log9/花待りか



『し、ず、お、く、ん』

静雄はず…と持っていたシェイクを啜りながら窓を見た。そこにはきらきら輝くようなお洒落な一人の男。サングラスをしていて一瞬誰だかわからない。静雄がきょとんとしていると、男は少し笑ってサングラスをずらして見せた。そこで静雄は記憶を辿り、一人の思い当たる人物を導き出す。

(あ、臨也の……なんだっけ、名前…エリ…そうだ、エリヤ、)

静雄がわかったような顔をすると慧也はにこりと微笑み、店の入り口へ回った。コーヒーだけ注文し、熱そうに淵を持ちながら静雄の席の方へやってくる。静雄は何故か緊張した。

「向かいの席、いいかな?」
「、はい」

ありがと、と呟いて慧也は静雄の向かい側の席へ座る。どさりとブランドロゴの入ったショッピングバックたちを横に置き、細い指でコーヒーへクリームだけを入れてかき混ぜる。慣れた手つきだ。慧也はテーブルに肘をつき、その手に顎を乗せてじっと静雄を見た。

「…シェイク好きなの?」
「え、」
「カワイイね」

薄い唇が紡ぎだすその言葉に静雄はぽかんとしていたが、自分の手にあるバニラシェイクを見てはっとする。顔が赤くなるのがわかったが、慧也はくすくすと笑っていた。

「あ、い、いや、その、…」
「、ふっ、はは…俺は素直にそう思ったから言っただけで、別に君をからかうつもりはなかったんだけどな」

慧也はサングラスをはずさないまま、コーヒーを一口飲んだ。はずして誰かに気づかれ、臨也と間違えられてまた掲示板とやらに書き込まれては大変だ。…あれはきっと臨也も見ているだろうし。臨也は今のところ何も言ってはこないが。

「静雄くん、今日は休みなの?」
「え、あ…はい。…臨也の兄さんも…?」
「慧也でいいよ。ま、俺はしばらく休みっちゃあ休みかな。だからこっち…日本にいるわけだし」

間近で見ると、本当に雑誌やテレビからそのまま抜け出してきたくらい格好いい男だと静雄は思う。横や後ろの女性客からの視線を静雄は感じていた。

「…慧也さん、は…外国に住んでるんスか?」
「うん、ニューヨークにね。高校卒業してアメリカ行ってね、今住んでるのはニューヨーク。うちの両親は貿易商でさ、その手伝いをしてるんだ。もー毎日大変なんだよ〜」

慧也は苦笑して話す。頭もいいのか…と静雄は目の前の男が実はとんでもないできた人間であるのではないかと疑う。臨也の兄とはいえ、何故こんな自分なんかに絡んでくるのだろうか。裏があるようには見えないし、ただ単に自分が臨也の知り合いであるから、だろうか?

「静雄くんはバーテンさんの仕事?」
「、……い、いえ。あれは前の職場の…」
「へえ、…よっぽどバーテン服に思い入れがあるの?」
「…お、弟がくれたんで…着てるんです…」
「優しいんだね」

またふわりと微笑む。慧也の笑顔がなんだか静雄はとても暖かいものであるように感じた。臨也の笑顔とは違う、明るく幸せな笑顔だ。

「いや…俺なんて、そんな、優しくも……弟のこと、裏切っちまって、」
「でも今の仕事をちゃんと頑張ってるんでしょ?」
「…まあ…」
「偉いと思うなぁ、俺は。…弟くんとも仲が良いの?いいね」

慧也は苦笑すると、何かを思い出したように「あ」と呟いた。静雄は顔を上げる。

「そういえば、臨也と犬猿の仲…なんだってね?」

静雄はぎくりとする。慧也のサングラスの奥の瞳は見れなかった。


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