log14/はやし



ぽつぽつと幾つかの慧也と臨也にまつわる話を新羅から聞いた。
やはり聞けば聞く程に臨也の中で慧也とは第三者からみても明らかなコンプレックスの固まりのような存在であるようで、静雄は自らが臨也に投げつけた言葉の数々を後悔していた。
そうこうしているうちに結構な時間が過ぎていたらしい。
話に一旦区切りがつき、新羅がソファから立ち上がる。何だろうと静雄は新羅の動きを目で追った。

「コーヒー、すっかり冷めてしまったろ?淹れ直してくるから待っていてくれるかい?」

自身のカップと、静雄の前に置かれたカップにまだ半分以上残るコーヒーを指して言う。コーヒーを出されたばかりの時は温かそうな湯気が出ていたが、今はもうカップまで完全に冷めきっていた。
キッチンに向かおうとする新羅に静雄は慌てて冷めきったコーヒーを飲みほしカップを空にすると、自らも勢いよく立ちあがる。

「いや、俺もう帰るから。悪いな、こんな時間まで」

早口にそう言うと、玄関まで大股で進むと靴を履き新羅へと向き直る。

「え?ちょっと静雄」

遅れて後を追ってきた新羅が玄関まで来ると静雄は何とも複雑な表情を浮かべていた。
視線を足元へと外してもそもそと口を動かす。

「知らなかったっつっても、やっぱ言って良い事と悪い事ってあるよな…俺、臨也に謝らなきゃいけないよな…」
「静雄…きみ、」

臨也にそっくりそのまま返してやりたいね。とか、ていうか普段の臨也の事なんて忘れているだろ静雄。とか諸々の感想に新羅は肩を落として脱力してしまった。
しかし悪い事は悪いと認める事と謝罪をしようとする姿勢は静雄が人間的に真っ直ぐに成長した証であり、昨今の若者に失われがちのそれは誇れる部分だという事を新羅は誇らしくも思う。

「臨也に言えるといいね」
「そうだな、それじゃあ」

そう言って出ていった静雄を見送った新羅は、静雄がエレベーターに乗り込んでいくのを見送ると玄関のドアを閉めた。



そこからまた何日か過ぎた週末の池袋。結局あれ以来、静雄は臨也を見かける事がなく謝る機会を逃している。
その事にもやもやしないでも無かったが、静雄は一応社会人の端くれ。仕事があり、そればかりにかまけていられないのも現実である。
ここ数日浮かない顔をしている静雄にトムが「大丈夫かぁ」と声をかけ、静雄が返事をするよりも早く次の言葉が降りかかる。
ただし後ろから。

「や!静雄君」

振り返ってみれば池袋の60階通りでは少々浮いてしまうのではないかと思うような高級そうなスーツを身に付けた慧也が立っていた。

「慧也さん、」

このタイミングで会ってしまうのは少々気まずいな、と思いながらもどこかホッと気が抜けてしまうのを静雄は感じた。

「えと、今日はスーツなんですね」
「あぁ、これ?今日これから向こうへ帰るんだけど、その前にこっちにある支社に顔出しに行っててね。2週間て意外に早かったなぁ」

帰る?
慧也の言葉に思わず「え?」と声が出た。

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