log10/はやし



慧也がセルティと別れて再び池袋へと戻って着た頃、臨也も週末の池袋に足を踏み入れていた。
平日でも人がごった返している池袋は週末ともなれば更にその数を膨れ上がらせる。臨也は池袋を訪れる人々が繰り出す営みを観察しつつ、自身の持つ情報を使ってトラブルの種を蒔いて過ごしていた。
静雄のみならず、慧也という制御不能の駒が増えた事による憂さ晴らしも含まれるそれはいつもよりも盛大にばら蒔かれたが。
それらが芽吹くのを「楽しみだなぁ楽しみだなぁ」なんて心の中で繰り返しながら携帯を弄り、臨也は軽快なステップで60階通りに足を踏み入れる。がすぐに足を止める事になった。

通りの角にあるファーストフード店が目に入り、そういえばこの時間帯はシズちゃんが窓側のテーブルに居ることが多いんだよな…。見付かると面倒だと思いながら臨也は通りの反対側から店内を窺うように見やり、そして顔を盛大に引き攣らせた。

静雄は確かにいつものテーブルでシェイクを手に座っていた。が、いつもは一人もしくは上司といる静雄がそのどちらでもなく、慧也と一緒にいる。
サングラスをかけている為に慧也の表情は窺い難いが楽しそうに静雄を眺めていて、何かを静雄に向けて口にした。
言われた静雄は慌てたように顔を赤くし、手元のシェイクと慧也とを交互に見てしどろもどろに言い訳をしているようでそれを慧也が楽しそうに手を振りながら言葉を続かせる。
自分と同じ顔が静雄と和やかに話している。臨也にはそれが非常に楽しくないものに映った。
手に持っている携帯がギシリと音をたてた様な気がして臨也はハッとして、携帯をポケットに滑り込ませる。
早くこの場から立ち去りたいが足が動く気配を見せないし、目は2人から離せないでいる。
自分とほぼ同じパーツの顔である慧也に照れたり笑ったりという表情を見せる静雄に臨也はふつふつと湧き上がる苛立ちを感じた。その苛立ちがどこからくるものか、それを考えるだけでも怒りがこみ上げてくる悪循環に見舞われる。

慧也に何かを聞かれたらしい静雄が驚いたような顔をしたかと思うと、困ったように眉を下げる。手元のシェイクに視線を落とした後、不意に外へと視線を向けたのに臨也はぎくりとする。
今まで動こうとしなかった足は逃げるように人ごみの中へと向けた。人の多い60階通りだ。静雄から臨也は人の波で埋もれていて一瞬では見つける事は出来ないだろう。そう思うも、臨也は早足でその場から立ち去る。
先程まであちこちで蒔いてきた騒動の種が目を出すのを見届けようと高揚していた気持ちはすっかり下降してしまった。
今日はもう新宿へと引き上げる事にしようと臨也は駅へと歩き出した。


「そういえば、臨也と犬猿の仲…なんだってね?」

聞かれた静雄は驚いたように身体を揺らすと、慧也を見る。
何と言えば良いのか。
貴方の弟とは高校の頃から凄く仲が悪いんです実は。とは本人が聞いてきた事とはいえ非常に言いにくい。
それに臨也と似た顔をしている慧也とは今普通に話が出来る。なのに臨也とは出来ない、何故だろう。そんな思考が巡りだす。疾しい事などないが静雄は慧也を正面から見る事が出来なくなり、手元のシェイクをじっと見つめた。
ふと何かを感じた静雄は顔を上げ、外を見る。しかし何を思って外を見たのか分からない静雄は目的のものを見つけられる筈もなく首を傾げる。

「どうしたの?」

慧也の方も首を傾げ、急に窓の外の通りを見やった静雄に問いかける。

「いえ…臨也がいたような、気がして。でも気のせいみたいです」

そう答えると静雄は席から立ち上がり、それじゃあ俺、失礼します。と会釈をすると慧也はまたね、と手を振った。
答えを濁してしまったが、どうやら慧也もそこまで追及するつもりではなかったらしい。
それに感謝しながら静雄は早足で店内から出た。
外には臨也が蒔いたトラブルの種が今か今かと芽を出そうとしてる。数時間後にはトラブルの渦中にいる事になるが、まだ静雄が知らない。


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