懐かしい時間が来る
今日は部活がなかったので、改めて街を回る事にした。
立海にいた時もテーピングやスプレーなどを買いに来ることはよくあったので、東京の風景は特に珍しくもない。
"もしかしたら、立海の誰かに会えたりして"
そんな小さな期待を胸の隅に置いて。
*
「はぁ、買い物終わっちゃったよ」
結局誰にも会えないまま買い物を終えた。
そんな簡単に運良くいく訳ないだろうと自分に言い聞かせて、家に帰ろうと踵を返したら、不意に前方に居た人が視界に入る。
「………もしかして」
赤い髪にフーセンガム。
その姿はあまりにも彼に似ていて。
「丸井、先輩?」
彩月がそう呟くと、まるで声が届いたかのように彼が振り向く。そしてあちらも同じように目を丸くさせた。
「あれ……もしかして、彩月じゃねえか」
「赤原?どこだ」
「あ!ジャッカル先輩、あそこに居るっス!」
「ほう。こんな所で会うとは思わんかったぜよ」
彼の他にもジャッカル桑原、切原赤也、そして仁王雅治。幸村に真田、柳、柳生は居ないがそれは3ヶ月ぶりに見る立海レギュラーだった。
「みなさん、お久しぶりです」
「おー!久しぶりだな!」
「丸井先輩よく気付きましたね?」
「本当だよな。俺は全く気付かなかったぞ」
「全くって酷くないですか!?まあ、遠かったですけど…」
いつものテンションで迎え入れてくれる。それが嬉しくて、彩月の顔には笑顔が浮かんだ。
「まさか会えるとは思っていませんでした」
「そうか。俺達も買い物してる間、お前に会えねーかなって話してたんだぜ」
「それは嬉しい……あ、そういえば今日はどうして東京に?」
「いつもの買い出しだ。幸村に頼まれてな」
この時彩月は、嬉しい反面みんなと一緒にいる事に罪悪感を持っていた。
自分は氷帝学園、彼らの敵である学校のテニス部に所属している。別にそんなこと気にしなくても良いって事は自分でも分かっているけれど、やはり彼らの前に立つと気が重くなってしまう自分がいた。
「おーい……彩月、大丈夫か」
「あ、え、何ですか?」
「お前さん、何だか凄くぼーっとしとるぜよ」
「あ……いえ気にしないで下さい。それよりもう買い物終わってますか?部の買い出しなら早めに帰るだろうし、そろそろお開きですよね」
「あー。どうします?もう帰るっスか?」
「少しゆっくりしたって幸村くんも許してくれるだろ。って事で彩月、一緒にどっか行かねーか」
「え、いいんですか!?」
「もちろんだ。俺たちも久々に話したい」
久しぶりにみんなといられることが嬉しくて、先ほど悩んでいたことをすっかり忘れていた。だだ1人、様子がおかしいことに気づいた人がいるのを知らずに。
*
その後ファミレスでゆっくりしてから、周囲をふらふらしつつみんなと過ごした。
「……やっぱり楽しいなぁ」
立海のみんなといるのは楽しい。これはどんなに時間が経とうとも変わらない事だという事を、一緒に居て改めて思わされた。
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