log3/花待りか



慧也は優しい兄だった。両親が仕事で忙しい時、いつも傍にいてくれたのは慧也だった。1つしか歳が違わないのに、慧也はとてもしっかりしていて、臨也は慧也が弱音を吐いたり、寂しがって泣いたりといったところを見たことがなかった。

『エリヤくんはなんでもできるのね』
『偉いなあエリヤ』
『エリヤ、さすがだな』
『エリヤ』
『エリヤ』

国語も算数も社会科も、体育だって音楽だって、慧也は誰より秀でていた。けれど慧也は少しも威張らない。皆に優しく、人望もある。臨也はそんな兄のようになろうと、頑張って何事もこなして来た。だがいくら良い成績を取ったって、「やっぱりエリヤの弟だね」としか言われないのだ。兄は悪くないのはわかっているが、嫌気がさしたことも何度かある。

(…慧也…兄貴のやつ、…シズちゃんと会うなんて、想定外だ。そもそも日本になんで戻ってきたんだか…)

慧也が買ってきたビールに再び口をつけるが、どうにも苦かった。慧也は成績優秀のまま中学へあがり、当然のように生徒会に推薦され、3年の時には生徒会長にまでなった。相変わらずの人の良さ、加えて整った男前な容姿。更に高校は私立の進学校へ進学、更に更に外国の有名な難関大学へ。できすぎた兄だった。

(今は…どこだったっけ、ニューヨークか)

大学を卒業して、今はニューヨークに住んでいるのだったと思う。毎日両親と共に忙しく飛び回っているはずだが。臨也はぐいとビールを喉に流し込んだ。そういえば、静雄はこのマンションまで来ていたというのに、上にはあがってこなかった。慧也と何を話したのだろう。気になって仕方が無かった。





「Goodm…違った、おはよう、臨也」
「…Goodmorning,bro」

わざと発音を良くした英語で返し、欠伸をしながら臨也はリビングへと出てくる。慧也はといえば、既に私服に着替えてテレビを見ていた。胸にブランドのロゴが入ったターコイズ色のポロシャツに、スキニーのジーンズ。細くて長い足が際立っている。手首にはイタリアの高級ブランドの細い腕時計だが、何故かいやらしくは見えないのだ。

「昨日は悪かったね、急に押しかけて」
「…別に構わないけど、今日は何か予定は?」
「うーん、休みもらったはいいけど何も考えてなくって。ま、俺は今日のうちに池袋の実家に移るよ。クルリとマイルにお土産も…って、あ、おまえに渡してなかったね!」

ちょっと待ってて、と慧也は走ってゲストルームに一度引っ込むと、何かを手にして戻ってきた。臨也は嫌な予感がした。慧也はそれをどんっとテーブルに置いた。

「やっぱこれしか考え付かなくてね…アメリカっぽいだろ?」
「……どうしろって?」

チョコとかコーヒー豆とかあっただろ!と臨也は心の中でつっこまずにはいられなかった。テーブルに置かれたのは20cmほどの自由の女神像。兄の慧也はオシャレで頭も良いが、おみやげには活かされてないようだ。



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