八木俊典の場合
八木俊典さんが閉じ込められたのは
「一緒に閉じ込められた相手と人生ゲームをするまで出られない部屋」です。
頑張って脱出しましょう。
「名字くん!目が覚めたね!」
「えっ、あ、オールマイト?」
目が覚めるとそこは知らない場所だった。
傍にはオールマイトがいて、目を覚ました僕にほっとした顔をしている。
固い床の上で気を失っていたらしく、起こした身体は凝り固まっていた。ぐぐぐっと伸びをしながら「此処は?」とオールマイトに聞いてみると、オールマイトは困った様子で僕が目を覚ます前のことを教えてくれた。
どうやらオールマイト自身も目を覚ましたら此処にいたらしく、此処が何処だかはわからないらしい。ただ、僕が気絶している間部屋の中をいろいろ調べたらしく、この部屋にあるものは一通り把握しているようだ。
「あの、扉は?鍵が閉まってるんですか?」
「鍵穴はないようだけど、どうやら扉はこちら側から開かないようになってるみたいなんだ・・・」
「そんな・・・」
僕は思わず表情をこわばらせてしまう。
オールマイトと二人で見ず知らずの場所に閉じ込められている。一人ではなく、あのヒーローと共にというところは安心できるのかもしれないけれど、同時に不安も感じる。だって『あの』オールマイトと一緒に閉じ込められているんだ。もしかすると僕は物凄い面倒事に巻き込まれているのかもしれない。
「不安そうな顔をすることはない。大丈夫、私が君を無事此処から脱出させてみせるから・・・少し離れてくれないかな」
そう言って扉に近づこうとするオールマイトを僕は慌てて止めた。
もしかしなくても、オールマイトはテレビで見たあのムキムキマッチョになるつもりなんじゃないだろうか。でもそれはオールマイトの身体に物凄い負担になるだろうし、僕のせいで元々ボロボロの身体が更にボロボロになってしまうとか嫌過ぎる。
「お、オールマイトが無理する必要ないですから!」
慌ててオールマイトと扉の間に身を割り込ませると、オールマイトが「しかし・・・」と眉を下げる。
「他は?この部屋のこと、いろいろ調べたんですよね?他に気になるものとかなかったんですか?」
「気になるもの・・・そういえば、箱が一つとその上にメモが・・・」
「それ!それ見せてください!」
扉は明らかに堅そうだし、扉を殴ったオールマイトもただでは済まない気がしてならない。ならばもっと他の方法がないかを先に探した方がよさそうだ。扉を壊してもらうのは、最終手段に取っておいてもらわないと・・・
「これだよ」
「えっと・・・『一緒に閉じ込められた相手と人生ゲームをするまで出られない部屋』?」
メモにはそう書かれていて、箱を開けてみればそれは紛う事なく『人生ゲーム』のセットだった。
「これをやれば、扉が開くってことですよね?えっと、その、やりませんか?一度」
「むむっ、しかし・・・」
「これで開かなかったら、また次を考えましょう。その、僕もさっき目を覚ましたばかりで、状況がよくつかめてないんです・・・」
「す、すまない!君を此処から脱出させることばかりで、配慮が足りなかった」
「えっ、あ、いえ、オールマイトは何も悪くないです」
顔を青くして謝ってくるオールマイトに慌てて首を振りつつ、人生ゲームのセットを広げた。せっせと準備をする僕の目の前にオールマイトの腰かけ「えっと、じゃぁ一度してみようか」と駒の一つを手に取った。
準備を終え、オールマイトと二人で始めた人生ゲーム。客観的に見たらとても可笑しな光景だろう。
「あっ、子供が生まれた」
「わっ!またですか?おめでとうございます。えーっと、お祝い金を支払うんでしたよね」
「思った以上の子沢山・・・」
「僕の方はまた借金がかさんじゃったんですけど・・・」
「私が援助を!」
「そういうシステムはないですよ。あ!オールマイト!また出産マス!」
「ううんんんっ!もう車に乗らないよ」
「ゴール直前でも凄い・・・あ、オールマイト、僕ゴールです」
「一位ゴールおめでとう!あ、私もゴールだ」
僕とオールマイトがゴールしたところで、扉の方からがちゃっと音がした。どうやらメモの通りにすることは正解だったらしい。
「扉、開いたみたいですね」
「そうみたいだね」
一応人生ゲームを箱の中に片付けて、二人で部屋の外に出た。
人生ゲーム、やってみると結構楽しかったな。結局借金背負って終わりだったけど。
「こういう状況でも、つい楽しいと思ってしまったよ」
「あ、えっと、僕も楽しかったから、大丈夫ですよ」
困ったような顔で笑うオールマイトに慌ててそう言うと、オールマイトは「それは良かった」と笑ってくれた。戻る