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※キャラ崩壊注意。


痴漢は犯罪だ。

これは個人的な感想だが、痴漢は最も身近で最もお手軽な犯罪だと思う。

相手の身体に触れればそれはもう痴漢で、バレれば社会的に死ぬ。

金額は人それぞれだろうが、慰謝料にしても示談金にしても結構な額を支払わなければならなくなる。一部痴漢冤罪なんてのもあるらしいが、本当の痴漢にあった人間ならその心に傷を負ってしまうことだってあるだろう。

痴漢行為は許されないと俺は思っている。だからもちろん俺は痴漢なんかしないし、これまでの人生で一度だって痴漢をしてみたいなどと思ったこともない。

だからこそ疑問なんだ。


「ん、はぁ、名前さん」

俺の背後に立ち、俺の太腿辺りに股間を擦り付けて勝手に気持ち良くなっているこの相手は、一体何を思って俺に痴漢なんて馬鹿げた行為をしているのか。


この痴漢に遭遇したのは何も初めてじゃない。数週間前あたりから、背中に凭れ掛かられたり腰を撫でられたりと少しずつエスカレートした結果が今この状況だ。

いつの間にか名前もバレてるし痴漢はエスカレートしてるし、もう散々だ。

しかも相手は中々の美少年ときた。これは俺が「痴漢です!」と訴えても信じて貰えないどころか逆に俺が疑われるパターンだ。

男相手に、それもこんなくたびれたサラリーマンに痴漢するなんてなかなかに酔狂な奴だな。・・・なんて言ってもいられない。相手が俺より若い美少年だとしても、痴漢行為は痴漢行為だ。


最初の痴漢行為から今まで、何て注意すればいいのかわからずにそのまま無視を決め込んでいたが、俺にも我慢の限界というものがある。

今日こそはビシッと「こんなことはやめるんだ」「いい加減にしろ」とはっきり言ってやるべきだ。俺にとっても、背後の美少年の将来にとっても、それが一番いいはずなのだ。


「ひっ」

よし言うぞ、と振り向きかけた瞬間、背後から聞こえた微かな悲鳴に俺はおや?と首をかしげる。その声は俺に痴漢行為をしている美少年のものだ。ここ数週間微かだが聞き続けていたのだ、聞き間違えるはずがない。

何事だと思いながら視線を少しだけ動かせば、俺を痴漢する美少年の更に後ろにぴったりと張り付くように見知らぬ男が立っていることがわかった。

微かに男のものらしき荒い息遣いが聞こえる。ついでに、俺にぴったりとくっ付いている美少年がふるふると身体を震わせていることも振動でわかった。

どうやら痴漢していた側が今度は痴漢に遭っているらしい。何やってんだこの美少年。


正直な話助ける義理は無いし、これを機に痴漢の恐ろしさを味わって俺に痴漢しなくなればいいなとも思うけれど・・・気付いてしまった以上は何もしないわけにもいかない。

俺は内心大きなため息をつきながらもくるりと振り返った。

そこには今の今まで俺の背中にぴったりとくっ付ていた美少年と、更にその美少年背後で気持ち悪く息を乱す中年の男がいた。これぞホントの痴漢だ。・・・いや、美少年も中年男もどっちも男だが。


「おい、何してんだあんた」

俺は美少年の肩を掴んで自分の方に引き寄せつつ、中年男に問いかける。

すると中年男は「な、何してるって、なんのことだ」とわかりやすくしらばっくれた。

その様子に「まぁそうなるよな」と思いつつ美少年をちらりと見下ろせば、美少年は俺の胸にぴったりとくっ付いた状態のまま完全に固まっていた。

最初は自分が痴漢された恐怖からかと思ったが、徐々に顔を真っ赤に染め上げていくその様子からそれは違うとわかる。


「・・・はぁっ、次は見逃されると思うなよ」

この中年男を突き出すならもれなくこの美少年も突き出すことになるし、どうやら美少年の方は既にこの中年男など眼中にないらしい。・・・あ、こいつさりげなく俺のニオイ嗅いでやがる!

次の駅に停車した瞬間、中年男はそそくさと電車を降りて行った。


もしかすると今の騒動を気にしてこちらを窺っている乗客がいるかもしれないと思い、俺は「次でいったん降りるぞ」と美少年に声を掛ける。

中年男が降りた駅の更に次の駅で、美少年は大人しく俺と一緒に電車を降りた。案の定、電車から降りる俺たちのことをちらちらと見ている乗客が数名いた。・・・今度からのあの時間帯の電車を使うのはやめよう。ほとぼりが覚めるまでは自転車通勤に切り替えるかどうかも検討しよう。

内心がっくりと肩を落とす俺に、美少年が「あの」と声を掛けてくる。

ちらっと美少年を見れば、美少年はその美しい顔を赤く染め上げながら、どこか期待したように俺を見つめていた。


「・・・どうして、俺を助けてくれたんですか」

どうして、と聞くということは、自分の痴漢行為が俺にバレていることも理解しているだろう。

確かに、痴漢被害者の俺が美少年とはいえ痴漢してきた相手を別の痴漢から助けるなんて変な話だ。


「正直な話、一度痴漢にあって痴漢の恐ろしさを知ったら俺に痴漢しなくなるんじゃないかって一瞬思ったが・・・怖がってたろ、お前」

「・・・はい」

「これに懲りたら、もうあんなことすんなよ。毎朝股間摺り寄せられるこっちの身にもなれ」

はっきりそう言えば、視線を少し逸らした美少年が恥ずかしそうに腹の前あたりで指先を弄る。恥ずかしがるぐらいなら最初からするな。


「・・・ったく、しばらくはこの時間帯は乗れないし、お前も時間ずらした方がいいと思うぞ」

「何時にしますか?」

「馬鹿、普通言うわけないだろ。探っても無駄だぞ、俺はしばらく自転車通勤だ」

しれっとまた俺と同じ時間帯に乗ろうとしてくる美少年に呆れてしまう。こいつ、さっきまで痴漢されてた癖にメンタルが強すぎる。


「え・・・じゃあ俺は明日から何を楽しみに電車に乗ればいいんですか」

「俺に対する痴漢行為を楽しみにするな。もっと健全な楽しみを見つけろ」

この美少年、顔がとんでもなく整ってる癖に、頭のネジがぶっ飛び過ぎだ。


「こんなくたびれたサラリーマンに痴漢したって何の意味もないだろ。そもそも痴漢は犯罪だから二度とするな。いいな?」

「痴漢じゃなかったら、触ってもいいですか?」

「全然懲りてねぇじゃねぇか手前」

思わず美少年の額を指ではじいてしまった。

小さく呻き額を押さえた美少年は「名前さんからのでこぴん・・・」と何やら感動している様子だ。やっぱり頭のネジ飛んでるなこいつ。


「というか、お前はどうやって俺の名前を知ったんだ」

「前にバイト先でそう呼ばれてるのを聞きました」

「・・・あぁそう」

バイト先が何処かは知らないが、そうやって個人情報は流れていくんだな・・・としょっぱい気持ちになった。

もうすっかり痴漢された衝撃から立ち直ったのか、美少年は「あ、俺は烏丸京介です。京介でいいです」と自己紹介をしてくる。

くたびれたサラリーマン相手に痴漢してくる時点でわかってはいたが、相当変わってるぞこの美少年。もう常識が通じない気配がプンプンする。


「あーはいはい、京介くんね。流石にそろそろ会社に向かわないとマズイから、俺はもう行くけど・・・君も早いとこ学校に行けよ」

次の電車の到着まであと少し。何時もより少し遅い出勤になってしまうが、正直に「痴漢されてた学生を助けてました」と言えば少しは考慮して貰えるだろう。まぁ正確には「痴漢されていた男子学生」なのだが、細かいことは言わなくてもいいだろう。嘘は言っていないわけだし。

兎に角さっさとこの美少年から離れようと一歩足を踏み出したところで、がっしり腕を掴まれた。


「助けてくれて有難う御座いました」

「・・・あぁうん。どういたしまして」

「お気づきの通り、俺は名前さんが好きですけど、今回の件でより一層好きになりました。明日からは、一緒に自転車移動頑張りましょうね」

「おい待て、何で一緒に行くことになってるんだ」

あまりにもしっかり腕が掴まれているせいで抜け出せない。

そのままの状態で電車が到着すると、京介くんに連れていかれる形で乗車。一本ズレているとはいえ相変わらず車内は混雑していて、京介くんは当然のように俺に身体を寄せた。普段と違うところと言えば、背後からではなく正面からというところだろう。


「しばらくは出来なくなるので、堪能させてください」

「本当に懲りてないな」

結局俺が降りる駅に辿り着くまで、腹やら太腿やらを撫で繰り回され、胸元のニオイを深呼吸で吸われ続けた。


・・・朝から疲れた。




美少年がしても痴漢は痴漢




「・・・まさかこんな進展があるとは」

名前さんが会社の最寄り駅でそそくさと降りていく後ろ姿を見ながら、思わずつぶやく。

見知らぬ男に尻や太腿を撫でられたのは大変不快だったが、そのおかげで名前さんに助けて貰えたし、抱き寄せられて、しかも名前まで呼んで貰えた。


「次からはもっと積極的になろう」

毎朝のふれあいだけじゃ満足できない。折角俺の名前を憶えて貰ったんだ。このまま、ゆくゆくは恋人になって、名前さんと・・・

下腹部あたりがきゅんっ♥と疼くのを感じつつ、俺は少し速足で学校へと向かった。



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