りも此処まで。・・・領域展開『時刻遷延』」

世界の時間が、止まる。

ばきばきと、名前の身体に罅が走ったのを、幸吉だけが見た。




お姉ちゃんはアンドロイド




「名前!名前ッ!もういい!此処までで十分だ、術式を解け!」

時間停止から今まで、姉は幸吉を抱いて走り続けた。遠くへ、出来るだけ遠くへ。

縛りと術式開示による底上げによって成立した領域展開だが、それは名前の肉体へ大きな負荷をかけた。

そろそろ術式を解かなければ、まず名前の身体が持たないだろう。


「・・・幸吉、あぁ、貴方をこうやって抱きしめられるなんて、なんて幸福なんでしょう」

罅割れた顔で名前が笑う。

そうして遠くまで逃げ出し、名前は術式を解いた。

動き出す時間、ばきばきと砕け散る名前の両手足。抱きかかえられていた幸吉は咄嗟にその身体を抱え返し、何とか名前の身体が地面に叩きつけられるのを防いだ。

目を閉じている名前が緊急停止しているのが製作者の幸吉にはわかる。

「・・・高専に、行こう」

京都高専に行き、歌姫先生に助けを求めよう。あの優しい先生なら、心底嫌っている五条悟にも繋いでくれるはずだ。呪詛師夏油の存在と、こちらが知り得る情報を全て開示するんだ。そして、名前を修理する準備を整えて、それから・・・


「有難う、姉さん」

考えることはまだ多くある。けれど今は、姉によって得られた『生』に感謝したかった。



あとがき

自分をメカ丸の姉だと思っているアンドロイドみたいな呪骸の話。
圧倒的姉属性。弟のためならえんやこら。
突然変異のためか術式を持っているが、使えば一発KOで核ごと壊れる仕様。
縛りと術式開示でようやく使える。でも肉体的負担は大きいため、この度両手足が砕け散った。あともうちょっとで顔面も砕けるところだった。

どうにかこうにか修理をして貰うけど、多分渋谷編では両手両足がっつり装備のメカ少女になる。背中にメカの翼を背負って飛ぶ。少年の夢盛り盛り。



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