log4/はやし





「なに、それ」

時間きっかりに出勤してきた波江にリビングにあるテーブルに鎮座する自由の女神像の存在を突っ込まれる。
臨也はパソコンの前のデスクチェアに座ったまま、肩を竦めた。

「ちょっとね」

慧也は既に臨也のマンションから出て行っている。昨夜、慧也はほぼ身ひとつでやって来たのでゲストルームを覘かない限りは波江は臨也以外がここに居た痕跡を見出せないだろう。
波江には兄の存在を今まで仄めかした事は無いし、慧也は昨日は波江が退勤した1時間後にやって来て、今朝は出勤してくる30分前にここを去っている。
秘書であるからとある程度の自身の情報を開示しているが兄がいる事はひとまず伏せておくことにした。
まぁ、どこからか情報は入ってくるかもしれないが…。

ひとまず20cmスケールの自由の女神に関しては「土産センスの無い知り合いが持ってきた」に留めた。
もっとも、自身の最初の一言で弟第一思考の波江からは女神像のレプリカに関する一切の興味が失せていたが。



平日休日関係なく池袋は人がごった返している。
慧也は新宿から池袋の駅に降り立ち、人の波をぐるりと見渡し満足げに笑む。
臨也程ではないにしろ、慧也も人を観察というか眺めるのが好きだ。妹の九瑠璃と舞流も1つの人間としてなりたいが為の現在の結果であるので折原兄妹は「人」というものに対して濃いにしろ薄いにしろ特殊な性癖があるのだった。

慧也は笑みを浮かべたままあちこちに視線を巡らせて東口の方へ歩き出した。
駅構内では気付かなかったが、駅から外に出て歩き始めれば黄色やらなんやらをどこかしらに身につけて複数人で固まって行動しているのが目に付く。
カラーギャングとかいたなぁ。なんて、なんとなく彼らに目をやると相手もこちらに気が付いて目を見開いていた。
それはもう驚いて、という表情であるが、どこか戸惑っているようだった。
訝しがりながらも彼らから視線を外したその先に金髪、長身のバーテン服の後姿を見つけ慧也はパッと表情が明るくなる。それとタイミングを同じくして黄色い集団(言わずもがな黄巾族である)はギョッとした。
長らく池袋に来ていなかった慧也は知るはずも無いが折原臨也と金髪バーテン服は最高に最悪な組み合わせだ。
周りだけが緊迫した空気になる中、慧也は前を行くバーテン服に声をかける。

「やぁ、シズちゃん君」
「あ゛ぁ?」

呼ばれた名前と声に静雄はものすごい剣幕で振り返る。が、それも慧也の顔を見ると霧散させ茫洋とした表情になった。
連れのドレッドヘアーの男も慧也に気付き「折原臨也?!」と声をあげた事に慧也はなるほど臨也に間違えられていた訳か。と周囲の反応に合点がいく。
昨夜も出会ってすぐに殴られそうになった訳だから、やはり何かあったのだろう。それも周囲を緊張状態に陥れる何かを。昨日は「喧嘩」と評したが喧嘩では生易しいのかも知れない。そんな事を思いながら慧也はにこやかな表情は崩さずに会話を続ける。

「すっごい偶然だね、シズちゃん君もこの辺の人なの?」
「あ、はい…池袋、ですけど、何すかその呼び方…えと」
「そうか!自己紹介がまだだったね。俺は折原慧也、臨也のヤツが君の事シズちゃんって言ってたからそのまま使っちゃった。悪いね。君の名前は?」
「平和島、静雄です」

静雄君、静雄君ね。慧也は名前を吟味するように呟いていると不意に携帯の音が響く。音の発信源は慧也の携帯であったが、直ぐ目の前にいた静雄とトムも反射的に自分の携帯に手をやってしまった。
慧也は携帯を開くと「あ!」と声をあげる。

「もうこんな時間か!それじゃあね、静雄君」
「あ、はい」

そう言って手を振って立ち去る慧也に静雄は会釈をして見送った。

こうして暫くの間、ダラーズを含めた池袋関係の掲示板を所謂炎上させる事になるのだった。

曰く、『黒尽くめじゃない折原臨也と平和島静雄が仲良さそうに話していた』と。



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