冷たい木枯らしが服のわずかな隙間から冷気を忍び込ませる。秋はどこに行ってしまったのか、気付けばすっかり冬の空気のにおいがしていた。
町の人は皆、上着の合わせ目をしっかりと握り足早に帰路に着いている。誰も好き好んで、こんな寒空の下にいつまでも居たいとは思わない。それは私も同じだった。
ふぅと、漏らしたため息は白には変わらなかったものの、ひどく寂しげな感じがした。もう帰ってしまおうか。


いつも一緒にいた友人が、異性に告白を受けたのだと聞いた。どうやら彼はその告白を断ったらしい、とも。人伝に。
私と彼は友人で、彼には友人としてかなり良くしてもらっていた。周りにはきっと、付き合っているようにも見えただろう。私なんかでは彼に失礼だと、恋仲を指摘される度に私は否定していた。
それでも、彼が告白されたことを伝えてくれた友人は何故か私を心配していた。

「私は平気だよ。だって、私には関係ない話でしょ?」

そういつものように言っても、友人の表情は晴れなかった。


少し前までは、吹く風に金木犀の甘くかぐわしい香りが混ざっていたというのに、すっかり冬のようになってしまった。道には街路樹の真っ赤な落ち葉が積もっている。そこだけ灼熱の業火に燃えているようにも見えて、なんだか不思議な気分になった。

(あの落ち葉たちは、私と同じなのかな)

いくら待てども、いつも同じ帰路に着いていた待ち人は来ない。わかっていても待ってしまう。悋気に身を焦がしながら、私はいつまでも彼を待っている。
私なんかが嫉妬するだなんておかしな話だ。

(私は関係ない)

落ち葉達は時が過ぎたからああして地面に落ちただけ。ああして土に還るだけ。

(じゃあ私は?)

私は自分に関係のない悋気に、一人身を焦がしている。滑稽な話だ。彼が聞けばきっと笑うだろう。
その前に、自己嫌悪で別の私が私を見て笑っている。

「お前は実に滑稽だな、反吐が出る!」

そう言って私が笑っている。知ってるよ。
自分の中にあるいろんな感情が、縺れに縺れて鎖のようになってしまった。今更もう遅いけれど。

(私も、還りたいなぁ)

明日また、彼に会えば、何事もなかったように話せるだろう。いつも通り、他愛のない世間話に花を咲かせることができる。つまらない冗談を言い合って、お互いに笑い合える。それは彼も私も同じ。

(だからこそ)

嫉妬なんてしてる自分を認めたくなくて、こんな自分は汚く思えて、消してしまいたくて。

(燃やすなら全部燃やしてしまえ。塵も残さず)

嫉妬も自己嫌悪も彼が好きという感情も、全部私に還元されて、まだ気付いてなかった頃の私にかえりたい。



─────



::お題
・金木犀
・落ち葉
・かえる(帰る、還る)
・縺れた鎖

(お戻りの際はバックブラウザでお願いします)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -