傑の彼女の指先

「なまえ、何してるんだい」
「んー、ネイル。今大事なとこだから話しかけないで」


なまえはそう言って一瞥もこちらにくれずに黙々と手作業で何かを指に書き殴っている。あんなに細かい筆で爪に何か描こうと思うなんて女性というのは本当に不思議だな。しかし、この件に関して男性は口を出すべきではない。ネイルを褒めこそすれ、少しでも理解を示さない言動をした瞬間百発百中で地雷を踏むからだ。もはやネイルを起爆剤とした口喧嘩など何度勃発したかわからない。触らぬ神に祟りなしだ。

なまえにとってはもはや爪を綺麗に保つことが生き甲斐のようなものらしい。
以前自分のものだけに飽き足らず硝子はもちろん、悟や私の爪までいじろうとしてきた。私は断固拒否したが硝子なんかは喜んでいたし、悟も嫌々言いながらもされるがままやらせて出来上がりを見て爆笑していた。人差し指、中指、薬指の順番に一文字ずつ達筆の『俺』『最』『強』が描かれ、親指と小指には六眼をモチーフにしたかのような美しい水色のマーブル模様が描かれていた。



「でーきた。」


そう言って指を見ながらニヤニヤしているなまえに今回はどんな作品が仕上がったのか聞いてみると「ふふふ、」と柔らかい笑顔が返ってくる



「みて。」



差し出された爪先を見つめて思わず目を見開いた。十本それぞれに私がよく使役している呪霊を可愛らしくデフォルメしたキャラクターが鎮座していた。



「傑、頑張って呪霊取り込んでるから私も爪先に取り込んでみた。可愛くない?いつも傑と一緒にいれるみたいでしょ?」



正直、爪に呪霊の絵を描くなんてイカれてるし若干引いてしまったが、あまりに可愛らしい理由に思わずその出来立ての爪先にキスを贈ればなまえは照れたように笑っていた。