log13/花待りか



「ああ、うん、いたいた!えーっと名前はなんだったかな…」
「…慧也。折原、慧也」
「そうそう、エリヤだ、思い出したよ」

コトンと静雄の前に砂糖たっぷりのコーヒーが置かれる。セルティは仕事に出かけているらしく、留守だった。先ほどまで新宿にいたのだが、臨也がどこかへ消えてしまったので、静雄は池袋へ戻ってきていた。臨也があんな風に、「黙れ」だなんて言うのを静雄は聞いたことがなくて。そして、あの泣きそうな表情。

「僕も詳しくは知らないよ?まあ、すごく人気者だったってことくらいかな」
「…どっちが?」
「お兄さんだよ」

静雄はだろうな、と心の中で頷いた。新羅は机に肘をつき、懐かしそうに話す。池袋駅から、気づくと静雄は新羅のアパートへ向かっていたのだった。新羅は臨也と同じ中学だったし、兄の慧也のことも知っているかもしれない。何か話を聞くことができないだろうかと訪ねれば、新羅は快く家に入れてくれたのだ。

「僕らが入学した時は既に生徒会役員として、入学式のスピーチをしていたよ。生徒会選挙の時もダントツで会長当選だった。先生ウケもよくって、男女問わず人気のあった人だったなあ」
「へえ…」
「運動神経抜群、成績も良かったみたいだよ。けど僕は一度も話したことないんだ。臨也もお兄さんの名前を口にしたことはなかったしね」

静雄はいただきます、とコーヒーをそっと啜った。新羅の家に来るのも久しぶりだと思う。新羅もコーヒーを飲みながら、じっと静雄を見つめた。

「ていうか僕はそんなお兄さんと静雄が知り合いだったってことが驚き」
「前に臨也のマンションに行った時たまたま会って…臨也と間違えて殴りそうになったんだ。よく見たら違って…あん時は危なかった。…そっから、ちょこちょこと…向こうからも話しかけてくれて」
「ま、当時からよく似てる兄弟だったよ。中身はまるで違ったけどね」

新羅は苦笑しながら言う。静雄の胸はチクリと痛んだ。先ほど自分が臨也に放った言葉が過ぎる。

「…仲、悪かったのか?慧也さんと、臨也は」
「よくはなかったはずだよ。…臨也だって勿論成績優秀だったけど、上にお兄さんがいるんだもん。おもしろくなかったんじゃないかな」
「……そうか…」
「…どうかした?静雄」

静雄の顔が俯きがちなことに、新羅は気がついた。静雄ははっと顔を上げたが、その表情は硬い。新宿に行ったと聞いているが、臨也と何かあったのだろうか。

「…俺、…無神経なこと、言ったかな…」
「え?」
「いや、……臨也の様子、おかしくて。…あんな臨也、初めて見た…から」

少し気になって。静雄はぼそぼそと話し始める。臨也は何故、あんな表情をしたのだろうか。その本当の意味はわからないが、静雄の言った言葉に理由があるのだろうとは思う。

「何か言ったの?」
「…慧也さんのこと。…臨也とは、全然、似てないって…」
「…あれで臨也も、…なんていうか…」

困った奴だね、と新羅は笑った。静雄がそんなに思い悩むことないよ、と新羅は優しく言ってくれたが、静雄の心はなかなか晴れなかった。


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