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飯田天哉の場合




飯田天哉さんが閉じ込められたのは
「一緒に閉じ込められた相手と2人で一つのりんご飴を食べ切るまで出られない部屋」です。
頑張って脱出しましょう。



ガンッ!と飯田くんの足が力強く扉を蹴る。でも、扉はびくともしない。

この不思議な部屋に閉じ込められてからしばらく、扉が開く様子は一度だってない。

「飯田くん、もう良いよ。少し休んで」

「しかし・・・」

このままじゃ飯田くんの足にも不調が出てしまいそうだ。

僕は「取り合えずさ、もっとこの部屋を探索してみよう」と言って笑みを浮かべる。ただ、僕も不安だったせいで少し笑顔が引きつってしまったかもしれないけれど。

飯田くんと手分けして部屋を探索してみると、テーブルの上にに置かれたお皿とその上にあるりんご飴、そしてその横にはメモが一枚あった。

「えっと『一緒に閉じ込められた相手と2人で一つのりんご飴を食べ切るまで出られない部屋』?」

「二人で一つのりんご飴・・・」

「えーっと、じゃぁ半分こしようか」

「刃物の類は見当たりませんから、齧っていくしかなさそうですね」

ただ食べるだけなら、一度試してみると良いかも。そう思ってりんご飴の棒部分を手にとる。

見た目は普通のりんご飴。匂いも、甘い香りがするぐらいで普通そのもの。

僕は若干どきどきしながらも口を近づける。

棒が刺さったりんごの表面が飴でコーティングされている。そのまま噛んで大丈夫かな?と少し不安だったけど、飴の表面に歯を立てると固い飴が砕けて、中からりんごが顔を出した。更に齧れば、しゃくっと小気味の良い音がした。


「・・・うん、美味しいよ、このりんご飴」

「りんご飴なんて久しぶりです」

「だよね。夏祭りぐらいでしかみかけないし」

がりがりしゃくしゃくとりんご飴を食べて、飯田くんにバトンタッチ。飯田くんは僕が齧ったところとは反対側を齧った。

「む!確かに美味しいですね」

真面目な顔で言うもんだから、僕は少し笑ってしまう。

誰かと食べ物を共有して食べるなんて、なんだか凄く仲の良い友達同士みたいだな・・・あ、こんなことを思ってるのは僕だけかもしれないけど。


「相手が名字さんで良かった」

「え?」

「・・・これが女子だったらと考えると」

「あー、女の子相手だと遠慮しちゃうよね」

飯田くん、真面目そうだけどやっぱりそういうこと考えちゃうんだ。そうだよね、僕も飯田くんも普通の高校生だもんね。

「僕も、相手が女の子じゃなくて良かったよ。それに、飯田くんみたいな知り合いだったことにも安心してる」

僕がそう言うと飯田くんは「それは良かったです」と笑ってくれた。

そんな会話をしながら二人で半分ずつりんご飴を食べると、扉の方からがちゃっという音がした。確認してみると、扉は開いていた。

「なんか拍子抜けだったね」

「そうですね。全く、誰がこんなことをしでかしたのか・・・」

「えっと、りんご飴美味しかったね」

「はい。今度はこんな怪しい部屋ではなく、もっと別の場所で食べたいです」

その言葉に僕は思わず「えっ」と声を上げてしまった。もっと別の場所で?それって・・・

「あ、あのさ飯田くん、そ、それは、次があるってことで良いの、かな?」

「?はい、そうですけど・・・迷惑でしたか?」

何でもないような顔で言うけれど、普段そういったことをし慣れない僕にとっては大ごとだ。

「う、ううん!迷惑なんかじゃない。あ、有難う、飯田くん」

「そっ、そこまで喜んでいただけると、その・・・」

喜びを隠しきれない僕を前に飯田くんは顔を赤くして照れてしまう。そんな飯田くんを見た僕も、何だか照れてしまった。


結局二人して顔を赤くした状態でその部屋を出ることになった。




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