Act1-1


ふわふわ、あったかい。船の中の自分のベッドより数段気持ちの良い何かに包まれてる。これ布団かな?めっちゃ気持ちいいー、ってあ。そうだよそうだよ。わたし死んだんじゃん。じゃあこれ死後の世界かな?って死後も意識ってあるんだ。あーよかった。これで団長たちのこと、待ってられそうじゃんね。
結構銃弾食らったし、怪我もしてたはずなんだけどやっぱり痛みってないんだね。そろそろ起きようーゆっくり目を開けると目の前には白い天井、ー天井?
周りを見回すと、どうやら本当に布団の上に寝かせられていたらしい。白いカーテンが窓から流れる風を受けてひらひら揺れる。見覚えのない空間でどうやら私は爆睡決め込んでたらしい。
あれ??もしかして生きてる???いやー完全に死んだと思ったんだけど??
自分の体を確認するも、やっぱり怪我はない。おかしいな、変な夢でも見ていたんだろうか。


『グーーーーーギュルルルルル』
「やばっめっちゃおなかすいた」


尋常じゃないほどの空腹感に耐えきれず腹の虫が盛大に騒ぎ始める。状況はよくわからないけど、とにかく私は助かったようだ。とりあえず誰か知らないけど助けてもらって感謝だが、食糧をお恵みください。このままじゃまた空腹で死んでしまう。とベッドから起き上がることにした。見覚えのない白い衣服を身につけた己の姿を視認してそういや服はどこいったんだろう、とぼうっと考えた。意識を失う前の状況を思い出してまあボロボロだっただろうから仕方がないなとすぐさま諦めることにした。
ひやりと冷えた床に足をつけると、部屋に唯一ある扉の向こうに人の気配を感じる。
カラカラカラ、スライドの扉を開けたのは華奢な黒髪の気怠げな女だった。弱っこそうなその姿は地球人のように見えるが、私がいたのは地球より遥か遠くの星だったはずだが。
私の姿を確認するとゆったりとした眼は驚いたのかみるみるうちに大きく見開いていく。


「目、醒めたんだね。」


高くもなく、低くもない聞き心地の良いアルトボイスが鼓膜を揺らした。パタパタとこちらに近づき、ベッドに再び座るよう指示された。どうやらこの女が私を拾って助けたようだ。


「一応傷は全部塞がってると思うけど、確認するよ」


前開きのボタンを一つずつ外していく女の手は白くて細くて美しかった。粗方の検分を済ませると再び衣服を元に戻していく。怪我をしていたということはやっぱりあの化け物に喰われたのは夢じゃなかったのだろうか。


「あ、ごめん。私日光に弱くて、包帯巻きたいんだけどある?」


目の前の女にそう声をかけるとああ、そんな報告されてたな。と部屋の中にある棚へ移動した。どうやら包帯を探してくれているらしい。



「あなたが私をたすけたの?」
「いや、私は運ばれてきたあんたを治療しただけだよ」


包帯が見つかったのかしゅるしゅると露出している腕や脚に包帯が手際よく巻き付けられていく。

「そう、助かったよ。それより、ここどこ?あなた地球人だよね?もしかしてここ江戸だったりする?」
「もしかして電波か?やべーな」


ゲラゲラ笑いながら地球に決まってんだろ江戸って何時代だという彼女に釣られてにへらと笑う。どうやら遠く離れた地球までやってきたらしい。なんで???寝てた間にワープでもしたんか???お????
包帯、巻き終わったよ。の声に腕をぐっと曲げ、脚も屈伸させる。動きに問題がないことを確認して感謝を伝えると女はタバコに火をつけ始めていた。
話を聞くに、彼女が私を助けてくれたのには違いなかったようだ。まあまあな傷を負ってたはずだけど、この今にも折れそうなほど細い身体の弱々しい女は希少種たる夜兎の身体にも詳しいのか、綺麗さっぱり傷跡は無くなっていた。今までみたどの医者よりも優秀じゃね?春雨にスカウトしちゃおっかな?それよりもデンパってなに?


「重症だった割に元気だね」
「ウン、私頑丈だから。あなた、夜兎の身体のことくわしーんだね。綺麗に治してくれてありがと」
「ヤト?あんたの名前?」
「?私の名前はなまえだよ。夜兎知らない?」
「知らないね。」


そっかー知らないか。まあ希少種だしね。仕方ない。それより知らないのに全部傷治せたってすごくね?いくら自己治癒力高くても、瀕死だったよね私。


「よかったらさ、春雨のお医者さんにならない?宇宙飛び回るからあんまり地球にはいられないけどさ、まあまあなお給料もらえると思うよ。私の同僚も怪我いっぱいするからお仕事もいっぱいあるよ。どう?」
「…相当な大怪我だったからね、混乱してるんだねあんたも。もう少し寝ときな。私は人呼んでくるわ」



呆れた表情を浮かべた女は入ってきた扉に歩を進め部屋から出ていった。なんか可哀想なものを見るような目だった気がする。


「どうでもいいけど、おなかすいたなあ。」


さっきの女の子に、ご飯くださいって言うの忘れちゃったや。



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