Act1-3


「…エーット、なんて?」
「だから、私は夜兎族の生き残りで宇宙海賊春雨の傭兵部隊、第七師団団長補佐のなまえ。助けてもらったのは感謝だけど早く戻んないとおっかない団長様に殺されちゃうからはやくここがどこか教えてちょーだい。治療の報酬はごめんだけど春雨の戦艦に戻んないとできないから。ちゃんと払うし心配しないでね。そのためにも江戸のターミナルに行かなきゃ。船適当にかっぱらって出国するから。」
「なんて????」


ピキッ、なまえの額に青筋が浮き出る。何回説明させんだコラ、の一言がもうそこまで出掛かっていた。
太い青筋が額に浮かんだなまえの前に立つのは治療を施した家入硝子、なまえを呪霊から取り出した五条悟、高専に連絡を入れた夏油傑、そして彼らの担任の夜蛾正道であった。混沌とする現場が発生する10分程前、家入に連れられてやってきた大の男3人に特に臆することなくなまえは自身の状況を把握するためまずは自己紹介と今後の要求等々身の上話をすると目の前の3人は宇宙を背中に背負うことになった。家入と名乗った女は呆れ顔である。
方やなまえは少しの違和感を覚える。いくら地球人といえども春雨の名は一般の人間たちには数々の犯罪行為によって恐怖の対象として刻まれているはずだからだ。なんなら最後にはさらっと犯罪行為に手を染めることを悪びれもなく発言している。なまえとしては春雨の名前、自身が傭兵部隊の幹部であることを露呈した時点で話はうまく進むと思っていたのに、目の前の4人は自分の要求を何一つとして理解していないように見えた。



「…呪霊に喰われて頭おかしくなったのかこいつ」
「悟。思ってても口に出してはいけないよ」
「ハァ……君、なまえといったか?」
「ウン」
「ここは東京都立呪術高等専門学校だ。江戸は数百年前に終わっていて、ここは日本の首都の東京。こんなことは小学生でも知っている。」
「ーなんて?????」


今度はなまえが宇宙を背負った。



「君は呪いという人の負のエネルギーから生まれた呪霊に取り込まれ、それを排除した際にここにいる五条悟に助け出された。君の体から呪力を全く感じられなかったこと、日の光を受けると皮膚が爛れ始めたこと、君がおそらく呪霊に取り込まれる前に受けた銃槍が大した傷とならずに君が生きていることを報告された。そのまま通常の病院に入院させるわけにはいかなかったため、こうしてこの高専に連れてきたということだ。」
「……ジュレイってあの化け物のことか」
「!見えるのか?」
「いや、うん。一応視える。絶対殺せると思った勢いでぶん殴ったんだけど攻撃が効かなかったんだよね。で、為すすべなく喰われた、はず。」
「君には呪力がない。呪霊は呪力をもって相対しなければならないからな。
なぜ呪霊に相対することになったか覚えているか?」
「あァ、うん。春雨に『桃源郷』っていう団体が奇妙な術でやましいことしてるってタレコミがあったから私に処分してくるよう命令があったんだよね。で、処理しようとしたらそのジュレイってのが現れて、って感じだったかな。」
「呪詛師が呪霊を操っていたんだろう」
「うーん、どうかな。あいつらは化け物を認識できてなかった気がする。巻き込まれて死んでる奴もいたし。視えてるっぽいのもいたけど、たしか霊魂が顕現した!とか言ってたしね。ジュレイなんて呼んでなかったと思う。操るとかいう次元じゃなかったよ。」



ジュレイ、ジュリョク。ここは地球だけど江戸じゃなくてトウキョウ。もしやワープじゃなくてタイムスリップでもしたのか?普段頭なんてほとんど使わないからまじで頭が痛い、なまえはこめかみを抑えた。



「とりあえず、私を襲ったのはそのジュレイってので間違いなさそうだよね。えーと、ゴジョウさん?助けてくれてどうも。」
「呪霊に喰われて生きてる奴なんて見たことねー。ってか会話噛み合わなさすぎじゃね?宇宙海賊ってなんだよ厨二病か?」



こちらを指をさしながら爆笑する男になまえは治った青筋が再び額に浮かび上がるのを感じた。



「あ?てめー調子に乗ってんじゃねーぞ殺すぞ」
「は?やってみろよてめーみたいなヒョロヒョロの攻撃なんてあたるわけねーかッーーー!!!!??」



五条が最後まで煽り切る間も無く五条の目の前には思いっきり回し蹴りを繰り出す包帯が巻かれた細い脚が現れた。目の前の彼女からは呪力を感じないため、まさか急に攻撃されるとは露とも思わず、さらにはそのスピードの速さに咄嗟に無下限術式を発動するも頬に足先が掠める。わずかに掠めただけだというのに、たらりと頬から血が流れるーやっぱりこいつ、天与呪縛のフィジカルギフテッド!「悟!」「おい!やめろこんなところで!」「オマエらここぶっ飛ばしたら二度と怪我なおしてやんねーからな」夏油と夜蛾、家入が三者三様に睨み合う二人に声をかける。



「アレ?頭吹っ飛ばすつもりだったのに。おかしーな」
「ハッ。表出ろよ女ァ!」



五条の煽りについにプッツンきたのか、なまえは窓に手をかけ飛び降りる。ここは3階である。軽々と着地し、部屋に残る五条へ中指を立てる。この女に煽り耐性はない。



「いい度胸だ。やってやるよ」



そして五条悟、こちらにも煽り耐性など無いに等しかった。二人の様子を見た夏油と夜蛾は深いため息をつき、家入は面白そうに窓の外を眺めていた。






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