獣は夜踊る



目を開けば、そこには白くすべすべとした
腕が見えた。

周りは変わらず騒がしいところを聞くと
どうやら少し寝ていたようだ。

腕の主を見上げれば、罪作りな程に美しい女が
騒がしい後席の男たちに微笑みかけていた。


酒はいい。

こんなに自分の頭を締め上げて釘を打ち込んでくる
のに、どうしても毎日こいつにすがりつく。
依存だろうか
当人は否定する、それが依存だ。

指摘されれば憤慨する
それは都合が悪いからだ。

まるで俺だ。



「お目覚めですか?」


囁くような声に答えられる言葉などなかった。


しばらく店内に響く下世話な話に耳を傾けながら
その場に居座り、脳内の釘が抜けて行くのを待った。


「私、海賊の人たち好きだなぁ。」


女は男たちを眺めながら、しみじみと言った。

世の中を知らない連中は、よくこんなことを言う。
自由讃歌とでも言うのか。

自由の変わりに課せられる責任も知らず。

「じゃあ、なればいいじゃねぇかよい。
 海賊に。」

「フフっ、私なれないんです。」


優しく笑った女の足下にかすかに轍の音がした。


重たい顔を上げて覗き込めば、女の足首には
足枷が、そして鎖は店の壁に繋がれていた。

よくある事だ。

きっかけもあって上げた頭が勝手に揺れるのは
まだまだ釘が抜け切れてない証拠だ。


「そのぐらい、俺だったらぶっちぎれるよい。」

「ふふ。」


喜ぶでもない、驚くでもない
そんな女の態度が微笑ましいと思った。

「優しいんですね、まるで天使みたい。」

なんとなく、数日この女と過ごしいと思った。

どうせ動く気もないクルーの尻を叩いて海に出る
気も失せていたし、都合がいいと思った。

ついさっき見せた足枷の事も忘れる程に
酔った振りでもみせりゃ、どうにかなるだろうとすら、考えた。

「海賊は、天使じゃねェだろい。」

「じゃあ、獣かしら。」

「人間は、天使でも獣でもない。
 あんたらみたいなのは、天使みたいに行動しようとするだろうが...」

「獣のように行動してしまう?」

「...あぁ。」


酒を取りに背を向けた彼女の背に羽でも生えてるのかと
凝視してしまった。


「海賊になりたいのではなく、海賊という人間の本能を
 剥き出しにした人が、いいなと思ったんですよ。」


静かにボトルをカウンターに置きながら、変わらない笑顔で
向き直った。



「満足した家畜よりも、不満足な人間である方が
 私はいい。」


差し出された酒を見下ろしながら、グラスの片隅に映り込む
彼女を見つめた。

途端、彼女の目の色が色づき輝き出した気がした。
それは、若さや、美しさではなく
どこか俺たちよりもはるか遠くを見ているような感覚。

むしろ、老いた老婆。


「...私なりの、用心です。
 マルコさん。」



誰が抱くか。

そう怒鳴りそうになった。




俺はその鎖をちぎって、自由を与える力を持ってるが、
彼女はその頭ひとつで人を殺せる程の力を持ってるだろう。


その笑顔も。


話し込めば、俺はもっと気分が悪くなっていただろう。






こういう女は苦手だ。











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