黒染の雪が降る

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「齢は十もいかない少年でね、

山奥の真白な雪原に紛れ隠れるような白い花のような肌で
闇夜に潜む野犬のような黒い目をしていた

忘れもしない。」


安価で後味の悪い酒を煽りながら
その人は悲しげな目をしていて
その目はどこか遠くを見つめるように
そんな話を始めた。

「救ったのか、破壊したのか、
私には何とも言えない。
呪われた山奥の村で、彼は...。」

するりと伸びる細い腕がやけに白く見えた
ときどき言葉を止めては、遠くに浮かぶ月に
微笑みかけ、その笑顔を俺に向けることはない。

「呪われた隣人を、家族を、
撃ち殺したの。」

視界を揺らめく髪を流し避け、
いつもは飲まない安い酒をまたグラスに注ぐ。
今はその人の声をずっと聞いていたかった。

「オカダの家の息子が狂ったと、
皆が騒ぎ出したときには遅かった。
みんな大蛇の呪いにかかってた。」

ゆっくりでいい、その声をずっと聞いていたかった。

「大蛇に噛まれ、狂っていた。
誰もが、そう。
最後には子供たちしか生き残らなかった。
私の弟も、
まだ五つの小さな男の子だった。

彼は言ったの

「噛まれたか。」と

弟は

「噛まれてない。」

そう言ってすぐに、撃ち殺された。

本当に噛まれたのかしら。
私にはわからない。

その隣にいた私にも
同じ言葉がかけられた。

私は答えなかった。


だからまだ、生きてるの。」


感慨深げに、グラスに移る自分の姿を見つめながら
その人は口端を上げてまた酒を飲む。

「海に向かって、歩いて行ったわ。
その少年、そしていなくなった。
追いかけたけど、どこにもいなかった。
まるで神隠し。
でもね、追いかけたのは殺すためじゃないのよ。」

「...理由を聞こうか。」

「恋をしたの...。ずっと探してた。」

「見つかったのかい、その少年。」

「海賊に、なった。そして私の目の前でお酒を飲んでる。」



穏やかなその表情に、生き写しのその顔が
あの頃のままだと
そう思うと胸が張り裂けそうだった。

グラスを握る細い指に手を添えれば、
あの人の中でも何かが燃え上がったような
そんな音が聞こえた気がする。


「イゾウ...。」

名を鳴かれ、もう片方の手も
ミヅキに触れたいと俺に嘆く。

「恨んでないわよ、あなたは救ったの、村を。」

手を引き身を寄せれば未だに
ミヅキからも火薬の匂いが漂う

きっと未だに俺も
同じ匂いを放っているのだろう


「でも私の心は、私の魂は、彷徨い続ける。
この先もずっと。」


袂を掌でなぞり、背に返せば
熱を帯びた肌が露となり
浮かび上がる漆黒の痣は醜くも
その肌の白さを際立たせる

雪原に咲く白い花を取り巻く
野犬の黒い目の様に

俺と同じ
女物の着物を纏った身体

頬を擦り寄せ、ミヅキの身体を
食い荒らす呪いを睨みつければ
恨めしげに俺を覗き込む漆黒の目が

目が俺を映し出す

齢の十、いかぬ子の
泣き顔が尚もそこに


俺にしかできない事だった
村一つ焼き払うことは
なんのことはない、
親殺しも、兄弟殺しも
なんのことはない

嫌われ者になることなんて
なんてことはない

だけどその子は泣いていた
海に向かう道すがら
川縁の道で
藁葺きの傘で顔を隠し
泣いていた

染み付いた火薬の匂いを消したくて
あの娘の着物を海水に浸して
海を赤く染めながら
泣いていた


残して来たのは姉の格好をした弟
俺が殺したのは、初めて恋したあの娘

未だ姉に成り代わっているミヅキは
俺以上に、あの娘を愛してるんだろう


呪われた女形の首に噛み付き
姉弟に告げた


愛していると



俺はそれでも
嫌われ者でいい



FIN




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