ただひたすらに好きだった
立海メンバーとしばらく街を歩いていると、偶然、見慣れた二人組にばったりと出くわした。
「赤原じゃねぇか」
「ウス」
「あ……跡部さんに樺地さん」
みんなと出掛けているときには一番会いたくない人に会ってしまった。別に悪いことなんて一つもしていないのに、何故か心が罪悪感でいっぱいになってしまうのがつらい。
「氷帝の跡部に樺地か」
「天下の跡部様がこんな庶民の溜まり場にいるなんて、珍しいもんを見れたのう」
「不似合いッスね〜」
「おい二人とも、余計な事を言うな!後で俺が幸村に叱られるんだからよ……」
幸村が笑顔で諭す様子を想像して、それ以上を考えることはやめておいた。
「俺様が何処で何をしようと勝手だろう。それより赤原」
「はい、何でしょうか?」
「用がある。少し付き合え」
「え……」
"嫌です"
最初に頭に浮かんだのはその言葉だった。けれどもそんなことが言えるはずもなく。
「……分かりました」
「すぐに行くぞ」
「あ、少しだけいいですか?」
「少しだけならな」
跡部から了承を得て、みんなの方に向かう。
「ごめんなさい、今日はここまでで。楽しかったです。またそのうち会えたらいいですね!」
「あ……」
「ま、跡部様に呼ばれちゃ仕方ねーよなぁ?」
笑顔で挨拶をしたら、ブン太が何かを言いかける。
しかし、赤也に遮られてしまった。
「いつでも連絡しんしゃい」
「そのうち立海にも遊びに来いよ。幸村達がお前に会いたがってる」
「はい、必ず。それじゃあまた」
ブン太がなにか言いかけていたのが気になったが
これ以上跡部を待たせるわけにはいかないので聞けなかった。
*
「彩月、行っちまったな」
「アイツは結構賑やかな奴だし、居なくなるとさみしいッスよね」
「ああ……さて、いつまでもここに居たって仕方ないな。帰るか」
「あ……ちょっと待った!」
帰るために駅の方向を向いた途端、ブン太がみんなを止める。
「どうした?ブン太」
「ちょっと寄りたいケーキ屋があるから、先に帰っててくれぃ!」
「あぁ、いいが……遅くならないうちに帰ってこいよ」
「丸井先輩、また明日!」
ブン太の言葉を了承して皆が帰っていく。
すると、俺の脇で仁王が止まった。
「仁王?」
「……まあ頑張りんしゃい」
「なっ、お前気付いて」
「健闘を祈っとるぜよ」
にやり、と笑う。仁王は全て分かったらしい。
彼の本当の目的……それは、立海で伝えられなかった気持ちを彼女に伝える事だ。
*
彩月は跡部に連れられて何故か喫茶店にいた。しかも見た目から高そうなお店で、どうも落ち着かない。
「樺地、いつもの奴を頼め」
「ウス」
「・・・・・・・・・」
用があると聞かされて来たのに実際来てみたら彼とお茶をしているという謎。しかも学校近くの喫茶店のため、跡部のファンに睨まれてる始末だ。
何とも居心地の悪いこの状況から逃げ出したい。
「・・・・・・おい、赤原彩月」
「あ、はい」
突然話しかけられ顔を上げる。跡部が真剣な表情をしたので、集中して話を聞けるように姿勢を正した。
「単刀直入に聞く。お前、立海に帰りたいんだろう」
「えっ」
驚いた。
彼には全て見透かされていた様だ。
「違うと言っても無駄って事は分かるだろ?俺様の眼は誤魔化せねぇぞ」
「…………」
どう答えていいか分からず、ただ俯くことしか出来なかった。
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