The Las Vegas

誘惑の都市ラスベガス

色とりどりの光に照らされた午前1時の街を見上げれば
渦巻く狂気が目に見える。

太陽は影を作るが
闇は皆に平等だという

この街がその良い象徴ではないだろうか
老いも若きも
貧しい者、豊かな者
誰もがこの闇の中を人工的に照らされるネオンを横目に
思い思いに過ごしている。

「平和だぁ・・・。」

喧噪の中、力なく目を足れ下げたフィオナは、開かれたドアの外を見ていた。
彼女がこの街の闇に平等を賜って3年の月日が流れていた。

その3年、何が起こったのかなど覚えてはいない。
その以前に、何があったかも彼女は知らない。

徹底的に自らの目の前を横切る"満足感"を、金や権力でむしり尽くす。
その生活の中に、"歴史"や"責任"などという言葉は何の意味も持たなかった。

誰もがうらやむような生活の中
彼女の口にする平和という言葉は
彼女の不安をかき立てる。

終わりの無い人生、それが平和
ならば、彼女の満足は次々に彼女を誘惑し
欲望をさらに膨れ上がらせる

常人には理解しがたい、最絶頂の満足感と最下低にある絶望感
それは彼女が平和から授かった負の代償

ドラッグによるものだ

いつもの大所帯の遊び仲間にもまれ、バーを出たフィオナは現在
いつも以上に気分を高めていた
酒を浴びる程身体に流し込み、いつも以上にキマっている

世界が自分を中心にぐるぐる回っている。
右と言えば右へ、左と言えば左へ。

平和という文字が頭から消えた瞬間、フィオナの身体は不安から解放される。

彼女の視界の中、ネオンが描く放物線
いつもとは違う視線で見つめる名ばかりの仲間たち

はっきりとは聞き取れない叫び声をあげながら、リムジンに乗り込んで行くのが見えた。

解放された身体を動かす気にはなれなかった
多幸感に満たされ、自分に自信を持たせるその状態は
意識だけが活発に動き回り、身体の制御とはかけ離れているのだ。

道ばたに倒れ込んだ彼女は、ビルの間から覗く夜空を見上げ静かな笑い声をあげた。
バクバクと心臓が大音量で彼女の耳をつんざくようだったが、そんな身体の異変にも
気がつかないくらいに・・・。

「オエッ・・・・。」

ギリギリ横に向いて、痛みも何も感じない嘔吐をしたころに
目の前のリムジンが発車したのが見えた。


「フフ・・・どうでもいい・・・。」

どうでもいいんだ
イマの私は最強なんだから
世界で一番・・・鼓動が・・・早い・・・

イキガデキナイ



「・・・イッ!!」

男は石につまづくかのように道に倒れた。
そして、じんわりと感じるイヤな予感とイヤな臭いに顔をしかめた。

「きったねェな・・・おい!」

きたない以外の何ものにも分類されない光景の中で横たわるフィオナに
向かい思わず大声を張り上げた。

「テメー、道の真ん中で何やってんだよ。アー、くっせェ。」

ゆすろうが、声を張り上げようが反応のしない彼女を睨みつけ一発殴ろうかと
拳を握ったものの、周りの目を気にしてかその手を彼女の両脇に置いてその場に座らせた。

死人のように首を垂らした彼女の口元がわずかに動いているのに気がつき
彼は恐る恐る、耳を近づけた。


「わたしをここから・・・連れ出して。もう、ここにいたくない・・・。」

そう呟き、繰り返す声が次第に消えて行った。

呼吸が先か、心音が先か

彼女の状態を悟った男は、彼女を担ぎ上げ舌うちをした。

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