背伸び位で済めば易いもの。

心がもし、目に見えるものだったとしたなら
それはきっとゼリーのようなものだと思う。
淡い薄桃色の、光へ透かすとキラキラする様な。
まぁ、……根拠なんかないけど。



「今日の空、青くていいなぁ。」


1人誰もいない甲板で
正午の日射しを見上げた。
穏やかさは、それだけで幸福だ。



「あれ、……1人じゃなかったのか」



太陽に目がチカチカして
眉間に皺を寄せながら船首をみた時
赤いシャツを羽織った麦わら帽子の背中を見た。
ライオンの頭頂へ胡座をかき
潮風にゆらぐ上着を気にする様子も無く。



「ルフィ?」



船首に足を向かわせながら
彼が一体何をしているかと思い、名を呼んだ。
振り返る事も、満面の笑みを見せる事もなくて
ただ彼の上着だけがハラハラと揺れはためく。
聞こえないのか、それどころではないのか
何だか面白くなくて再度彼を呼ぶ。


「ルフィー?聞こえてる?寝てる?」



それなりの至近距離。
未だ返ってこない返事。
いつもばか騒ぎしてサンジに叱られる人が
珍しく静かで、一瞬別人なのかと焦る。
身を船縁から少し乗り出して覗けば
ちゃんと見知ったあの顔が在って安堵した。



「……ルフィ?」


「んー?」


「何回も呼んだのに。」


「んー。」



うわの空で発される返答に
自分でもよく分からない感情が湧いた。
淋しいのか腹立たしいのか、不安なのか
よく分からないものがグルグルと。



「何を見てるの?」


「……んー。わかんねぇ。」


「わかんないの?」


「おー。」



気持ち半分の声がまるでショベルみたいに
私の内側にある淡い桃色のゼリーを
抉る様に削り取る気がした。



「私、邪魔してる?」


「いんや。」



乗り出している身体で背伸びをした。
早く彼の視界に収まりたくて
目を合わせれば笑ってくれる気がして
ぐぐっ、と目一杯爪先に体重をかけた。
帽子の鍔が邪魔をして中々見えてこない顔を
捉えたい一心でなけなしの筋力を総動員する。



「ぁっ、」


「っ、おい?!」



ズルリと滑り落ちたらしい身体は
落下しながら冷や汗をかく。
海王類の餌になることなんかより
ルフィと離れる距離を想った。



「あっぶねぇ!!」



伸ばされた腕が私を掴み呼び寄せて
気付けばライオンの頭の上。
まだ見る事に抵抗のある胸の傷痕へ
強制的な頬擦りをしていた。



「おーまえ、ドジだなぁ。」


シシシ!と笑い声がして
胸が痛くて顔を上げた。



「ドジ……じゃないもの。」


「そぉかぁ?」




さっきまでのアレは何だったのか
そう思ってしまうくらい
いつもの無邪気な笑顔が在って
また、私の頭はグルグルと混乱する。



「き、傷痕のトコやっぱり皮膚が薄いね?!」



「っ、……あぁ、」




一瞬だけ歪ませた表情は
傷口の痛みのせいだろうか。




「……痛む?」



「いんにゃ。痛くねぇ。」



「痛そうな、顔、したよ?」







それきり
ルフィも私も喋らなくなった。
ライオンの頂で二人。
本当に何を見てるのか
解らなくなってしまう位、ずっと。








「忘れたくねぇモンて、あるんだな。」






海が夕暮れに焼け始めた頃
一瞬だけ私を強く抱き抱えて
無理矢理、傷痕に頬擦りさせながら
ルフィがそんな事を言った。




「泣くなよぉー、飯食おうぜ!」



「……ん。……食う。」






知らぬ間に私の目から零れた涙は
一体どこにいくんだろうか。





「面倒くせぇから掴まってろ!運んでやる!」




「ぇっ、ちょ、ちょっと?!」







出来るなら
私の胸の内側で
薄桃色に変わってしまったらいい。






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