それは所謂パワハラでは

「あ、団長さん」

今日は大きい任務で第七師団総動員らしく、見知った顔もいれば知らない夜兎も戦艦に大集合していた。私みたいな下っ端中の下っ端はなかなか会うことのない団長も今日は任務に同行するらしく、相変わらず鋭い眼光が私の声に反応してこちらを射抜いた。


「…鳳仙といっとろうが」
「でも」


阿伏兎がそう呼べって言ったんだもん。そう言いたくて阿伏兎の方を向けば阿伏兎は阿伏兎で呆気に取られて口を半開きに開けて団長を見つめていた。くいくい、と阿伏兎の服の裾を引っ張るけど反応がない。反対側にいた神威を見れば私の方をニコニコと見ていて、「団長がいいならそれでいいんじゃない、」と言われたのでコクン、と頷いた。


「鳳仙さん」
「………まあ良い」


どうやら合格がもらえたらしい。「元気にしていたか」相変わらず大きくて分厚くて硬い手のひらを頭の上に乗せられる。捻り潰すつもりかな?という勢いでぐわし、と掴まれたのが一瞬、思わず顔を顰めれば鳳仙さんの眉も顰められていた。すぐに力は緩んで不器用に頭を摩られる。
「元気いっぱいです。今日も敵をぶっ殺します」
「フッ…若い兎は血気盛んだな」
そう言って大きな手は頭から離れていき、押さえつけられた髪がふわりと浮いた。
団長の指示の元戦艦が突っ込んだ惑星をお掃除する。春雨が売り捌いた麻薬漬けになって支払いが滞り、全く機能しなくなってしまったので春雨の拠点の一つにするらしい。よくわかんないけど言われるがまま手応えのない敵を殲滅した。
正気のあるもののところには神威が真っ先に赴いて一瞬で片がついたらしかった。


「今回も呆気なかったね」
「ホントホント。もうちょっとヤリガイが欲しいよね」
「神威」


任務が終わった後神威と談笑していたらおっかない顔した鳳仙さんがやってきた。私をチラリと一瞥したので邪魔かな、と思い離れようとすれば「お前もここにいろ」と言われたので黙って従う。
「どうしたの?」
「……ワシは隠居する。あとはお前に任せる」


え。それってどういうこと?神威が団長になるの?


「へえ、団長はどこいくの?」
「ーさァな」
「地球に引きこもるつもり?」
「貴様には関係ない」
「…ふぅーん、ま、わかりましたよ」


そう神威がいうのを聞き届けると相変わらず眉間にやった皺を無くすことも深くすることもなく、しばらく私と神威を見やって身を翻していってしまった。



「…団長ってなにするの?」
「さあ?」
「そんな適当でいいの」
「大丈夫だろ、宇宙最強に一歩近づいたってとこかな」
「団長になったなら書類仕事もあるんじゃないの」
「えーそれは面倒だななまえやってよ」
「なんでよ。阿伏兎にやらせたら」
「おっいいね!阿伏兎副団長に任命しよ」
「わー二人とも出世だねえ」
「うん、ついでだしお前も俺の補佐役ね。又の名をパシリ」
「?!え、やだ…」
「拒否権あると思う?」
「………うわーんこんなとこやめてやる」


なんでただの平社員が急に役職付きになるの?ブラック企業にも程があるよ!しかも神威の補佐なんてろくなもんじゃない!絶対書類仕事させられる!最悪だ!


「ふふ、なまえも随分生意気な口きくようになったよね」
「…ここにきて結構経つよ?」
「もう忘れちゃったなあ」
「……私は忘れたことないよ」


スタスタ歩いていく神威の後ろで呟いた言葉は誰に拾われるでもなく空に溶けていった。


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