君に会いに行こう

しばしの間、意識がどこかへ飛んでいた。
緩やかなうねりに浮かんだ一隻の小さな船は
錨をおろすことも、帆を張ることもなく海に浮かんでいた。

自然が突きつける運命の決断を待つように、
船の持ち主は、ゆったりと戻り来る意識の中
遠くに見える島の火を見つめた。

夜の凪は、果てなく続く静寂のようで
どこか「取り残された」ような感覚が
じわじわと身体の末端から内面に侵食してくるようだった。

たとえ島民が寝静まろうと絶えることのない
ひとつの火が、どんなに離れていても自分を温め
まるで「本物の人間」であるかのように感じさせる。
そのかすかな熱は、孤独を忘れさせてくれる。

そんな、妄想じみた感傷に浸っていると
小舟が海面と共に大きく沈み込み、そして
空を目指すように浮き上がった。

小さな足音に、振り向くことすら煩わしいと
思っていた。

「やあ、すっかり遅れてしまったね」

「待ち合わせた覚えはないが、よくここがわかったな」

見上げれば、闇に紛れた大きな黒鳥が役目を終え
飛び去るところだった。
そして、自分を覗き込む目、その目には大きな古傷があり
視線を交わすと大きく弓なりに歪む。

その日を待ちわびたかのように、男ははるか遠くに燃える
火をじっと見つめて、深く息をついた。

「....あれがトモシビか」

「そう、彼が残した火だそうだ」

夜の闇の中、月光が海面を照らす。
彼はサボの到着に安心したかのように
冷たく色づくステンドグラスのような大きな翼を広げた。

火は消えない
ほんの少し、その温もりを感じる距離で
二人は目を閉じ、亡き愛する人を悼んだ。


「あんたが気にしていた"ブツ"だけど、ドレスローザに向かったそうだよ」

「....やっかいだな、ルフィたちも向かってるんだろ?」

「パンクハザードでの海軍連中の無線通信によると
そろそろあの島を出るだろう。七武海のトラファルガーと
共に行動を起こすのであれば数日中にでもドレスローザに
入るという予測だ」

サボはシルクハットをかぶり直すと、また島の火へ
向きなおった。

彼はその様子をしげしげと眺めながら、
マストに寄りかかり、小さく笑った。

「さすがの参謀総長も、弟のこととあれば
落ち着かないんだろう」

「ロビンにもそう言われた、もう我慢の限界だよ」

この男はどこまでも真っ直ぐな男だった。
彼はサボの辿ってきた道を思えばおもうほどに
計り知れない痛みを、感じざるを得なかった。

「トモシビ島へ行きたくはないか?サボ」

その言葉に、サボは少し考え込むような顔をすると
苦々しい笑顔を浮かべた。

「それは多分、今ではないんだ。
 いずれは行くだろうさ」

「そう....か、ではこの船はお前が使うといい」

彼は勇壮な翼を緩やかに揺らしはじめ、飛び立つ用意を始めた。

「サボ、一つだけいいかい」

「なんだ」

「どうして私に、メラメラの実の行方を追わせたんだ?」

サボは笑みを浮かべていた口をキュッと結ぶと
ハットのつばを下げ、顔を隠した。

「執着ではなく、義務であるという大義名分。そのためだ」

「嘆かわしいねぇ」

「その火で、俺はルフィの行く先を照らし
 立ちはだかる壁を燃やしつくすだろう。
 俺は、地獄へ落ちるんだろうな」

気の無い言葉に、アンジーは声を上げて笑って見せた。

「お前なら地獄でもうまくやっていけるさ」


ゆっくりと空へ吸い込まれて行く、天使とは言いすぎの
悍ましくも美しいその姿に、サボは小さく手を振った。

「お褒めに預かり、光栄だ」

まっすぐに、火の方へ。
破壊の限りを尽くし、最後は自らの命までも
奪うこととなったその火は、彼らにとっては
安らぎの火に他ならなかった。

誰にも奪われてはならない。
執着は、焼いても洗っても落ちないものだった。




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