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朝、事務所に来た時クラウスが「レオナルド君、これを」と渡したのは飲み会のお知らせだった。


「名前、長期任務おつかれさまパーティ?」

首をかしげるレオナルドに「君はまだ会ったことがなかったな」とスティーブンが笑って説明する。



「今日は我々の仲間が長期任務から帰ってくる。これはそれを労うための会さ」

「へぇ。どんな人なんです?」

「系統的にはクラウスに似てるな。真面目だけど俗世に対しては若干世間知らずな点もあって、ザップにはそこを良いように扱われてた。名前のことならザップに聞くと良い」

その説明にレオナルドは、ザップがその名前という人物に集る姿が容易に想像出来た。

スティーブンはザップに聞くと良いと言うが、事務所にザップの姿はない。どうせ今日も遅刻だろう。


「何時頃帰ってくるんです?」

「今日中には帰ってくると報告は受けてるんだが・・・途中ミスター・エブラムスと行動を共にしたらしく、無事かどうか・・・」

豪運のエイブラムスと周囲から恐れられる人物にはレオナルドも会ったことがある。あの時でさえ随分な被害を被ったのに、その名前という人物は無事なのかとレオナルドは心配になる。
無事だとしても、帰りが送れてしまう可能性は高い。



「まぁ彼のことだ。今回も無事で帰ってくるさ」

スティーブンがギルベルトに珈琲を頼みながらそう言うと「そう言って貰えると有難いよ、スティーブン君」という声が扉の方から響いた。


見れば、事務所の扉が開きその向こう側から一人の男性が入ってきた。

解れの見当たらない仕立ての良さそうなスーツに袖を通したその男。スティーブン程ではないが女ウケのよさそうな甘いマスクには優しげな笑みが浮かび、人の良さを滲ませている。



「おや、結構早かったね」

「丁度私のことを話していたから驚いたよ」

にこにこと笑いながらクラウスとスティーブンの方に歩み寄った男、おそらくは話題に出ていた名前その人は、手に持っていたアタッシュケースから書類の束を取り出すと「今回の報告書と、エイブラムス氏から頂いた情報だ」と言いそれぞれに手渡す。


「無事で何よりです、ミスター・苗字」

「貴方は相変わらずだ、クラウス。此処での私は貴方の部下なのだから、そう畏まる必要も無いと前も言っただろうに」


「しかし、ラインヘルツ家は何代にもわたり苗字家にお世話に――」

「私も人の事は言えないが、君も相当だ。せめて名前と呼んで欲しい、他人行儀は寂しいからね」

優しげな顔を途端に悲しそうに変える名前にクラウスは慌てたように「他人行儀というわけでは!」と弁解しようとする。

その慌てっぷりに名前はくすりと笑うと「まあこの話は追々。ところでスティーブン君、彼が例の子かい?」と今まで蚊帳の外だったレオナルドの方を見た。


ぼんやりと名前のことを見ていたレオナルドは突然名前と目が合い、慌てて「は、はじめまして」と頭を下げる。自分よりはるかに生活水準の高そうな相手だ、畏まってしまうのも無理はない。

そんなレオナルドに名前は「君も畏まらなくて良いよ」と優しく言った。



「名前は?」

「レオナルド・ウォッチです。あの、長期任務お疲れ様です」

「ふふっ、有難うレオナルド君。私は名前・苗字。是非とも名前と呼んで欲しい」

レオナルドの緊張を解すような柔らかな声でそう言った名前に差し出された手を、レオナルドは「はい、名前さん」と握った。


どうやら危ない人ではなさそうで、それどころか良い人そう。レオナルドがそんな感想を抱いた頃、事務所の扉がバンッ!と音を立てて豪快に開いた。

大欠伸をしながら事務所に入ってきたのはつい先程までいなかったザップで、ザップは欠伸で涙の浮かんだ目を軽くこすりながら「あー、眠っ」と声を零した。

そのだらしない姿にレオナルドが呆れていると、名前が「遅刻かい?ザップ君」と笑う。


心なしか先程よりも優しげな表情の名前の言葉にザップが勢いよく名前の方を見る。

眠そうな顔から一変、その顔に笑みを浮かべたザップは「おいおいおい、今日だったのかよ!」と名前の方へ駆け寄ってきて傍にいたレオナルドを押しのけた。



「名前じゃねーか!おいおい、帰ってくるならザップさんに連絡の一つや二つするのが礼儀ってもんだろうがよー」

「すまないねザップ君。帰還前も少々立て込んでたんだ」

がしっと名前の肩に自分の腕を回して頭をぐしゃぐしゃと掻き乱すザップにレオナルドは驚く。視界の端でクラウスもおろおろしているのが見えた。


「礼儀を重んじる苗字家の名前坊ちゃんが聞いてあきれるなぁー?」

「本当にすまないね。ところでザップ君、これはお土産なんだが・・・」

「ったく!物で釣ろうったぁ良い度胸じゃねぇか!」

「喜んで貰えたなら良かったよ」

言葉とは裏腹に名前から受け取った紙袋の中身をごそごそと漁るザップを、名前は手櫛で髪型を整えながら微笑みを浮かべる。

紙袋から出てきたのは高そうな見た目をした箱だ。ザップがその箱を躊躇せずに開けると、中にはこれまた高そうな白い靴が入っていた。



「前に電話で、靴が駄目になってしまったと言っていたから」

「へー!相変わらず金遣いとセンスだけは良いじゃねーか」

中の靴を出すと紙袋や箱を乱雑に床に放ったザップはいそいそと自分が履いていた靴からプレゼントされた靴へと履きかえる。


「おー、ぴったり!」

「気に入って貰えたかな?」

「おかげ様で上機嫌だ。何かお返ししてやろうか?」

「お返しなんて。無事にザップ君と再会出来ただけで十分さ」

その場で何度か足踏みをしてからにやりと笑うザップに名前は穏やかな笑みを浮かべながら首を振る。


しかしそんな名前は、ザップによってネクタイを掴まれ思いっきり引っ張られる。

おっと、とバランスを崩した名前の首にするりと回るのはザップの腕。今にもキス出来てしまいそうな程近くなった距離で、ザップはぺろりと自身の唇を舐めた。



「格好付けてんじゃねーよ。本当は欲しいんだろ?」

つつつっと名前からの靴で彩られたザップの足が名前の足に絡まると、名前は観念したように眉を下げた。



「君には敵わないな・・・じゃぁ後で、君の時間を貰っても良いかな?」

「答えがわかりきってる質問すんなよ」

するりとザップの細い腰に名前の腕が回り、二人の唇が重なった。






おかえり、まいだーりん。






「あぁ言い忘れてた。見ての通り、二人はとても親密な関係なんだ」

完全に二人の世界に入っている名前とザップを指差しながら口をぱくぱくと開閉するレオナルドに、スティーブンはそう言って珈琲を一口啜った。



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