※『前作・俺に恋するそのために』から先に読んで頂けることをおすすめします。





― 俺に恋するそのために、その彼氏がジャマでしょう? ―



その台詞を聞いたあの日から、まともに高島先輩を見れなくなってしまった。

殴っちゃったし。

そんな私とは対照的に、高島先輩はここぞとばかりに話しかけてくる頻度が高くなった。

大体、あんな告白みたいなこと言われて普通に話せるなんてことのほうがおかしい!

それに私、彼氏いるんだから!!

それにそれに! 高島先輩は絶対私のことをからかってる。

モテるのに、何で私?

しかも、彼氏持ちだし。

もしかすると、高島先輩は彼氏持ちキラーなのかもしれないけど。

だからって、なんでよりによって私なんだろう。

こんな大して顔も性格も可愛くない私なんか。 


「カナエも乗り換えちゃえばいーのに」


「は!?」と私が答えると、冷静に私の口にポッキーをくわえさせる友達のマナ。

もぐもぐとポッキーを頬張る私を見ながら、話を続ける。


「だってさ、アンタの彼氏のアツシ、浮気してたんでしょ? それに高島先輩の方がかっこいーし」

「もぐ……、アツシとはちゃんと話したし。それに私は高島先輩にからかわれてるだけなんだって」

「どーだかね」


そう言うとマナは自分の口にポッキーを入れた。

確かに、私の彼氏のアツシは浮気してた。

うん。もともとモテるし、浮気癖が酷いなんて前から知ってたけどやっぱりショックで。

この間なんて、教室でわんわん泣いてしまった。みっともない……。

でも、アツシは言ってくれた。もう浮気はしないって。

だから私はアツシを信じるの!

そう、高島先輩とか関係ない!

もともと高島先輩も本気じゃないんだから。 


「マナ……私、ちゃんと高島先輩に言ってくる」

「何を?」

「ほんとーに、もうデートとか誘ってくるのやめてくださいって」

「は?」


何言ってんの、とマナが止めようとするのも振り払って私は教室を出て先輩の教室に向かった。

高島先輩の教室はちょっと遠いし、たくさん先輩がいるからちょっと恐いのもあったけど。


「……ツシ、アツシ」


階段を昇ってるとき、その声が聞こえて瞬間私の体は硬直した。

まさか、と思った。

先輩たちのいる教室は3階。私は今ちょうど階段を上ってその3階に今にも足を着けようとしていて。

3階以上はないこの学校で、その上から声がしてるということは。

3階をさらに上ったところにある、小さな踊り場。ほとんど人は寄り付かないはずなんだけど。

恐い、

バクバク心臓が音を立てて、足が動かない。

きっと、3階を踏んで振り返れば、答えなんて簡単にわかるよ。


「いつ遊んでくれるのー?」

「んー……、しばらく彼女のご機嫌とらなくちゃいけないからなー……」


女の人の声と、もうひとり。聞きなれた声の人。

3階に足を着ける。

振り返っては駄目。そう。何もしなければ気づかれない……


「あれー? カナエちゃん?」


サイアクだ。そう思った。

廊下の向こうから私に気づいた高島先輩が私の名前を呼んだ。

そのとき、後ろから「カナエ?」と言う声が聞こえて、思わず振り返ってしまった。

アツシと、綺麗な女の人……

私はとっさにその場から逃げ出した。

そのことを不審に思ったのか高島先輩が後ろから追ってくるのがわかった。


や、やめてよー!!

と心の中で叫びながらも、男の高島先輩に足の速さで敵うわけもなく。

でもそのわりに大健闘の末、結局私は中庭で高島先輩に捕まった。


「どうしたんだよ?」


腕をガッチリ掴まれて。

これじゃあ逃げるに逃げられないし。


「いや、何でもないです。先輩に見つかっちゃったなって思って」


私は至って冷静に答える。

アツシの浮気現場なんて見たのは始めてじゃないし。それに、付き合ってからそれはちゃんと覚悟してたし。

だから、今更悲しくなんて……


「カナエちゃん、泣いてる……?」

「……え?」


先輩に掴まれていないほうの手でそっと自分の頬に触れてみると、ひとつ雫が落ちた。

嘘。こんな、先輩の前でかっこ悪い。

笑ってみるけど、涙はどうしても止まってくれない。

そんな私を高島先輩は、不安そうな顔をして訊いてきた。


「……さっきのヤツ、彼氏?」

「そっ、そうですよ。先輩よりもずーっとかっこよくて、優しいんですよ」


私は涙を拭いながら、笑っていった。嫌味もこめて。

そのとき、高島先輩の声を掻き消すように後ろのほうで聞きなれた声が聞こえた。


「カナエちゃ……」

「カナエ!」


走ってきたのだろうか。こんなカノジョのために。

あの女の人は、どうしたのかな。

『機嫌とらなきゃいけないから』とか言って、別れてきたの?


「ダメだ」


後ろにアツシがいるのにも関わらず、ぎゅっと私を抱き寄せる高島先輩。

あったかい。

不覚にもそう思ってしまった私。

けど。

私はギュッと目を瞑って決心した。

目を開くと同時に私は高島先輩を思いっきり突き放した。


「アツシのところに行かなきゃ」


そして、私は真っ直ぐにアツシのところへ駆け出した。







(私が少し幼かったら、迷わず高島先輩を選んでた) 





だけど、私はアツシの彼女だから。

アツシの側によると、アツシは言った。


「ごめん、さっきの……」

「ううん! いいの、あの人綺麗だし、アツシ、もう浮気しないって言ったし……」


そのとき、後ろから私の手をギュッと握られて。


「悪いけど、お前には渡せない」


振り返るのとほぼ同時に、先輩は私を引っ張って走った。すると自然に私も走ることになって。

どんどんアツシとの距離が離れてく。


「先輩! 何してるんですか、アツシが……」

「言ったじゃん、アイツにカナエちゃんはもったいないって」

「そんなの先輩に関係な……」

「俺を好きになってみてよ、そしたら泣く事なんて絶対無いよ。ってか、させないよ」


どこに行くのかもわからずに、ただ走っている中でそんな事を言われても、なかなか頭の整理なんかつかなくて。

なんだか少し、可笑しくなってきて。


「何で笑ってるのかなー? カナエちゃん」

「いや、なんだか楽しそうだなーって思って」

「楽しいよ」

「絶対?」

「うん。絶対」


そう言い切ってしまう高島先輩がすごいなあと思って。







(そんなのも悪くないかなあと思った)





∵10/08/03 天樹

plan::俺に恋するそのために
from::ルシファーの焔


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