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本来中立であるはずの魔術協会の人間でありながら令呪を与えられ、時臣師のサポートとして聖杯戦争に参加することとなったある日。ついにサーヴァントを召喚することとなった。

師に教わった通りに用意した召喚の陣、一語一句間違えないように口にした詠唱。


「僕を召喚したのは貴方ですか?」


美しいサーヴァントを召喚した。

細い手足、小柄な身体、まるで少女のような愛らしい顔立ち、穏やかな雰囲気・・・

とてもじゃないが戦えるような見た目ではなかった。


戸惑いを覚えながらも「そうだ」と返事をすれば、サーヴァントはにこりと微笑み召喚の陣から一歩外へ出た。



「僕は名前。アサシンのサーヴァントです。これから共に戦いましょうね、僕の素敵なマスター」

まるで心を許されているような、親愛を向けられているような、そんな錯覚すら覚えるふわふわした甘い声に私は返事をするのが遅れた。

押し黙る私にアサシンは気分を害した様子もなく、部屋の中をきょろりと見渡すと「素敵なお部屋ですね。マスターのお部屋ですか?」と問うてきた。


「いや、この部屋は師の・・・私の師が用意した部屋だ。今から紹介しよう」

「マスターの師ですか?ふふっ、どんな方でしょう。僕楽しみです」

極々自然に私に近付き、そのまま手を握ってきたアサシン。私が何かを言うよりも先に「早く行きましょう」と声を掛けられれば、手を放すよう言うタイミングを失った。



手を取られたまま師と父のいる部屋へと向かえば、二人は私とその隣にいたアサシンを見て一先ずは安心したような表情を浮かべた。

私の手を握ったままのアサシンが私の手を揺らしながら「どちらがマスターの師ですか?」と二人に問う。時臣師がにこりと笑みを浮かべながら自分だと返事をした。


アサシンは「初めまして」と会釈をすると私を見上げて「素敵な師ですね」とはにかんだ。

どうやら随分と人懐っこいサーヴァントのようだが、果たしてコレは戦えるのだろうか。


そう疑問に思ったのは時臣師も同じだったようで、私に視線を寄越してきた。

私はこくりと頷き「アサシン」と呼ぶ。

名前を呼ばれたアサシンは心底嬉しそうな声と表情で「何ですか、マスター」と返事をする。会って間もないのに、随分と心を許されているような錯覚が起きてしまう。



「お前はどういう英霊なのか、私達の前で説明してはくれないか」

「構いませんよ、それをマスターが望むなら」

何故マスター以外に話さなければならないのか、ということすら聞かない。本当に私に心を許しているとでも言うのだろうか。


「僕はアサシンですので、気配遮断や情報収集に長けていると自負していますよ」

「戦闘の方はどうなんだい?」

師の問いかけにもアサシンは嫌な顔一つせず、それどころか笑みを返す。


「戦闘ですか?えぇ、英霊である以上は強いと思いますよ。少なくとも、『王の気質』を持つ英霊は僕には勝てません」

「・・・王の気質?」

時臣師が反応する。そうだ、師が召喚しようとしているのは『英雄王』ギルガメッシュ。アサシンの言う『王』に該当する。


「僕は王に愛されながら王を殺した英霊なので。王に気に入られやすい体質なんですよ」

「魅了のようなものかい?」

「何か心配事ですか?先程より表情に余裕が無いようですけど」

にこりと微笑みながら無垢な子供の様な仕草で首を傾げてみせるアサシン。父は困ったような表情で時臣師と私を見比べた。



「綺礼、彼に今回の計画を説明する。もしもの時は、わかっているね?」

「はい、師よ」

時臣師のサポート、それをアサシンが拒否するなら、その時は令呪を持って言うことを聞かせるしかない。しかし話し合いで納得して貰えるならそれに越したことは無い。

時臣師に今回の作戦を説明されたアサシンは特に驚いた様子も憤った様子も無く、ただただ笑顔で相槌を打ちながら話を聞いていた。



「成程、僕はマスターの師を勝利させる為の捨て駒という訳なんですね」

端的に言えばそういうことだ。



「アサシン、お前は不満か」

そう問いかけてみたが、不満でないはずがない。私は令呪をいつでも使用できるように構える。しかしアサシンの口から出たのは不満などでは一切なかった。


「それをマスターが望むなら」

まるで最愛の者でも見るかのようにアサシンが私を見る。甘い、全てを捧げたって構わないとでも思われているような、そんな・・・


「僕はマスターに呼ばれた、マスターの為のサーヴァントです。マスターが捨て駒を望むなら、僕はそれに応えるまでです」

にっこりと笑い、甘える様に私の腕にすり寄るアサシン。

その様子に師すらも驚いた様子だったが、協力が得られるに越したことは無いとアサシンにお礼の言葉を述べた。







「良かったのか、アサシン」

時臣師も父もいない、アサシンと二人きりになった当たりで私はそう問いかけた。

問いかけられたアサシンは何の事だかわからないと言う風にきょとんとした顔で首を傾げ、その動作は少女の様な愛らしい顔立ちを引き立てた。


「英霊なら聖杯に望むものがあるのではないか」

私の問いかけにアサシンは微笑む。とろけるような甘い笑み。


「僕の望みなんてほんのちっぽけなものですよ、マスター」

「教える気は無いのか」

「ふふっ、そんな訳ないです。僕はただ、素敵なマスターが呼んでくれるだけで十分です。聖杯戦争の間、短い間だけれど、僕の素敵なマスターと一緒に居られれば、それで望みは満たされる」

幸せで満ち足りている、と雰囲気が語っている。

心底幸せそうに、心底愛おしそうに私の腕にすり寄る。手は未だ離れていない。


どんどん私がこのサーヴァントに信頼され求められ愛されているという錯覚に陥りそうになる。そういうサーヴァントなのだろうか、それとも本当に・・・



「何故お前は自らの王を殺した、アサシン」

ふと気になっていたことを問いかける。

王の気質を持つ者に気に入られやすいサーヴァント。おそらくだか王はこのサーヴァントを深く愛しただろう。・・・殺される寸前まで全くそれに気付けない程に。



「王が僕にくれると言ったんです」

「何をだ」


「全部です。僕が愛おしいから、僕が大事だから、全部をくれると。でも僕が持ってないものなんて殆どありませんでした。だって王は何でもくれましたから。それで僕は考えたんです。僕が持ってないものは何だろうって」

アサシンは「そしたら気付いたんです」と笑う。愛らしい、引き込まれそうな笑みだ。


「王が僕にまだくれてないものが一つだけあったんです。王は僕に何でもくれる。なら、命も貰って良いよねって」

そうして殺したのか。果たして王はどう思ったのだろう。裏切られと、謀られたと、そう思っただろうか。


「・・・・・・」

いや、違うな。

王はきっと自分を殺したこのサーヴァントを憎むことはなかっただろう。むしろ・・・

「マスターは僕のマスターになってくれました。僕はそれで十分です。だからね、僕の素敵なマスター。マスターは僕を好きに使い潰してくださいね。マスターが与えてくれるものなら、全てが愛おしいですから」

むしろ、悦んだのではないだろうか。


全てを与えると告げ、告げた相手に文字通り全てを奪われた。

自分が与えるもの全てを心の底から喜び、尊び、愛する目の前の存在に。



「短い間ですが、これからよろしくお願いします。僕の素敵なマスター」

握られたままの手が、きゅっと握り直される。


「・・・あぁ」

気付けば私はその手を握り返していた。






寵愛されし少年






アサシンが嬉しそうに微笑む。

不味いなと頭の片隅では思うのだ。これではきっと、名も知らぬ王の二の舞ではなかと。

おそらくだが、今の私にはその王の気持ちが手に取る様にわかるだろう。


目の前の存在に全てを奪われる幸せを、全てを愛される快感を。



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