暇つぶし

春雨にやってきて、団長の補佐をするようになって、三年ほどが経過した。何度目かわからない辺境の星のお掃除の任務。この星の人たちが何をやらかして春雨に目をつけられたのかは知らないし、どうでもいい。命令されたことをやって、邪魔者を排除して、それだけ。今まで生きていくためにやっていた仕事と、春雨に来てからやっている仕事に大差はない。差があるとすれば、一緒に働くのが自分と同じ夜兎しかいないということくらい。ーそれが、すごく楽だった。戦艦内の施設は夜兎用に作り替えてあるのか日常生活で手加減する必要はないし、食堂に行けば美味しいご飯がたらふく食べられる。周りはまだチビの私をなんだかんだ面倒見てくれるし、かといって干渉することなく自由な生活を保障してくれている。控えめに言って最高だった。今までの人生で今が一番幸せな自信がある。

そんな私は、今人生で一番理解できない事象に巻き込まれている。

「あなた神威さんの何」
「部下」
「お化粧も知らないガキはお呼びじゃないわよ」

おっぱいが馬鹿みたいに大きくて、髪がつやつやしていて、顔面が綺麗な色で彩られている女たちに取り囲まれていた。どうやら神威の知り合いらしい。

任務のあと立ち寄った本艦までの途中にあった適当な星に降り立ち、食料補給をしている間戦闘員は暇なので宇宙にいる間は買い込めない日用品などを買いに行ったり、それぞれが自由にしていいことになっているので私も買い物をしたあと特にすることはないがぶらぶらしていると、神威がたくさんの女に囲まれているのが見えた。神威からも私が見えたのか「なまえ〜!」なんて声をかけられて近寄れば、神威を取り囲んでいた女たちに今度は私が取り囲まれた。見るからに弱そうなので怖くはないが、どちゃくそに臭い。鼻が曲がりそうな様々な匂いが絡み合って、気分が悪くなりそうだった。そして定期的にこの匂いをつけている神威を知っていたので神威の知り合いかと合点がいった。

「団長、なにしてんの?」
「ん?暇だから遊んでるんだよ」

神威と稽古する遊べるほど強そうには思えない女たちに一瞬疑問符を浮かばせるが、まあ戦ってみると意外と強いのかもしれないなあ、と深く考えずに「そうなんだ」と返しておいた。

「お前も遊ぶ?」

団長がニコニコしながら言った言葉に私はひぇと顔には出さないようにしながらぶんぶんと首を振る。朝も稽古したところなのにまた殺されかけるのは勘弁である。そして神威を取り囲む女たちの視線が鋭くなったのがわかって思わず警戒すれば大きなおっぱいたちに取り囲まれ、尋問を受けている、というわけである。
相手にされてるはずないと言われても、確かに私は神威より弱いがオマエたちより強い自信はある。神威の知り合いである以上勝手に喧嘩を売っていいのかを決めかねていれば神威は興味なさげにご飯を食べ始めて少しイラついてしまった。

「ちょっと、団長。コレなんとかしてよ」
「んー、ちょっと面倒臭くなっちゃったからオマエの好きにしていいよ」
「……殺していいの?」
「いいよ。強い子産めそうにもないしね」

強い子産む??どういう意味?神威からの言葉を怪訝に思いながらも周りの女たちを見れば私に立ち向かってきていた視線は一転、青ざめ、震えながら後退りをし始めた。??益々意味がわからない。さっきまでの強気な姿勢はどこへ?自分への敵意がないなら別に快楽殺人者という訳ではないので女たちへの関心も失う。

「怖いならさっさとどっか行けば」
「ひぃっ」

一目散という言葉が似合うほど一斉に逃げていったトロイ女たちに呆れた視線を送りながらもぐもぐとご飯を食べる神威の横に腰掛けて机の上のご飯を勝手に食べることにした。…うま!!戦艦内のご飯より百倍美味しい!!!

「地球のご飯、美味しいでしょ?」
「さいっっっこう!!!」

ばくばくと食べ進めていれば机の上に大量に乗せられていた食事は一瞬でなくなってしまった。
視察も終わったし、帰ろうかという言葉にえ、もしかしてこの星寄ったの仕事だったの?と返せば鳳仙の旦那がここに住み着いてるんだよと神威は笑った。


「へえ、ご飯美味しいし、住み着きたくなる気持ちわかるなあ」
「今度また地球の任務あったら行く?」
「行きたい!地球好き!」
「はいはい。じゃあ今日は帰るよ」


私が持っていた買い込んだ日用品の入った紙袋を持って立ち上がる神威に慌ててついていく。そういえばさっきの女たちなんだったの?と聞けば「遊び相手だよ」と返ってきたので「…あんな弱そうなのと??」と思わず返してしまった。


「ふふ、女は強い子を産むかもしれないから殺さないんだよ」
「???どういうこと?」
「あー、お前もしかしてセックスのこともしらないの?阿伏兎に聞いてみな」


セックス??なんだそれ。説明する気がなさそうな神威にわかったと頷けば満足そうに微笑んでいた。
戦艦内に戻ってすぐ、阿伏兎に『セックス』について尋ねれば顎がはずれそうなほどぽかーんとした後に神威にブチギレていて、「性教育はママの仕事だろ」と言われた阿伏兎が『セックス』が何なのかと団長の『遊び』を懇切丁寧に教えてくれて今度は私の顎が外れそうになった。
そしてあの女たちがなぜ私を邪険にしたのかわかった。私を『神威の部下』ではなく『神威の女』としてみていたのかと思えば不快指数がかなり上がった。
神威以外のみんなも、こうした自由時間に外で遊んでいるということを私はこの日初めて知ったのである。



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