Lovers in the back seat 現パロ01


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男子三日会わずば刮目せよ


よく言ったモノだ。

調子に乗って3日どころか2週間ほど放置して
しまった男子から、業を煮やしたかのような
着信の嵐が来ていた。

気づいた時に、私が居たのはピンクのコートの
上だったんだ。

エースが怒ろうが、泣こうが、正直問題は無い。

そもそも、将来に興味が無い。
私は今死んでも悔いのないように生きているから。

初めて会ったその日、みんなの前でそう豪語する
エースに、同類なんだと感じた。

帰り道、何も言わずにエースの唇を貪っていた。


恥じらいとか、貞操とか、そんなモノを誰も
教えてくれなかったし、教えてくれても覚えられ
なかっただろう。


眩しい日差しを携帯で遮りながら、追っても
追いつかぬ着信の確認を途中で止め、何通か
届いていたメールを確認し始めた。

・・・何こいつ。

必死さは伝わってくるんだけど、吹き出してしまう。


---どこにいるんだ
--連絡しろ
---返事なかったら別れるからな
--電話しろ
---夕方までに連絡しろ
--別れないから電話に出ろ
---ごめん、別れないから
--別れるとか言ってごめん


携帯から放たれる、無駄に早いボタン音に
うなり声を上げた抱き枕がこちらに寝返りをうつ。

背後に気配とは気分のよろしいものではない、
こちらも正面から向き合い、腕を首に回して彼の
顔越しに携帯を見直す。

---なんで電話に出ないんだ
--やっぱり別れる
---何かあったのか
--警察に言うぞ
---頼む、連絡くれ


フフっ。

吐いた息に、ピンクが揺れる。


閉じたメール画面の後に表示される、何度見返しても
変わる事が無い日付は、この男に捕まってから
14日経過していることを示す。


呆然と眺めていた画面が、ポンと向こうに飛んでった。

大きな手に弾かれた、小さな機械の放物線を
追っても、その日付は変わらない。


「うるせーな、まだ寝かせろ。」

「ごめんごめん、全然ケータイみてなかったから。」

抱かれ慣れた身体の、特段、腹部のあたりが疼く。

触れ飽きた唇を舐めてからベッドを飛び出す。


「次は、いつ帰ってくるんだ。」

「さあね。」

「エマ…。」

まだ何か言いたげに身を捩らせて、ベッドから
ダラリと腕を垂らしたドフラミンゴはそれに勝る
疲労感に任せる他なかったんだろう。
服を着て出て行く私を見るべき瞼すら、閉じたままだった。

弾き飛ばされた携帯を拾い上げ、だらしのない彼の写真を一枚撮った。




使い慣れたキッチンを通り過ぎ、いつ淹れたかもわからない冷めたコーヒーを一口含んで、そのまま家を出る。


電話、よりも会いに行こう。


いつもグローブボックスに入れてあるはずのサングラスがリアシートに転がっていて、ひん曲がったフレームが持ち主を恨みがましく見つめた。

もうサングラスとして使ってくれるなって?

悪かったわね。

衝動的で、情熱的で。


太陽を避けるように少し遠回りをして、エースの居る街へと向かった。



部屋の番号は何番だったっけ。

驚かそうと思ってたのに、いいところで電話の出番がきちゃったな。

そんなことを考えながら覗く自動扉の向こうから歩いて来たエースは、私同様に携帯を見下ろしながらこちらに気づきもせずにオートロックをすんなりと開けた。



「エース?」

「え?お、おう。」


男子3日会わずば刮目せよ

それはこの全身に纏った黒い服のことだろうか。
それとも憔悴しきったこの顔のことだろうか。


「どっか、行くの?」

「ああ、…乗せてけよ。」


静かな物言いに、なかなか落ち着きのある男になったな、などと感心しながらどうやら今日は遊べないな、などと冷静に残念がる自分がいる。


そういう考えは、どんどん退化する。
口にしないようにだけ注意している。


「斎場どこ?」

「え、なんで分かったの?」

「だって、喪服でしょソレ。」

「あぁ、そっか。」


優しい言葉が欲しい?
慰めの言葉が欲しい?

顔がそう言ってる私と、欲しいと言うエースの顔は
一定の距離を保つ。
私らしくないと分かりながらも、車は前に進む。


欲しがるものを与えるのは嫌いじゃない。
でも私が与えないのは、君が悪いんだよ、エース。


あの日、私を騙した君が。

君は同類だと、私に思い込ませた君が。



「親父が危篤でさ、おととい…。」

「そうだったんだ。」

「俺、最後に親父にお前を会わせたくてさ。」

「そう…。」

「あのっ、しつこく電話してゴメン。ちょっと今、
辛いっていうか、なんていうか…。」

順調だった信号の流れが赤信号に引っかかって、私は舌打ちしてしまった。
きっとそれは、赤信号共々、エースに対してでもあって、その先は別に聞きたくないから。

「だから、別れない、もうちょっと、傍にいて欲しいっつーか…な。」


自分の欲しいものを引き出すのがヘタだな。


幸か不幸か、黒い服だった私はそのまま葬式に参列してしまったわけで、まあそれが最大限の譲歩だったんだけど。

大の男らがおめおめと泣くその式の終盤、棺桶に花を添えるその時、初めて対面したその親父の作られた幸せそうな顔に唇を噛んだ。

この大男が私を睨んでいるような気がしたから。

親父さん、生前に私と会わなくて
正解だったんじゃないかな。

孝行息子を持ったね。


そう心の中で呟き、ひと際匂いを放つ白い百合の大輪を胸元に置いた。


ぱっと離した手が、じんわり温かくなる感覚がした


風に吹かれる様に、思わずエースを見た。


顔の原型も留めない程に、泣きじゃくるエースを。


今にも吐きそうな顔をしながら、泣く、泣く、泣く


その姿を見た私は、どう思えばいいの。

偽物でよければ涙だって出る。
大人の振る舞いだってできる。

でも

感じた事の無い、最上級の欲情
そのはけ口が無いことに、奥歯が軋む。



出棺の後、火葬に伴わなかったエースが駆け寄って来た。

「エマ、ありがとな。」


すっかりと涙を拭いきった様子のエースは、去って行くバスを指差しながら、ため息をひとつついた。


「兄弟がいっぱいいるからさ、俺…行かないことにした。」

「そっか、家まで送ろうか。」




腹が減ったなどと気丈に振る舞うエースはファミレスでステーキを所望した。


その名の通り、ファミリーで賑わう店のポツリポツリと空席のある喫煙席で、温かいコーヒーを飲みながら、親父の思い出話を血反吐のように捻りだすエースが痛々しかった。

「で、どこ行ってたんだ?」

「仕事が忙しくてね、全然抜けられなくて。」

「そっか、悪かったな。何回も電話して。俺も焦っててさ…。焦ってもどうなるもんでも無かったんだけど。」


ふと止まった会話に、お互いになんとなく視線を落とした。

数時間前の泣きじゃくるエースを思い浮かべながら、手元のタバコを弄くり、毎度やってることをしようと思った。

適当な理由と共に、別れ話を切り出すのは私の十八番で、
今このタイミングは間違いなくエースにとって最悪、だろう。

悔いのないように?

まるで自我の無いその態度、それじゃあ生きにくいはず。
少なくとも私は、そう思う。

じゃあ早く終わらせて、家に帰ろう。
そうしよう、実は結婚してるとか、言ってしまおう。

小さく音を立てた、エースの手元のスプーンに視線を上げたときには、そんなこと考える余裕が無くなった。


テーブルの下、器用に私の足首からゆっくりと脚の内側を擦り上がってくるエースの脚が、上下する度に言われなくても伝わって来たから。


顔を見れば、悔いの無いように生きる
そう書いてあるみたいに


私の憎んだエースは、もう目の前にいなかった。


やっと同類のなった、そう言われた気がした。



-二週間くらい、帰れない-


取り出した携帯の、あの人の写真に呟くようにメールをして、


上塗りされていく悔いのない人生の階段をまた一つ
上がる。






よく言ったモノだ。




FIN


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