そうだ、吉原行こう

「なまえ〜、阿伏兎〜、云業〜、地球いくよ~」

軽薄そうな声でかけられた言葉に私は目を光らせた。地球!!ご飯の美味しい星!!行く!!!一度行ってからというものの、私のお気に入りの星となった地球。即答だった。

「待て待て待て。それってアレだろ?」
「ん。吉原の視察」
「吉原?」
「地球の花街だよ」
「花街?」
「男が夢を見る街、女が夢を売る街さ」

ニコニコ笑う神威の言葉に意味がよくわからなくて阿伏兎を見る。阿伏兎はわかりやすくため息をついて吉原の説明をしてくれた。

「なるほど!男が金で女を買ってセックスするところ!」
「お前はもう少しオブラートに包むということを覚えろや」
「間違ってないんだしいいんじゃない」
「……なまえ、はしたないぞ」

阿伏兎と云業に呆れた視線を送られるが私を育てたのはあなたたちなのであなたたちのせいだと思います!と挙手すれば阿伏兎と云業は神威にジト目を送っていた。







「ここが吉原?」

地下に作られた煌びやかな街に私はぱしぱしと目を瞬かせていた。太陽の日がささない常夜の街ー、まるで夜兎のための街じゃないか。まさかこんな場所が地球にあるとは思わずきょろきょろと辺りを見回す。


「あんまりはしゃぐんじゃねェぞ、なまえ。」
「はぁい…それより、こんな街でそんな小さい子供見つかるの?」
「まあ見つからなくてもいいよ。いればラッキーくらいのもんさ」

地下の街の建物の屋根から美しい女たちがはびこる街を見下ろしながら気配を探っていれば、私たち以外に瓦を踏みつける音に耳が反応し、そちらをじいと睨みつける。


「見つけた。あそこ。子供の周りに何人か花魁がいるよ」

私が指を刺した先をすうと見やった神威は目にも留まらぬ速さで飛び跳ねていってしまい、阿伏兎と云業と顔を見合わせる。

「ねえ、このままだと屋根壊しかねなくない?」
「……フラグを立てるんじゃねェ」

慌てて飛び跳ねた先でやはり対象ごと襲い掛からん勢いの神威から子供の首根っこを捕まえて引っ張り上げた。
建物の一部が崩壊し、子供と一緒にいた女たちは助からないだろうなあ、とじたばたする子供を捕らえながら破壊した建物の先をじいと見据える神威を見やった。

「?どうしたの」
「何が?」
「怖い顔してるよ」
「なんでもないよ。旦那のところに手土産持っていこう」
「こんな子供が本当に手土産になるの?」
「なるさ。…ったくこんなモグラみたいな生活、乾いてしょうがない」

吐き捨てるように言った神威の言葉に顔を顰めた。目線の先の美しい女たちに、私は何となく他人事とは思えないな、と思った。神威に拾われるまではこの女たちと同じように色を売る代わりに力を売って何も考えずに生きていたから。






「…見違えたな」

久しぶりに見る鳳仙さんは、相変わらず強そうだったが、第七師団の団長をやっていた頃より雰囲気が変わっていた。うまく明言できないけれど、まさに隠居生活という言葉が似合う雰囲気だった。私を見るなりニヤリと笑ったその笑みが少し下品で思わず顔を引き攣らせる。確かに最後に会ってから恐らく五年は経っていたし、見違えたという言葉は間違ってないと思う。身長も伸びたし、ぺちゃんこだった胸も成長した。春雨の戦艦内では相変わらずだれも私のことを『女』として見ないのに、鳳仙さんに、夜兎に『女』と認識されて見られるのがすごく嫌な気持ちになった。
そんな鳳仙さんの言葉にぷい、とそっぽを向いてシカトをこけば咎められることもなくふっと薄く笑って神威と話し込み始める。

どんどん雲行きが怪しくなる二人の会話にそういえば何故視察に来たんだろうとそもそもなことを考えていると、煽った神威のせいで花魁の女が鳳仙さんに殺された。あー、カワイソウ。ドンパチ始める二人を止めようとした云業は神威に埋められて思わず笑ってしまう。


「ねー、お腹すいたからご飯食べてていい?」
「お前よくこんな状況でそんなこと言えるなァ」
「だって私じゃ団長とめらんないし」
「オイオイ、この中で一番可能性あんのはお前だろ」
「怪我すんのやだ」


もぐもぐと神威の残したご飯を食べる。美味しい…!!ほんとに地球最高!私も地球に住み着きたい。一生美味しいご飯食べてたい。我を忘れて残飯に食らい付いていれば血塗れの神威にいくよと声をかけられ、壁のぶち抜かれた建物の向こうで待っている神威についていく。壁の向こうに広がる広い軒先に大きな腕がぽとりと落ちているのに気付いて目を剥く。慌てて周りを見回せば胸に風穴の空いた云業が倒れており、確認せずとも絶命していることは明白だった。


「う、云業…?!どうしたの?!」
「邪魔するから殺しちゃった
「うそでしょ…」

阿伏兎は!と阿伏兎を探せば左腕を押さえながら苦々しい顔をする阿伏兎を見つけて泣きそうになった。

「何してるの団長!」
「阿伏兎の腕やったのは旦那の方だよ」
「鳳仙さん………!」
「フッ、まだまだ青い兎よの」


嘲笑う鳳仙さんに思わず顔を顰めながら、神威の後を追った。
ー、確かに、やられるやつが悪い。弱いやつが悪い。云業が死んだのは神威より弱かったからだし、阿伏兎が腕をなくしたのは阿伏兎が鳳仙さんより弱かったからだ。それでも云業と特に阿伏兎は私にとって親のようなかけがえのない存在になりつつあったものだから、ヘラヘラする神威を睨みつけて阿伏兎の左腕の手当てをする。


「へえ、なまえもイイ眼するようになったね。ここで殺し合いする?」
「ー今の私じゃ死ぬだけだし」
「ふふ、いつか俺を殺せるみたいな言い分だね」
「………神威のばか」


私を拾ってくれた神威を殺す?あり得ない。云業を殺したのには納得いってないけど、いつも誰より感謝してるのは神威になのに。


「あんまギスギスすんじゃねェよォ…」


ぽんぽん、と阿伏兎の大きい手で頭を撫でられると少し安心した。


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