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「宅配便でーす」

小包片手に玄関前で声を上げる。


何時もならツインテールの可愛らしいお嬢さんが判子を片手に出てくるのだけど、今日はなかなか出てこない。

もしかして留守だろうか、と思っていると「すまない、待たせた」という声と共に扉が開いた。


しかし出て来たのはあの可愛らしいお嬢さんではなく、なかなかにガタイの良い男。もしやお嬢さんの彼氏だろうか。




「判子かサイン、お願いします」

「あぁ。此処で良いか?」

「はーい、大丈夫ですよ」

伝票にサインをして貰い「どうもー」と言いながら荷物を差し出す。


「では俺はこれで。遠坂のお嬢さんに宜しく伝えてください」

「あぁ。・・・いや、ちょっと待ってくれ」


「どうかしました?」

「少し此処で待っていてくれないか。すぐに戻る」


もしや宅配物があるからついでに届けてくれ、ということかな?まぁ遠坂のお嬢さんはお得意様だし、それぐらいは構わないのだけれど。

くるりと僕に背を向けて室内に戻って行った彼氏さん(仮)はしばらくするとタッパー片手に戻ってきた。


まさかタッパーを宅配?と思って若干身構えていると、彼氏さん(仮)は「これは君にだ」と言った。君といえば僕のことだ。ん?僕に?




「丁度作り過ぎて困っていたところだ。持って行ってくれないか」

「もしかしてご自分で作ったんですか?凄いですねー」

差し出されたタッパーを受け取ってぱかりと蓋を開けて中身を見れば、美味しそうな・・・トマト煮かな?生憎、お洒落な料理の名前はわからない。わからないけど良い匂い。



「お昼まだだったんですよー、すぐ食べまーす」

「そうだったのか?もう昼過ぎだが・・・」


「今日ちょっと荷物多くってー。時間指定のも多かったんで、急いでたんですよー」

「なら、引き留めてしまって悪かったな」

「遠坂のお嬢さんとこで最後だったんで、後はのんびり届けに行くだけなんですけどねー」


タッパーの中身はまだ温かい。急いでコンビニに行って、おにぎりとお茶を買おう。確か車に前コンビニで貰って使わなかった箸かスプーンがあったはずだし、問題ないだろう。



「あ、タッパーのお返しはどうします?」

「次の宅配の時で結構だ。彼女には私から伝えておく」


「出来た彼氏さんですねー。遠坂のお嬢さんも隅に置けないや」

僕の言葉に彼氏さん(仮)は少しだけ目を見開いた。

きりっとした顔立ちだから、目を見開いてきょとんとすると何だかギャップがある。うん、遠坂のお嬢さんの趣味は良い。

しかし彼氏さん(仮)の口から出た次の言葉に、今度は僕の方がきょとんとする番だった。




「生憎だが、私は彼女の恋人ではない」

その言葉に「ありゃ、すみません。早とちりました」と軽く謝る。彼氏さんではなかったらしい。



「彼女の親戚でね。今、この家で世話になっている」

「そうだったんですかー。僕てっきり、遠坂のお嬢さんの彼氏さんなのかな?って思っちゃって。妹さんみたいな感じなんですか?」

「そんなものだね」

こんなに格好良い親戚のお兄さんなら、お嬢さんも鼻高々だろう。タッパーの中身を見る限りは料理上手で、イケメンで、たぶんだけど気遣い上手。何かそんな雰囲気ある。



「いいですねー。僕一人っ子だったんで、兄貴とか憧れます。あ、たぶんですけど近いうちにまた来ると思いますよ。遠坂のお嬢さん、よくうちを使ってくれるんで」

送り主の住所が明らかに海外だったり英語表記だったりするけれど、深くは気にしない。お客様の荷物を届けることだけが僕の仕事だ。


「次此処にくるのも君か?」

「僕この地区担当なんでー」

「そうだったのか。それは良いことを聞いたな」

ふっと笑うお嬢さんのお兄さんは文句なしのイケメンだ。こりゃおモテになるだろう。羨ましい限りだ。




「良ければソレの感想も聞かせて欲しい」

「えー、食レポとか得意じゃないんですけど」

「素直な感想で構わない。楽しみにしている」

そう言われちゃ断れない。さっきタッパーを開けた時に嗅いだ香り的には確実に美味しい。食べてないけど既に美味しかった。これは『凄く美味しかったです』という物凄く薄っぺらい食レポになってしまいそうだが、素人の食レポなんてそんなもんだ。



「プレッシャー凄いですよー。あ、僕そろそろ行きます。これ有難う御座いましたー」

改めてお礼を言えば「気にするな」と笑顔で返され、僕は御屋敷の外に停めてあるトラックへと戻った。


さて、取りあえず急いでコンビニに行っておにぎりとお茶を買おうかな。

助手席に置いたタッパーの中身を食べることが楽しみで、僕は普段より機嫌よく鼻歌を歌いながら一番近くのコンビニへとトラックを走らせた。






こんにちは宅配便です






「ちょっとアーチャー、何であんたが出るのよ。宅配の人吃驚するじゃない」

アーチャーが玄関の扉を閉めると同時に、家主である遠坂凛は腕を組みながら言った。


「別に良いだろう。あぁそうそう、彼にタッパーを預けている。次にあの宅配を使うのは何時だ?」

「次?えっと、確か三日後ぐらいだったかしら・・・」

「ほぉ、意外に早いな」

そう言うアーチャーの口角が少し上がったのを見て、凛は眉を寄せる。


「・・・何かやけに嬉しそうね」

「そう見えるかね?まぁ、ああいうタイプの人間は嫌いじゃないんでね」



「はっきりタイプだったって言いなさいよね」

心底呆れたような凛の言葉にアーチャーは「お見通しだったか」とわざとらしく肩をすくめた。



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