その他・番外編 | ナノ
その職人、潜入。


「杏子、行くぞ。」
「らじゃあ!」
「大きな声を出すな!!」
(自分だって、でっかい声出してるくせに……)
「なにか言ったか?」
「いえ!滅相もない!」

豪勢な夜会会場のなか、コソコソとテーブルの下で蠢く影が2つ。

「「1…2の…さん!」」
掛け声をかけ、2人同時にテーブル下を脱出した次の瞬間………
「おぉ!ここにおったのか、Ms.ミカエリス」
「えっ!」
私は、ヒゲをはやしたちょっとメタボなおじ様に見つかってしまった。
「探しましたぞ。さぁ、こちらに。うちの息子が貴方の事を首を長くして待っておるのです。」
そう言って私の手を掴んだおじ様は、パーティー会場の奥へと、ドンドン進んで行く。
「え……いやあの!」
「なぁに、うちの息子はなかなか奥手でしてな、今夜のように自分から『あの方が良い!』と言うのは、奇跡に近いんですよ。」
「あ………あの……」
「こうして出逢ったのも、なにかの縁。おぉ!息子が見えてきましたぞ。お〜い!」
「い…………いやぁぁぁぁ!」

杏子の悲痛な叫びも、夜会の騒がしさの中に溶けて消えた。
何故こんな事になったのか、それは今日の朝の出来事から話さなければならないだろう。



ところ変わってファントムハイヴ邸執務室。
椅子に座る人影と、机越しにその椅子の前に立つ人影が一つずつ。
「招待客が女性ばかりの夜会?」
「あぁ。最近、ロンドンでも噂になっている。」
今日はイギリスにしては珍しく、太陽が燦々と部屋に差し込んでいた。
「はぁ。で?」
「?」
「それのなにが問題なの?」
「………はぁ…」
「なんだよ!そのため息は!いくらなんでも傷つくよ!」
「理解力のない執事を持ったんだ。ため息も出るだろう…まぁいい。説明してやろう。」
「……は〜い」
「杏子、夜会とは本来、どんな場所だ?」
「え?…えっと、ダンスを楽しむところ?」
「その通りだ。では、ダンスとは誰と踊る?」
「そりゃあ、異性とに決まって…………あぁ!」
「やっと分かったのか。」
「そうだよ!女性だけだったら、ダンスなんてできないじゃん!」
「だから、その夜会は妙なんだ。」
「なるほど〜!」
「というわけで、行くぞ。」
「…………………………………は?」
「ここに、2通の手紙がある。」
そう言ってシエルは、机の中から封の切られた手紙を出した。
「1通は僕宛ての、女王陛下からの手紙。そしてもう1つは…」
「…もう1つは…?」
「お前宛てだ。」
「………私?!」
驚いて私は急いでシエルから手紙を奪い、私宛ての既に封の切られた手紙を読んだ。

杏子=ミカエリス様

拝啓
最近はお日柄にも恵まれ、暖かな陽気が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
突然ではありますが、来る11月25日に夜会を開催したいと思います。
つきましては、ミカエリス様には是非とも参加していただきたく存じ上げます。
では、お待ち申しております。
敬具


「……………………」
「……………………」
「………………………なにこれ?」
「お前、切り裂きジャックの事件の時に、ミカエリス夫人でパーティーに出席しただろ。その姿を見た奴が、」
「この手紙を送って来たってこと?」
「あぁ。ちょうどこの夜会の主催者が、さっき話していた女だけの夜会の主催者でもある。これ以上のチャンスはない。」
「じゃあ、セバスチャンを呼んでこなきゃね。」
「いや。」
「?」
「あいつは今、なにをしている?」
「フィニとかが壊した屋敷を直してる。」
「なら、その仕事を邪魔することもないだろう。」
「はぁ。で、本音は?」
「あいつの気がつかないうちに、僕達がいなくなれば、あいつは焦るだろ?」
「あぁ………」
苛めたいんですね………

「………うっわ…」
「噂通りのようだな。」
そうして、セバスチャンに気付かれぬよう、こっそりと屋敷を出た私達は、バッチリ女装をして夜会会場へとやってきた。
するとそこは、
「ほんとに女性ばっかりなんだね。」
「あぁ。じゃあ、なぜこんな夜会が開かれているのかを探るぞ。」
「イエッサー!」
そう言ってシエルに敬礼をすると、周りにいた人々がこちらに好奇の目を向けてきたので、私達はコソコソとその場を去った。

「じゃあとりあえず、この夜会の主催者のなんちゃら伯爵に挨拶に行こうか。」
「スペンサー伯爵だ!いい加減に覚えろ!」
「…………イエッサー」
そんなこんなで歩いていると、なにやら人集りが出来ていて、私達はそれに近づいて行く。
「本日も麗しいわ〜」
「あの憂いを秘めた瞳が素敵よね!」
「あぁ………こちらを向いてくれないかしら……」
集まっていた女性は、口々に賞賛の言葉を発しては、会場の奥へと視線を送る。
「奥にだれかいるのかな?」
「分からん。」
その女性達の後ろから、爪先立ちでヒョコヒョコと奥を覗いていると、会場の奥にはソファとテーブルが設置されていて、そこに少し伏し目がちで座る、銀髪の男性がいた。
「なるほど、アイドルみたいなもんか。」
「アイドル?どういう意味だ。」
「ん?いや、こんな風に人集りが出来てるのも、あの男の人のせいだなって。」
「男?どんな風貌だ。」
「えっとねぇ………銀髪で………」
そう言いながら、もう一度爪先立ちをしてその男性を見る。
ただ、男性はずっと下ばかり見ているため、顔の作りが見えない。
「ん〜………」
それでも諦めずにじっと見ていると、思いが通じたのか、その人がフッとこちらに視線を向けた。
一気に湧き上がる歓声、 そんな物は気にせずに、もっと良く見ようとジャンプをした瞬間に、男性の漆黒の瞳と目が合った。
「!!」
すると男性は、驚いたように目を見開いて立ち上がった。
「え?」
それから男性は何故か私の方に真っ直ぐと向かってきたため、私はとりあえずシエルの手を握り、その場から逃亡した。

「…ゼェ……なんなん……ハァ…だ!……一体…………ゼェ…」
「ごめん………シエルに体力無いの忘れてた。」
「……そこじゃない……!」
あの後、私はシエルを会場中連れまわし、結局良い隠れ場所が無かったので、テーブルクロスが床にまで届いているテーブルの下に入った。

「…………ってことだったんだよ。」
シエルの呼吸も落ち着いたころ、私は先ほどの事をシエルに話した。
「お前の見たその男は恐らく、フレデリック・スペンサーだな。」
「フレデリック・スペンサー?」
「あぁ。第3代ジョン・スペンサーの息子、銀髪で黒眼。ちなみに独身だ。」
「はぁ。でも、どうしてそんないいとこの坊ちゃんが、私に近づいて来たんだろ?」
「気のせいじゃないか?フレデリック・スペンサーは役者並みの容姿で、わざわざお前なんかに近づかずとも、他にも女は沢山いる。」
「…………なんかって……………否定は出来ないんだけどさ……」
「とりあえず、いまはフレデリックではなく、ジョン・スペンサーに接触したいんだ。」
「ちなみにジョンさんはどんな容姿なの?」
「ヒゲを生やしていて、肥満体型。息子、フレデリックとは似ても似つかない。」
「なるほど、了解です。」
「杏子、行くぞ。」
「らじゃあ!」
そうしてテーブルの下から出た私は、一瞬にしてヒゲでメタボなおじ様に捕まってしまったのだった。
助けを求めてシエルを見ると、シエルは何故か満面の笑みで私を見送っていた。

「あの!」
「ん?なんですかな。」
「あなたは一体、そして私はどこに…」
「おぉ!自己紹介がまだでしたか。私はスペンサー伯爵家当主ジョン・スペンサーです。」
「スペンサー伯爵?!」
通りでシエルが満面の笑みで私を見送るわけだ。
「いかにも。どうぞ親しみを込めて、ジョニーと呼んで下さい。」
そう言ってこちらにウインクを飛ばすスペンサー伯爵。
…………なかなかチャーミングな人らしい。
「それで私はいまどこに向かっているのでしょうか?」
「息子のところです。」
「………………は?」
「Ms.ミカエリス。私と私の息子は、貴方を探していたのです。」
「ど………どうして?」
「実は…息子が貴方に一目ぼれをしましてな。」
「……………は?」
「ドルイット子爵の開催したパーティーに、貴方もいましたよね。」
「え……えぇ。」
「その時に息子が貴方のことを見かけたそうです。」
「それだけで!?」
「えぇ、それから貴方を探して、あの日ドルイット子爵のパーティーに参加していた方々から情報を集めて、ようやく貴方に辿りついたのです。」
「もしかして、女性ばっかりなのって…」
「男は昔のことなど覚えていませんから。」
「噂話をするのは女性だけっていいますもんね。」
「その通りです。おぉ!息子が見えてきましたぞ。」
「へ?いやいやいやいや、無理です!」
「あなたに夫がいるのは知っています、Ms.ミカエリス。」
「!!」
(そういえば、私はセバスチャンの妻って設定だったんだ。)
「ですが、一度だけ…一度だけでいいんです。息子と踊って頂けたら………」
「わ……分かりました。」
「ありがとうございます!」

「…………え〜っと……」
ダンスを踊り終わり、お役御免とシエルと共に帰ろうとしたら呼び止められ、私はフレデリックとテラスにやってきていた。
「貴方のことが好きです。」
「いやあの…」
「貴方を一目見たあの日から、貴方の事が忘れられません。」
「……き……聞いてます?」
「貴方に、夫がいるのは分かっています。ですが………!」
「!!」
フレデリックは私との距離を詰めて、私の唇に顔を寄せた。
その瞬間、シュッと一陣の風が吹いて、私の体はなにか暖かいものに包まれた。
「人の大切な者に手を出すとは、感心しませんね。」
上から響く聞き覚えのある声に、私は驚いて顔を上げた。
「セバスチャン?!」
顔を上げると、いつもより近いセバスチャンの顔が視界いっぱいに広がっていた。
「人の者に手を出すとどうなるか、教えて差し上げましょうか?」
広がっていたけど………
(お………怒ってる……)
セバスチャンを取り巻くオーラに、明らかに『怒』が含まれている。
私はあまりの恐怖に、目を逸らした。
(…やっぱり無言で屋敷を出たのがまずかったか………)
その後、フレデリックは青い顔をしてその場を去り、シエルと私がセバスチャンから地獄のようなお説教を受けたのは、また別のお話………



(とりあえず、そこに座りなさい。正座で。)(えっ!いやでも、ここ地面なんだけど…)(なにか文句でもあるのですか?)(………イイエ、ナニモアリマセン。)(ならば構いませんね。)



叡斗とおる様に捧げます。
煮るなり焼くなりしちゃってください。
オススメの使い方は、鍋敷きにすることです。
ごめんなさい、意味が分かりません(゜∇゜)
そんなわけで、一万打企画&相互リンク記念です。
貰ってあげて下さい。
ちなみに返品は不可です。
ではでは、企画参加ありがとうございました!

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