好きという二文字を送る
彼女は走りながら、立海に入学して間もない頃の事を思い出していた。
入学当時はあまり部活に興味がなかった。友達に"立海=テニス部活"と言われてなんとなく気になって入っただけだった。
そこで彼女は彼等・・・立海レギュラーのプレイに魅了された。次々に繰り出される技に圧倒されたのだ。
でも彼女は運動が得意ではなく、正直テニスはしたくない。それに入るなら女子テニス部ではなく、男子テニス部が良かった。そこで、彼等を近くで見る事のできるマネージャーになることを決意した。
そんな1年の冬に、ある一人の男子が気になり始めた。
それは彼、丸井ブン太だ。
普段は人懐こくて、ケーキなどの食べ物が大好きな先輩。でも試合が始まると表情が一変して、チームの為に頑張る姿が素敵で…そんな先輩が彩月は大好きでたまらなかった。
「ブン太、先輩……っ」
走って、走って。
まだ居てくれてる事を祈りながら皆と別れた場所へ戻る。
「彩月?」
「…ブン太、せんぱ…いっ!」
そうして奇跡が起きた。
嬉しくて抱きついてしまうと、勢いによろけながらも、彼は優しく抱きとめてくれた。
「うわっ……!どうしたんだよ、そんなに急いで走ってたら転んじまうだろ」
「あ…会えたのが嬉しくて……」
「え?そ、そうか」
「……はい」
何故か凄く気まずい。
タイミングが掴めずに、しばしの沈黙が続いた。
「なぁ彩月」
「あ、はい?」
「えっと、その、だな………あ〜もう!なんだって俺はこういうのが苦手なんだ」
「あの、先輩?」
「あー悪いな。ちょっとだけ待っていてくれ」
「……はい」
何かを言いかけたかと思ったら
今度は後ろを向いてしまい、頭を抱え込む。どうしたんだろう…と考えていると、一つの考えが浮かんだ。
「先輩、頭痛いんですか!?」
「は?」
「だって頭ずっと抱えて」
そう言うと、少し間をおいてブン太が声を上げて笑い始めた。
「えっ何ですか!?」
「いやだって頭痛いって……あー、何か悩んでたのが馬鹿みてぇ。こんなに単純な奴に、わざわざ言葉を選ぶ必要ねぇか!」
「え?先輩あの、話が見えな…」
「彩月、好きだぜぃ」
話が見えない、と言いかけたその瞬間、不意打ちの言葉が聞こえた。
「………え?」
「だーかーら!俺はお前の事が好だって話」
「う……うそ」
「なんで嘘つかなきゃいけねーんだよ。……お前が入部してきた時はただ新入りが入って人数増えたな〜とか思ってたんだけどな。まさかこんなに好きになるなんて」
それから、少しずつ教えてくれた。
笑った顔が好き。
彩月が作るお菓子を楽しみに待っていた。
――ほんとは転校してほしくなかった。
彼から貰った1つ1つの想いが嬉しすぎて、いつの間にか涙が溢れる。
「おっ、おい泣くなよ!どうしていいか分かんねえ」
「…っ……すみません……」
「それで返事は……まぁ、答えは分かっちまったけどな」
「そんなの、決まってます。私は先輩が大好きです」
そう伝えると、ぎゅっと強く手を握られた。
「っ……やったぜぃ!」
そして、彼は今までに見たことないような表情になる。笑顔の中に男の人らしい雰囲気が混じり、ドキドキした。
そしてどちらからもなく顔を近づけ……優しく、それでいて強引なキスに包まれる。
「………っあ、ごめんな!両思いになれたのが嬉しくてつい」
「大丈夫です。先輩の事、大好きですから」
「……あんまり可愛い事を言うんじゃねぇ、照れるだろぃ」
「………ふふ」
"私、この人が好きで良かった。"
そう心から思えた。
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