頑張る君に
「戻れるなら戻りたいですよ…」
気付かれているのならこの際隠すことなんてない。
そう思い、彩月は想いを打ち明けることを決意した。
「私、立海でやり残したことがあるんです」
「やり残した事?」
「それは……とにかく、大切な事で」
「………」
彼女が言葉を濁すと、跡部が辛そうな顔をしながら何かを呟いた。よく聞こえずに首を傾げていたら、彼がさらに言葉を続ける。
「好きな奴がいるんだろ」
「っ!な、何でそれを」
「お前の様子を見てれば分かる。さっきも言っただろ?俺の事は騙せねぇってな」
「あの、私、そんなに分かりやすい顔してました…?」
「まぁな」
自分の分かりやすさにショックを受けた。そして彼は今からでも良いじゃねーかと言葉を付け足す。
「……駄目なんです、仲間としてじゃなきゃ。私は敵になった。こんな立場じゃ無理です」
「違う学校で何が悪いんだ?」
跡部がすかさず質問を投げかける。
「普段は明るい人だけど、立海に誇りをもって試合に挑む彼の姿は真剣で、素敵で……目が離せなかった。だからこそ立海の仲間として居られない今のまま、彼に伝えるのが怖いんです」
確かに、普通に考えれば言ってることが可笑しいって事は分かっている。それでも仲間というキーワードが彩月を縛り付けていた。
「………フン、仕方ねぇな。そこまで強い想いなら力を貸す」
「え?」
「俺様が直々手配してやるよ。立海への転校をな」
「いや、でも親の転勤で来たんですよ?」
「ンなもの、跡部グループ経営の会社に入れさせれば良い」
彼は本気らしい。
言っていることが普通ではなさすぎて訳が分からないが、きっと跡部財閥なら平然とやってのけるのだろう。
「どうして、そこまで」
「………俺様の気分だ、ありがたく思え。そして納得出来たなら早く伝えてこい。間に合わねえぞ」
大きく頷き、彼がまだ東京にいるという奇跡を信じてただ走った。
*
「やっと笑ったな」
そう呟き、優しく微笑む。
「………なぁ、樺地」
「ウス」
「俺様は間違ってねえよな」
それは、跡部に似合わず小さな声で発せられた。
「話に聞く以上の苦しみだ。本気の恋ってやつが終わるのは」
「………潔かった…です」
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