手元のタブレット画面から流れる映像を見つめながら、俺は「ぐふふっ」と笑った。我ながらキモイ笑い方である。
「何笑ってるんですかー、苗字さん。気持ちわるっ」
「おいおい、事実でもそうはっきり言うもんじゃないぜ、出水」
隣の出水から蔑みの目を向けられているのを感じながらも俺は画面から視線を外すことは無い。
「そんなに熱心に見て、何がしたいんですか」
「出水にはわからないだろうし、別にわからなくてもいいんだけど・・・二宮隊を視姦してるんだよ、今の俺は」
「・・・えっ、普通に気持ち悪い」
そんな純粋に引いた声を上げるんじゃない。普通に傷つく。
「ってか、苗字さん何時の間に二宮隊のランク戦映像なんて入手したんですか?まさか不正入手したんじゃ・・・」
「いやいや、そこまで人の道から外れてないよ。これは二宮隊の氷見ちゃんに貰ったんだ」
「・・・脅して?」
「だから違うってば。氷見ちゃんとは同じ学校の先輩後輩で、委員会とかも一緒だから。割と仲良くさせて貰ってるんだよ」
「そういえば苗字さんって進学校でしたね。・・・人ってわかんねーなー」
「おいおい、これでも氷見ちゃんや辻ちゃんから『頼りになる先輩』の称号を貰ってるんだぜ」
「頼りになる先輩が視姦なんてするかよ。というかそれが目的だって知れば絶対ランク戦映像なんて渡さなかっただろ」
どうやら出水の中で俺の株が大暴落したのか、視線も声も冷ややかだ。辛い。
「渡された時ちゃんと言ったけどね」
「は?視姦用ですって?」
「『スーツ姿が素敵な二宮隊のランク戦映像なんて渡されたら、早々試合じゃなくって三人の姿しか目に入らないと思うんだけど』って言ったら『おそらく三人とも本望だと思うので気にしないでください』って返事もらった」
「あんたら可笑しいよ絶対」
「いやー、いいよね二宮隊。スーツ姿ってだけでもドストライクなのに、皆健康的で魅惑的・・・あー、太腿に顔面挟まれたい」
「何かもう苗字さんの存在自体が気持ち悪くなってきた」
「いいよいいよ、どうぞ俺のことを蔑んでくれ。自分でも気持ち悪いと思ってるんだから他人に受け入れて貰おうなんて最初から思ってないさ。まぁさ、あれだよ、映像で満足してるし本体に手を出してるわけじゃないから、多めに見てねって感じ」
お、このシーンいいな。一時停止してスクショしよ。
俺が再び「ぐふふっ」と笑うと出水が「あ」と声を上げた。声に釣られて顔を上げれば、そこには二宮隊の三人がいた。
「苗字先輩」
「あ、名前じゃん。え?何々、もしかしてひゃみさんが渡した映像見てくれてるの?」
こちらに気付いた瞬間駆け寄ってきてくれる可愛い後輩辻ちゃんと、その後から追ってくる同級生の犬飼。更にその後からゆっくり二宮さんがやってきた。三人ともスーツ姿が素晴らしい、尊い。
「そうそう。氷見ちゃんから貰った映像堪能してんの」
「うわー、ひゃみさんが言ってたの本当だったんだ」
「苗字先輩が喜んでくれるなら・・・」
辻ちゃん良い子過ぎかよ、と思っていると二宮さんも追いついてきた。出水は「ちょっと二宮さん」と声を上げる。
「いいんですか、この変態に自分たちの映像渡したりなんかして。この人、太腿で顔面挟まれたいとかほざいてたんですよ」
なんて余計なことを言うんだ出水よ。
出水が二宮さんにそう言うと、二宮さんは「ほぉ」と俺を見た。
「えー、名前そんなことまで言ってたんだ。うっわ、変態じゃーん」
犬飼が笑いながら俺の肩をばしばしと叩くのを辻ちゃんが「先輩、あまり強く叩いたら苗字先輩が痛がります」と諫めようとしてくれる。辻ちゃん天使かよ。
「映像だけでは飽き足りず、ということか」
「あ、別に願望が口に出ただけなんで。映像貰えただけでも感謝してますよー、俺」
「許可しよう」
は?と声を上げたのは俺と出水だ。
「確かお前は一人暮らしだったな。いいだろう、今日の夕方お前の家に行く。二人もそれでいいな?」
二宮さんの言葉に「了解しました」と二人が返事をする。ん?いいの?
「他の要望はお前の家で聞こう」
「え、あの、嬉しいですけど・・・ん?いいんですか二宮さん」
「氷見から聞いただろう。本望だと」
そう言った二宮さんの顔にほんのりと笑みが浮かんだ瞬間、俺は思わず「ふぐぅっ」と胸を抑えて唸った。何だよ二宮隊、エロ尊いじゃないか。
それは可笑しいでしょ「いやいや、あんたら絶対可笑しいって」
うん、俺も出水に賛成だわ。