掌 - ある日の食卓







「…骸、残ってるよ」

食卓テーブルには恭弥が好むハンバーグ。その盛り合せにつけたカラフルな野菜が未だに骸のお皿に姿を残していた。
恭弥は当に食べ終えて晩酌ムード。時折お猪口を骸の前に差し出されるので、骸はその動きを逃さないように注視する。だからと言って食べる時間が無いかと言えば嘘だ。

「…た、食べてますよ!」

手にはフォークを握り締めたまま、その手は止まっていた。
メインディッシュを失くしたお皿は色を落とし、綺麗になれば片づけを待つだけなのだが、残ったままの野菜と骸を交互に見遣る。

「そうだね、でもその野菜は?」
「野菜さんはこれからです…」
「お前はもう寝る頃だろう」

そう言われて見た時計の針は約束した就寝時間をとっくに過ぎている。

「…すみません…」

楽しいご飯時も一転して、重たい空気が流れ始めた。
恭弥に怒られる事は嫌いではなかった。怖いけれど。
その瞳は真剣に骸だけを思って見てくれている。そう思うと怒られているのに嬉しくなってしまう。突き刺さる視線が痛くて、けれど残すつもりは勿論ない。
時間をかけて一つ一つ食べていけば苦手な野菜も克服出来るのではないかと思っていたのだが。恭弥の帰りを待ってからの夕食はどうしても今日の様に就寝時間ギリギリになってしまう。
それも恭弥なら解かってくれる筈なのだけれど。

「…骸」
「ふぁ(は)い?」
「如何して『いただきます』と手を合わせると思う?」
「…それは、ご飯を作ってくれた人に感謝するため?」
「それもある。そのお野菜だってお米だって誰かが作ってくれているから僕たちがこうして食べられる」
「…はい…、」
「君はどうして毎日祈るの?日ごろの感謝を祈ってるんじゃないの?」
「そう…です、」
「だったらご飯を残すことがどういうことかは、分かるね」
「ッ…、」

お酒も入り少しだけ頬を赤らめた恭弥が重たく口を開く。いつだってその瞳には炎のような感情が篭もり、骸を見据えている。
俯いたまま顔を上げる事が出来ない骸の瞳にはうっすらと雫が覗く。

「…ごめんなさい…」
「時間をかけて食べる事も悪くはないけど、今日は少し時間をかけすぎたね」

説教にも似た悟りのような、恭弥の言葉は骸にのしかかる。
恭弥に相手をされることが嬉しいとは言え、流石に怒られてしゅんと眉を下げる骸に大きな手が届く。くしゃくしゃと撫でてくれる。その優しさが好きだった。



「恭弥くん、ちゃんと食べれましたっ」
「ふふ、骸はいい子だね」
「くふふ」

浮かんでいた涙をごしごしと擦ってから、空になったお皿を恭弥に見せる。それから『ご馳走様でした』も忘れない。

「さて、食べ終わったことだし偶には遊ぼうか」
「本当ですかっ!?」
「それとも眠るかい?」
「遊びたいですっ!」







ツイッターか何処かで投下した小ネタシリーズ1。
二人で暮らしていた頃は割と仲良し。男相手には容赦ないけど女性・子どもには優しい恭弥です。


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