親が親なら子も子

最近のマイブームは外がひらけて見える全面ガラス張りの甲板でキラキラ光る星を見ること。物心ついた頃から上司の人たちの言うこと聞いて生きてきたわたしはあの星から出たことなんかなくて、こんなに綺麗な景色があるなんて知る由もなかった。景色は闇の中に光る星だけだけど、いつまでも飽きずに見ていられるほどにはこの景色が気に入っていた。



「…お主、名は」



そんなお気に入りの光景を前にじい、と外を見つめていれば急に頭の上に影がさしたので振り返るととても体の大きなおじさんが立っている。怒っているのか仏頂面で私をじい、と見下ろしていた。


「なまえ。おじさん、誰?」
「………鳳仙だ」
「ほーせん」
「鳳仙」
「鳳仙」
「そうだ」



途端に大きな手が私に迫ってきたのでああ、殺されるのかなと思った。それぐらい格の違う夜兎だと思った。頭の中でずっとビービー音が鳴ってる感じ。逃げろって頭はいってるけど体が動かなくてただただおじさんの顔を見つめていればおじさんが思ったより優しく頭を鷲掴みにした。と思えば遠慮がちに、そして阿伏兎とは違ってヘタクソな撫でられ方をしたせいで髪の毛がぐしゃぐしゃになった。あれ?と思っていれば大きな手は私の頭から離れていく。



「……お前、母親は」
「?ははおや?」
「お前に似た顔の女のことだ」
「?知らない」



そう言えば少しだけ見開いた目も、すぐに元の仏頂面に戻っていく。



「わたしのおやを知っているの?」
「……いや、知らんな」
「そう」
「知りたいか?」


おや、というものが何かはわからないがおやをしらないと言えば阿伏兎にも微妙な顔をされたことを思い出しておそらくいて当たり前の存在なのだろうなくらいの認識だった。でも私にはいないのが当たり前だったから特に何も思わない。首をふりふりふって興味がないことを伝えると少しだけおじさんの眉間に皺が寄せられた。



「わたしのおや、神威と阿伏兎なの」
「……神威はどちらかというと兄だろう」
「んーん、名前をつけてくれたからおやなの」
「名前を?」
「そう、なまえって名付けられるまでは夜兎ってよばれてたから」
「………」
「どうしたの」
「いや、なんでもない」
「おじさんへんなの」
「おじさんではない」
「鳳仙」
「そうだ」



また大きな手で頭を撫でられる。さっきより優しい手つきで髪は乱れなかった。しばらく私の髪を撫でた後に鳳仙は大きな体を翻してどこかへ去っていった。
何だったんだろうか、後で合流した神威と阿伏兎にこのことを報告したら神威はへえ、と言って笑っただけだったが阿伏兎ははちゃめちゃに慌てていて何だか面白かった。どうやら鳳仙はめちゃくちゃ偉い人らしい。団長ってよばれてるんだって。今度はそうやって呼べよと阿伏兎に念を押されたので団長、団長、と鳳仙の顔を頭に浮かべながら心の中で何度も自分に言い聞かせた。


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