log16/はやし



慧也が池袋で静雄と別れた少し後、新宿の臨也のマンションで携帯が着信を知らせる音楽を流す。
一面ガラス張りである窓側のデスクの定位置で、臨也はそれを手に取るが表示された名前を見ると顔を顰める。
携帯を取った癖に鳴りやまない着信音に、ファイルを黙々と整理していた波江は怪訝そうな表情で雇い主を見る。

「ねぇ、出ないなら早く切ってくれる?」

鬱陶しくて仕方がないわ、その着信音も今の貴方も。
波江は言外にそう告げると視線を手元のファイルに戻し、再び作業へと戻った。
そんな波江の言葉に臨也は肩を落として息を吐くと、意を決したかのようにデスクチェアから立ち上がり、窓辺へと寄りながら携帯をスライドし通話ボタンを押す。
相手は駅のホームにいるのか、人のざわめきや電車の発車音が聞こえてくる。
駅のアラーム音が馴染みのある音楽で眉間に皺が寄った。

「…帰ったんじゃないの?何か用?」
『酷い言い草だな、これから成田に向かうところだよ。今はまだ池袋。』

電話の相手は慧也で、相手の口から出た地名に眉間の皺がさらに深くなる。
池袋にいたということは慧也のお気に入りである静雄に会いに行ったのだろう。
そう思うと気分が下がった。目の前のガラスにはいっそう険しい表情になった自身が映る。

『静雄君と喧嘩したんだってね。彼、気にしてたよ?』
「それだけの用事で電話してきたんなら切るよ」

やはり静雄と会っていたのか、と嫌な予想が当たり態度が一気に硬化した。これ以上話していてはいけないと思い、早口で切る旨を告げる。
元々、慧也に対してあった苦手意識が、静雄の話題で更に倍増していた。
慧也もそれを分かっているのか、電話口で苦笑する。

『意地を張るのも良いけど、大概にしておかないと本当に嫌われるぞ』
「五月蝿い。兄貴に関係ないだろ、本当に切るから」

五月蝿い五月蝿い本当に五月蝿い。そもそも自分と静雄が仲が良かった事などないし、嫌われているといえば出会った
高校時代の最初から嫌われている。今回の事で、自分がらしくなく怒鳴りちらしてしまった原因はそもそも慧也だ。
思考がだんだんと八つ当たりじみてくる。

『次に俺が来るまでには仲直りしておくように』

そんな臨也の心情などお構いなしに、慧也は臨也が電話を切るより早く言い切り、通話を終わらせてしまった。

「は?ちょっと…!」

何でそうなる!
臨也の反論に返ってくる答えはツー、ツーという機械音。

「次って…また来る気なのか」

携帯から耳を離すと、携帯を持っていた手をぶらりと下ろす。
額を一面にはめ込まれた窓ガラスにぶつけたゴツリという音に、波江は一瞬だけ視線を臨也の方に向けただけで再び手元のファイルに集中する。

ガラスに額をつけたまま臨也はズズズと顔を動かすと、沢山のファイルが敷き詰められている本棚が目に入る。
その一角には、慧也が土産と称して持ってきた20cmスケールの自由の女神像がポツンと佇んでいた。



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