最近、見られてる気がする。 「最近、見られてる気がするんだよねー」 私の思ったことが、そのまま誰かの台詞になったと思って声の主を見てみたら、美幸だった。 まさか、と思って向かい合わせにしている机に少し顔を赤らめた美幸に聞いてみる。 「それって誰から?」 「あのね、自意識過剰かもしれないけど…麻生くんに、ね」 恥ずかしそうに言う美幸を見て、少し悲しくなる私がいる。 なんだ、私じゃなかった。 美幸はふわふわしてて、顔も性格も可愛くて私の仲のいい友達。いわゆる癒し系で、ものすごく純粋。そんなところもあってか、ものすごくモテる。 それで美幸同様、私も最近見られてる気がしたんだ。麻生くんに。 同じクラスの麻生くんは美幸同様にモテる。イケメンで爽やかでスポーツ万能、勉強はいまいちだけど、裏表ないところがみんなに好かれている。 密かに麻生くんのことが好きだった私は落胆する。 前から美幸と麻生くんは美男美女で付き合ったらお似合いなのにと周りが囁いていたが、二人ともたいして気にしていなかったし。 「ね、千夏、どう思う?」 「えっ! 私?」 そんな、私に聞かれても…。 誰にも言ったことはないけど、私は麻生くんのことが好き。 いつからかなんて忘れたけど、いつの間にか彼を目で追っていた。 美幸に言ってみようかなと思った矢先、美幸からそんなことを言われたから。 言えない…! クラス内で言えば美幸はヒロインで麻生くんはヒーローで、美幸の友達の私なんて脇役でしかない。 「お似合いなんじゃ…」 「井上!」 半ヤケで美幸に言おうとした瞬間、麻生くんに突然腕を掴まれた。 え? 「…あ。いや、これは…ちょ、ちょと来て!」 口をごもらせる麻生くんは、ぐいぐいと私の腕を引っ張って教室から連れ出された。 しばらくぐいぐいと腕を引っ張られること数分、人が通っていない廊下でようやく腕を離された。 「あのさ、俺、井上に勘違いして欲しくなくて」 顔を真っ赤にしながら麻生くんは話す。 井上? あ、私か。 ん、勘違い? あ、もしかして。 「麻生くんはいつも私じゃなくて、美幸を見てたってこと?」 「…は?」 「あ、違う?」 いまいち話が噛み合ってない気がする。 麻生くんはブンブンと首を横に振る。 「その逆!」 「逆?」 ええと、逆っていうと… 「だーかーらー、俺は佐々木じゃなくて井上を見てたの!」 「…!」 顔を真っ赤にして言われた私は、そこまで鈍感じゃない。だけど、そんなこと、あるのかな。だって、私は美幸の脇役で… 「あの、それって…」 「ああ、ごめん、今見ないで。俺、恥ずかしさでどうかなりそうだから」 「こんな私でもいいの? こんな脇役でも恋しちゃって…」 手で顔を覆っていた麻生くんが、私の台詞を聞いてそろそろと手を退ける。 「何言ってんの、」 「いや、だって私は…」 「脇役なんかじゃないよ、井上は」 ああ、どうしよう。麻生くんのせいで、どうにかなりそう。ニヤニヤが止まらない。 「…あの、ニヤニヤしてるところ悪いんだけど、恋、してくれるの? 俺と」 「…っ!」 君の側ではヒロインにして欲しいなんて、まだ言えないけど、 「…お願いします」 いつか言える日を心待ちにして。 ‐‐‐‐ ゆびさき に きす様提出! テーマ:脇役だって恋をする 11/01/06 天樹 |