─6月9日─ ピチチ…ッ 「……んー…」 「ショウ、起きた?」 鳥のさえずりに、カタカタとパソコンのキーボードを叩く音。 双方が交ざり合った心地いいテンポの音を目覚ましに、来栖翔は目を醒ます。 それに気付いた同室の先輩アイドル、美風藍が声をかけた。 「……あと5分ー…」 「5分はダメ。起床時間を過ぎちゃうでしょ?2分34秒間なら寝てもいいけど」 「んな細かい時間ピッタリに起きられるか!」 「あれ…寝ないんだ」 「いや寝られる訳ねーだろ!?お前は少し位、人の話を聞け!」 「聞いてるでしょ。ま、ショウの言うことは半分正しくて半分可笑しいから、少しだけだけど」 「マジで少しなのかよ!」 うとうとしていた自分は何処へやら。翔は朝からキレの良いツッコミを披露するハメになった。 「そういえばショウ、何かいい夢でも見たの?寝ながらニヤニヤしてた。変な人に見えるから気を付けた方がいいよ」 「一言余計だ。……まあ、確かに良い夢は見たぜ」 幼い頃の思い出。 まだ体か弱くて病院に居た頃、久々に家族全員が揃った日があった。 その日は翔と、翔の双子の弟──来栖薫の誕生日。 ケーキと飲み物、とんがり帽子のみの簡素な誕生日パーティだったが、病室から出られない自分の為にわざわざ家ではなく病院に来て祝ってくれた事が、翔は何より嬉しかった。 「家族との思い出。そーいや、今日は俺の誕生日だったな」 「ああ、そうだったね。確かナツキも」 「そうだぜ。……あれ、そういや那月は?」 「まだ寝てるよ。ショウ、起こしてきて」 「へいへい…おい那月。そろそろ起きねーと、藍がキレるぜー」 毎度の事で呆れながらも、那月を大きく揺すって声をかけた。 「んー……あ、翔ちゃん……おはよう……」 「「おはよう……」じゃねーよ!もう起きる時間だぜ」 「はぁ……ナツキ」 寝ぼけ眼の那月を見て翔が呆れていると、後ろから藍が近付いてきた。 「起床時刻を2分も過ぎるなんて、これがもし仕事だったら謝るだけじゃ済まないからね」 「あ……ごめんなさい、藍ちゃん。おはようございます」 「ホントに反省してる?……ま、今回だけは許してあげる。゙今回だげだよ」 「ありがとう。大好き!」 ぎゅーーーっ 「暑苦しい……とにかく、早く身支度して。今日もレッスンがあるんだから。ナツキが寝坊したからメニューは倍だよ」 「はぁ!?さっき、今回は許すって言ったじゃねーか!」 「それとこれとは別」 「それに俺達、今日は誕生日なんだから少しは労ってくれよ!」 「それも別。仕事に誕生日は関係ないでしょ」 「……鬼だ…」 何を言ってもことごとく返され、翔は正に゙orz゙のような格好になる。 「あれぇ?今日、僕達の誕生日なんですか?」 「お前はそこからか!」 「朝からうるさいよ、ショウ。ほら早く支度して」 「くっそー……分かったよ」 こうして2人は一日中、藍に絞られるハメになった。 「だぁ〜疲れたー!!アイツはマジで鬼だ!」 部屋に入った途端、膝から崩れ落ちる。 今日のメニューは言われた通り過酷になっていて、一瞬生死をさまよった。 「これ位で音を上げるなんて…只でさえ動くことしか逸脱した所は無いのに、どうするの?」 「お前なぁ……!」 「ほらモタモタしないで。この後、少しボクの手伝いをしてもらうよ」 「は!?もう勘弁してくれ……」 「翔ちゃん大丈夫?おんぶしてあげようか?」 「いらねーよっ!」 言い合ってるうちに藍が歩き出してしまったので、しぶしぶ着いていく。 少し歩くと、寮にある居間に着いた。ここでする事といったら資料の整理だろうか。 「おい藍、結局何を手伝うんだ?」 「それは後で説明するよ。ボクは資料を取りに行くから、先に入ってて」 「は〜い、分かりました!」 言い終えると、さっさと廊下を歩いていった。 「さて、俺達も入るか」 「うん」 言われるままに、待機をするため扉を開けた。 すると パンッ パパン、パンッ! 「「「Happy Birthday!!」」」 「「………え?」」 中に入って一番に目に映るのは、色とりどりの装飾とクラッカー。 そして部屋の中心には、ST☆RISHの仲間7人と先生、そして作曲家の七海春歌が居た。 「お前ら……」 「皆さん、僕達のお祝いしてくれるんですか?」 「うん!」 「2人が誕生日なのだと、一十木から聞いてな」 「わあ、嬉しいです!」 「いつの間に……って、え、薫?何でオマエがここに居るんだ!?」 よく見ると、仲間たちの中に弟の薫が混ざっていた。 「どうしても翔ちゃんと誕生日を祝いたくて、お昼頃に翔ちゃんの先輩に頼んだんだ。 そしたら突然だったにも関わらず「別に良いよ。人の生まれた日は大切にしないと」って、すぐに承諾してくれたんだ」 「藍がそんな事を?」 「さすが藍ちゃん!良い人ですよねぇ」 「……そうだな」 きっと藍は翔の話を聞いたから、気を使ってくれたのだろう。 前の彼ならあり得ないことだが、今は優しい心を持てるようになった。2人はその変化に喜びを覚える。 「それじゃあ改めて…」 そんな幸せも含めて、皆でお祝いの言葉を言おう。 「「「誕生日おめでとう!」」」 [ back ]