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ふわぁっと欠伸をしながら歩く。
昨日も夜遅くまでバイトに勤しんでいたのがいけなかったのだろう。眠くて眠くて仕方ない。・・・まぁ何時もの事なのだが。
若干皺のある服はその辺りに放り投げてあった畳まれていない服の山から発掘したもので、服もよれよれなら髪の毛もぼさぼさ。これじゃ爽やか男子には程遠いだろう。目指してもいないのだが。
眠気で今にも寝てしまいそうになりながらも身体に鞭打って向かうのは、大きな和の御屋敷。門を潜ればどうやら自分より先に来ていたらしい人物がこちらを見てにっこり笑った。
「おっはよー、名前くん」
「・・・おはようございます、先生。朝から元気ですね」
先生と呼んではいるが、俺の学校の先生ではない。彼女は俺がとっくに卒業した高校の教師だ。因みに、一度も受け持って貰ったことはない。
「名前くんが元気無さ過ぎるのよー!ほら!もっとしゃきっとして!」
背中をばしばし叩かれ自然と前のめりになる。バイトで疲れた身体にその衝撃は毒だ。
「先生、痛いです」
「喝を入れてあげてるんだから文句言わない!」
随分理不尽だなと思っていると玄関の戸ががらがらと音を立てて開いた。どうやら話し声で来客に気付いたらしい。
「名前に絡むなよ、藤ねえ」
「何よー!私はただ、何時もへろへろしてる名前くんを元気づけようとしてるだけよ!」
「そんなに何時もへろへろしてます?俺って」
あんまりな言い草に苦笑を浮かべていると玄関から出て来たこの家の主、士郎くんが俺に近付いてきた。
「士郎くん、おはよう」
「おはよう名前。これ、弁当」
ずいっと目の前に差し出されたのは青と白のチェックの布に包まれた弁当箱。
「あー、何時も悪い」
「良いって。名前も忙しいんだし、頼ってくれよ」
「ん・・・ありがと」
弁当箱を大事に鞄に仕舞うと、背中に衝撃が。
「何よ何よぉ!私のこと無視してさー!」
「っと・・・先生、危ないですよ」
突然背中に飛び付いて来た先生。咄嗟に踏みとどまったけれど、下手したら倒れ伏していた。
「ふらふらしないでよー!私が重いみたいじゃない」
文句を言いつつ離れてくれた先生に一先ずほっとする。本当に眠いのだ。さっさと大学に行って、授業が始まるまでしばらく寝たい。
「名前くんさー、ちゃんと食べてるー?」
「食べてますよ」
「例えば?」
「・・・昨日は作る暇がなかったので、コンビニ弁当を」
因みにそれはバイト先の一つであるコンビニから貰った廃棄品だ。
「とか言っちゃって、ほとんどがコンビニ弁当とかインスタントなんでしょー!駄目よ、名前くんだってまだ食べ盛りなんだから」
「まぁ、そうですけどね」
「そうだわ!名前くんも此処にご飯食べに来れば良いのよぉ!」
「何言ってるんですか先生。そんなの迷惑に決まってるじゃないですか」
ただでさえ弁当まで用意して貰ってるのに、それ以外も食べさせて貰うなんてそれこそ士郎くんに申し訳ない。
「そんなことないわよ!ねぇ、士郎」
「もちろん。名前さえ良ければ、食べに来てくれよ。大勢で食べた方が楽しいし」
「そんなあっさり了承しないでくれよ士郎くん・・・」
「藤ねえだけじゃなくて、俺も結構心配してたんだ。名前、ここ最近ちょっと痩せたろ?」
「そう?俺自身はそんな実感無いけど」
言いながらちょっと顔とか二の腕を触ってみる。やっぱり実感はわかないけれど、人から見ればそうなのかもしれない。
「だからさ、今日の夜から食べに来てくれよ。今日のバイトは?」
「夜勤はないけど・・・」
「そっか。じゃ、夜勤がある日は夜用の弁当用意するからさ」
「いや、でもそこまでして貰わなくても・・・」
「俺がしたいんだ。な?良いだろ?」
笑顔で言い切られてしまえば何も言えないし、正直とても有難い。そろそろインスタントやコンビニ弁当には飽きてきたところだ。
「・・・士郎くんなしじゃ生きられなくなりそうで怖い」
「ははっ、何言ってんだよ名前」
士郎くんの笑みが深まる。
「生きられなくなったら、俺が一生面倒見てやるから」
マジかよ士郎くん。
これってプロポーズですか?
年下の男の子の包容力がヤバ過ぎる。
「今日の夕飯は何が良い?名前の好きなもん作ってやるよ」
「・・・じゃ、ハンバーグ」
「おぅ、任せとけ」
本気で士郎くんなしじゃ生きられなくなりそう。あとハンバーグ楽しみ。
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