日野貞夫
「・・・細田、ちょっとそこに座ってくれないか」
日野先輩の言うとおりの椅子に座ると、先輩は別の椅子を僕の隣に引っ張ってきてそこに腰かけた。
「そのままでいてくれ」
「はい」
椅子に座った先輩はそのまま横に、正確には僕の膝の上に倒れて来た。丁度太腿に頭が乗っかる様に倒れて来た先輩が「ふむ」と頷く。何を納得してるのかわからないけれど、特に重くて苦しいわけじゃないから受け入れる。
そういえば僕の知り合いって細い人が多いな。日野先輩も身長が高くてほっそりしてるし。
「最近、お前の太腿と同じような枕を探してるんだ」
「枕?」
「前から使ってた枕が最近潰れてきてしまってな。新しいものに買い替えようと思ったんだが、ふとお前のことを思い出した」
「それで僕の太腿?えっと、ちょっと良くわかりません」
「以前もこうやってお前に膝を貸して貰ったが、その時一番良く眠れそうな気がしたんだ。だがなかなかお前の太腿のような枕は見つからなくってな。結局今も前の枕を使用しているわけだ」
「それは、まぁ、大変ですね」
「今日も探しに行くつもりだから、一度お前の太腿を再確認しようと思ったんだ。・・・それにしてもやっぱり良いな、今にも寝てしまいそうだ」
うとうとと目を閉じたり開いたりし始める日野先輩に思わず苦笑してしまった。
数日後「お前の太腿に限りなく近いんだが何か違う枕なら手に入った」と写真付きのメールが来た。
(でもやっぱりお前の太腿が一番だ、なんて言われてもどう反応して良いのか困る)戻る