log8/はやし





ライダースーツの女性が明らかにピシリと固まった。かと思えば慌てた様な取り乱した様な態度で、再びやはりこちらが驚くような速さでPDAで文字を打っていく。
サングラスをかけている時は気付かなかったが、指先から黒いもやが溢れてPDAへの入力を補助しているようにも見える。
思わずまじまじを凝視する慧也に気付かない程、目の前の女性は気が動転しているようだった。

PDAを再び慧也の目の前に掲げた女性は『どうしたんだ臨也?!』に始まり、『何か悪いものでも食べたのか』と体調をひとしきり心配され、『とうとう静雄と仲直りを…』と感慨深げにしていたかと思うと、有り得ない!とでも言うように黄色いフルフェイスのヘルメットをぶんぶん激しく振り、『やっぱりおかしいぞ臨也!』と振り出しに戻ってきた。
慌ただしくPDAに文字を入力して突き出して、下げて、を繰り返すのをほとんど反応する事が出来ずに慧也は呆然と目の前に出される画面の文字を追う事しかできない。
慧也は、尚も言い募ろうとPDAを差し出してくる手を遮り、右手を前に出して「ストップ」のポーズを取った。
一旦、入ってくる情報を遮断する。右手は下ろし、空いている左手で眉間を押さえると、とりあえずこの女性が臨也と静雄を良く知る人物だろうと言う事で思考を纏める。
そこで、はたと思いついた慧也は改めて女性の方を向いたのだった。




早々に臨也ではない事を証明をして、訪れたのは公園だ。
本当は喫茶店にでも、と思ったが、女性が自身がフルフェイスであるからと固辞した為だ。
事情を知らない慧也はヘルメットを取ればいいじゃないかと思ったが、事情は人それぞれあるものだ。深くは言及せずに、彼女の希望で公園のベンチと相成った訳である。
女性はセルティ・ストゥルルソンと名乗り、事情がある為、喋る事が出来ず会話がPDAを通すことを改めて詫びられた。

セルティは臨也と静雄の事は2人が学生であった頃からの知り合いであるらしい。
が、慧也が臨也の兄である事を明かせばセルティは非常に驚いていた。
臨也は元々、自分の情報の開示したがる人間ではないし、慧也に引け目を感じているという事を少なからず慧也自身は気付いている。
自分に兄がいるという事は、まず進んで言う事はないだろう。
セルティの話では臨也と静雄が出会ったのは高校からで、それから現在まで犬猿と言っても良い程の仲の悪さだという。

「そう言えば、掲示板って何の?書かれてたっていうのは?」

忘れかけていたが、セルティは慧也に話しかけた時に掲示板がどうとか言っていなかったか。
それを慧也が口にすればセルティも思い出したように『ちょっと待ってくれ』とPDAを操作し、これだ!と目の前に差し出す。

『池袋の話題を中心とした掲示板なんだけど、』

と数日前の日付で発言がされているログを見せてくれたのを、慧也は読み込んでいく。
日頃から仕事でパソコンを使うので、読み込んでいく速度は早く1スレッドをさっと読み終えてしまった。
ありがとう、とPDAをセルティに返す。だいたいは1スレで2人がどれほど仲が悪いかは理解できて、これから仕事だというセルティと別れる。
セルティを見送った慧也もしたかった買い物なんかはほとんど終えていたので、大人しく山手線に乗り池袋へと戻ることにした。

池袋駅のやはり東口から外に出る。サングラスをかけなおしているので折原臨也と間違えて周囲が緊張状態になることもない。
ふと横切ろうとしたファーストフード店の窓側の席に見覚えのある金髪長身の姿を見つけた慧也は笑みを浮かべ、前まで移動するとガラス越しにコンコンとノックした。



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